脱走兵が独裁者と化す衝撃実話「ちいさな独裁者」監督、観客に問う!「自分だったらどうする?」
2019年2月8日 16:00
[映画.com ニュース] 第二次世界大戦末期に起きた衝撃の実話を描く「ちいさな独裁者」(公開中)のロベルト・シュベンケ監督が、来日を果たした。「RED レッド」や「ダイバージェント」シリーズなどハリウッドで活躍するシュベンケ監督は、「脱走兵が大尉に成りすまし、大量殺戮を行っていた」という恐るべき物語に、どのような思いで挑んだのか。映画.comでは単独インタビューを行い、紐解いていく。
1945年4月、終戦まであと1カ月に迫り配色濃厚なドイツでは、兵士の軍規違反が相次いでいた。命からがら部隊を脱走したヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は、捨てられた車両の中で軍服を発見。それを身にまとって大尉に成りすまし、道中出会った兵士たちを次々と服従させ親衛隊のリーダーとなっていく。
シュベンケ監督にとって、本作は母国ドイツで久々に製作した作品。それゆえに、思い入れも特別だ。「この映画は、大きな意味で人間の本質と向き合っている作品だと思う。我々に起こりうる、起こす可能性のあることが描かれているので、今日的な映画でもあるんだ」と総括したシュベンケ監督は、「人というのは、『自分はこんなことしない、違う』と思い込む力があって、それはすごく危険なことだと思う。『自分にもそういったことは可能だ』と意識しないと、それに対して戦うこともできない。一般市民が持ち寄る勇気の物語の映画でもあると思うし、個人の選択についての映画だとも思う。誰も『ノー』と言わないとどうなるかを描いている映画でもあるね」と続ける。
脱走兵が服を着たことで独裁者に変貌していくさまは、シニカルを通り越し、鳥肌が立つような恐ろしさを覚える。だが、監督は「説教くさい歴史レッスンにはしたくなかった」と強調。「サスペンスがあることも重要だったし、コメディ部分も少しある。間違いなく見ている方を楽しませたいという意志のある映画だと思っているよ」と、“娯楽性”に重きを置いたと語る。
そのうえで重視したのは、主観と客観の絶妙なバランスだ。シュベンケ監督は「ストーリーテラーとして、キャラクターを裁くような目線で作り上げることはできない。愚かなキャラクターというのは行動の結果であって、その“プロセス”を演じないといけないんだ。(愚かなキャラクターだと)裁いてしまうと、もう演じることはできない」と独自の“創作術”と“演技論”を明かす。
「人間というのは朝、『今日は悪事をはたらくぞ』と思って起きるわけではない。我々には、最悪な行動を起こしてもそれを正当化する能力が備わっているんだ。だからこそ、キャラクターを作る際には、朝起きて仕事に向かわせるものが何なのか、どんなことを考えているのか、行動の道のりを抑えていないといけないため、常に掘り下げることが必要なんだ。映画に登場する前の人生含めてきちっと細かく考えて作らなければいけない。そして、いいとか悪いとか裁いてはいけない。裁いた瞬間に、せっかく主観的だったものが客観的になって距離ができてしまうからね」。権力を手にした人間の恐ろしさに切り込んだ本作だけに、人物描写には細心の注意を払って描いていったようだ。
「僕はこの作品を、内から外を見るような映画にしたかった。自分だったらどうするのか自問自答してもらいたい。多くの映画というのは、優しい抜け穴があるものだ。暴力を描いている映画でも息を抜ける軽妙なシーンがあったり、道徳的なメッセージが挿入されてバランスがとれる作品が多い。でも、この作品はそういう抜け穴がない。みんなにガッツリと見てほしいよ」。
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