中国の不正入試事件が題材 集団カンニング描くタイ映画「バッド・ジーニアス」監督に聞く
2018年9月21日 15:00

[映画.com ニュース]中国で実際に起こったカンニング事件をモチーフに製作されたタイ映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」が9月22日公開する。天才少女を中心とした高校生チームが世界規模のプロジェクトに挑む姿を描き、同国で大ヒットを記録したクライムエンタテインメントだ、来日したナタウット・プーンピリヤ監督に話を聞いた。
「まず、時差をつかったカンニングの事件があったというニュースをプロデューサーから聞いた時に、ただ“カンニング”という言葉を聞いただけでもなにかワクワクしてしまうものがあるのに、さらに時差を使うとは、すごいミッションを成し遂げたなと思いました。元々ハリウッドのスパイ映画やアクション映画が好きで、特に『ミッション:インポッシブル』シリーズをよく見ていたこともあり、この題材を使って、スパイやアクションの要素をもった映画作品を撮りたいと思ったのです。またカンニングというテーマは、タイ人やアジアの人々にとってすごく身近な、実際にあり得る題材なので、そのテーマで映画を作りたいとも思ったのです。タイでは大げさではなく、現実にあり得る題材なのです」
「実話をモチーフにしました。実際に題材にしているのは、『ある国の学生たちが時差を使って別の国に行きカンニングをした』という、その事実だけです。それ以外の、例えばストーリーやキャラクター、物語のテーマ、デティールについては全て自分たちで考えました。これはとても挑戦的な仕事となりました」
「最初にカンニングの映画を撮るということで、カンニングをするチームのリーダーは、頭の良い子が主人公であるべきだと考えました。作品の主人公には、すごくヒーロー性が必要だと考えていたので、ずば抜けて勉強のできる天才的な人物を主人公に選んだのです。ではなぜそれを女性にしたかというと、もともと私自身が、女性が主要な登場人物として出てくる映画が好きだったからです。女性は考え方も感情もすごく複雑なので、監督の立場として、その感情を探って映画にしてみたい、と思っていました」
「キャスティングをするときの考え方として、有名か俳優か無名かといったことは全く気にしていません。そのキャラクターや脚本にあう役者を選ぶことをいつも大切にしています。彼らが映画に選ばれたのはタイミングがあったからでしょう。新人俳優だからということで選んだわけではありません。キャラクターにあった役者を選んだのです。そして、この作品の主要メンバーである4人はほとんど有名でなかったことが逆に良く、すごく新鮮で、ナチュラルな演技をしてくれたと思っています」
(C)GDH 559 CO., LTD. All rights reserved.「まずこの映画の企画をプロデューサーから提案された時に、単純に楽しいものにしよう!と話し合いました。例えばカンニングシーンは、最高にワクワクするようなアクションシーン風に撮りたいと決めました。また現代の若者に、タイの教育システムについてリサーチしていくと、タイの教育システムの中には様々な問題があることが分かりました。私が学生の頃とは違って、社会の急速な変化に伴い新たなる問題が生じていたのです。そういった問題を浮き彫りにし、この映画を通して観客に見せるいい機会だとも考えたのです。ただそれだけではなく、やはり楽しく刺激的な部分というのは絶対に残しておきたいと思ったので、この3つのバランスをとりながら脚本の推敲を重ね、完成したのが書き始めてから1年半後になったのです」
「現代のタイの教育システムの中では、子どもは勉強ができることが一番大事という価値観があります。でも実際は、子どもというのは勉強以外のほかの分野に情熱があったり、他の分野で才能があったりするかもしれないのに、そういったことは見落とされがちなのが今のタイの現実。なので両親も学校の先生も、勉強のできる子どもばかりに気をかけ、勉強のできない子は、その子なりに必死に親や先生に認められるようもがくように闘って頑張っています」
「一方で、勉強のできない学生が一定数いるということに着目し、お金を稼ぐビジネスにしようと考えている学生たちがいることもリサーチで分かったのです。また学校への賄賂や、親が子供を良い学校に入れたいがために学校に払うとか、そして教員にお金を払うと事前に答案を教えてくれるという不正がある。だからこそ、そういうことを知ってしまった主人公のリンは、大人たちが何一つとしてフェアではなく、ここまで汚いシステムに浸かっているならば、なぜ私がやってはいけないのか、と思い、立ち上がって、システムに対して、いわば闘いを挑むというスタンスとったのです」
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」は、9月22日から新宿武蔵野館ほかで公開。
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