池田エライザ、中田秀夫監督との最恐タッグ作「貞子」で垣間見た“ホラーの正体”

2019年5月21日 18:00


取材に応じた池田エライザと中田秀夫監督
取材に応じた池田エライザと中田秀夫監督

[映画.com ニュース] 見た者は1週間後に呪い殺される「呪いのビデオ」の恐怖を描いた「リング」が、日本を席巻したのは1998年のこと。同作で人々の“恐れ”を吸収し、ホラーアイコンとしての地位を確立した貞子は、日本だけでは飽き足らず、強大な呪いを海外へと拡散していった。シリーズ誕生から約20年、彼女の名をストレートに使用した最新作「貞子」は、原点回帰を重視しつつも、現代性も取り入れている――まさに“ハイブリッド版”と言えるだろう。約14年の時を経てシリーズに復帰した中田秀夫監督は、“ホラーヒロイン”としての素質を持った池田エライザとともに、恐怖のアップデートに成功したのだ。(取材・文/編集部、写真/間庭裕基

リング」「リング2」、そしてハリウッド版「ザ・リング2」を手がけてきた中田監督。今回のオファーに際して重要な転機となったのは、英勉監督作「貞子3D」と向き合った時だった。「(同作は)まるで童心に帰ったかのように楽しめたんです。3D映画を見るのも初めてでしたし、意図的に入った笑える要素もエンタテインメントとして鑑賞できました。その時、僕は貞子の生みの親ではないんだけど『あ、自分の手を離れたな』と感じたんです。当時、Jホラーは今後どういう方向に行くのかと考えていましたから『なるほど、こちらに行ったのか』と。良い意味で『自分には真似できない』という“距離感”があったんです」と振り返った。

演技力、遠目からでも映える立ち姿、そして“ホラー映画が要求するフォトジェニックさ”を兼ね備えた池田が対峙するのは、SNS時代に現れた「撮ったら死ぬ」貞子の呪い。「命に関わるお話なので、演じている時は気分が重たかった」と話しつつも、作品が完成した今だからこそ「貞子」の本質を見抜いていた。

貞子に共鳴してしまった!?
貞子に共鳴してしまった!?

池田「冷静に考えてみるとシュール、少し気を抜いたら笑ってしまう部分が、きちんとホラーとして成り立っているポイントが多いんですよ。この感覚は初めてのもの。ホラーの“正体”を少しだけ見たような気がしています。“笑う”と“驚く”という表現は、芝居のなかでも本当に難しい部類のもので、嘘をついてもばれてしまいます。常に感度をあげ、もしかしたら笑ってしまうかもしれないギリギリのラインで演じていく――『貞子』独特のお芝居の方向性だったのかもしれません」

確かにホラー作品で巻き起こる事象は“ありえない”ことばかりだ。思わず笑ってしまいそうなシチュエーションを、どう恐怖へと転化させるのか。その全ては、メガホンを握る監督の手腕にかかっている。池田の発言を隣で聞いていた中田監督は「仰っている意味と少しずれるかもしれませんが…」と前置きしつつ、「リング」製作時に経験した出来事を語り出した。

中田監督「『リング』の台本だけを読んでもらい、取材を受ける機会があったんです。ジャーナリストの方々は、うっすらと笑っているんですが、それは“良い笑い”ではなかった。なぜなら『貞子がテレビから出てくる』というト書きがあったから。原作にもない要素でしたし、それだけを読むと『え?』となるわけです。この“テレビから出てくる”という描写は、一発ギャグと隣合わせ、笑いと紙一重なんです。皆が『怖いわけがない』と感じていたはずですが、だからこそ『(恐怖によって)皆をのけぞらせたい』という欲求がたまっていました」

98年、テレビから這い出てきた貞子を見た者たちの表情に笑みはなく、一様に強張ってしまったことは、誰もが知るところだろう。中田監督の勝利だ。その後「ザ・リング」「ザ・リング2」「ザ・リング リバース」で世界を震撼させ、「貞子vs伽椰子」では「呪怨」の伽椰子との共演を果たした貞子。誕生から約20年の時が経過しても、彼女の名前が風化することはない。動画クリエイター志望の弟・和真(清水尋也)の不可解な失踪、そして“貞子の生まれ変わり”と称される少女と向き合うことになるヒロイン・秋川茉優を演じた池田は、本作での貞子をどのような視点で見ていたのだろうか。

池田「茉優として現場に立っていたせいか、どうしても共鳴してしまう部分があったんです。圧倒的なバーサーカーの知られざる一面、なぜそうなってしまったのかということを知ってしまうと、見え方が変わってしまいます。そのような“裏側”が見えてしまうと、恐ろしいとはわかっていても同情してしまう。その一方で、やはり同情したら負けなんですよね。同情したところで呪いの対象から逃れられるわけではないから……。“見てはいけないもの”から目が離せないという感覚がありました」

約14年ぶりにシリーズ復帰!
約14年ぶりにシリーズ復帰!

一方、中田監督は貞子の“ドライ”なイメージを軸に、その恐怖を分析してみせた。

中田監督「貞子はある種“渇いている”存在。『リング』『リング2』が当時なぜ受け入れられたのかというと“恨めしさ”がないからなんですよ。例えば『四谷怪談』のお岩さんは、自分の夫だけに祟ります。しかし、貞子は母・志津子を追い詰めたメディア、社会全般を恨めしいとは思っていますが、実際に呪い殺す相手は“ビデオを見た人”。そこに自分の感情は差し挟まず、勝手に(ビデオを)見るなり、助かるなりしてくださいと。そして、無差別に祟りちらす。この点が、伝統的な怪談とモダンホラーのシャープな違い。(『貞子』は)初めて貞子に触れる人たちにもアピールできるように努めたつもりです。初めて見るからこそ“原点”を見せなければいけなかった」

そして、Jホラーの今後について問いかけると「あえて言うならば“ホラーは不滅”と思っています」と答えた中田監督。「怖いものを見たいという欲求は、本能に根ざしているもの。原初的な動物でさえも、不安や恐怖というものは持っていますよね。“動物脳”と言えばいいのかな、人間はそこにある不安と恐怖を刺激されたがっているんです。上手い具合にその部分を刺激し続ければ、皆が面白いと思ってくれるものが出てくるのかなと思っています」という発言に、池田も深く頷いてみせる。彼女もまた“ホラーの不滅”を信じる者のひとりだった。

池田「『貞子』が最先端のホラーだったとしても、これから本作を知らない世代が生まれてきます。でも、怪談話、学校の七不思議、そして『リング』シリーズにも言えることですが、人間の癖として怖い話を共有、伝承していくというものがある限り、私も“ホラーは不滅”だと思います。それに動画配信サイトには、心霊スポットに突撃する内容のものがアップされていますが、膨大な再生数です。刺激を求め、コメントも残す人々がいる――手軽に“怖いもの”を見れる状況になりつつありますし、『ホラーを見たい』と考える人の数は、今と比べても変わっていかない気がしています」

貞子」は、5月24日から全国公開。

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呪いのビデオを巡って展開する恐怖を描いたモダン・ホラー。監督は「暗殺の街」の中田秀夫。鈴木光司による同名ベストセラー小説を、「暗殺の街」の高橋洋が脚色。

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