【映画プロデューサー・北島直明を知ってるか!? 第4回】福田雄一監督だから成せる人心掌握術
2018年6月1日 13:00
[映画.com ニュース] 北島直明プロデューサーにとって、「コメディの奇才」と称されて久しい福田雄一監督とのタッグは「斉木楠雄のΨ難」に続き2度目となる。それも今回挑んだのは、王道のラブコメディ「50回目のファーストキス」。本連載としては初となる、北島氏と福田監督の対談を敢行。両者の魅力がみっちりと詰まった、笑いの絶えないトークの応酬を余すことなくお届けする。
北島「監督のすごいところって、キャストの乗せ方といったら変ですが、とにかく上手なんですよ。スタッフの乗せ方もすごい。だから、つらい撮影のシーンであっても、スタッフもキャストも高いモチベーションを維持して楽しく乗り切れてしまうんです」
福田「僕は段取りをやって、すぐに『本番!』ってやるんですが、それがいかに録音部に対して失礼かって話があるんです。段取りをやってカメラリハーサルがあるから、役者の音量をはかれるわけじゃないですか。だから、いきなり本番をやると言われたら普通は『待ってくれよ!』ってなる。『意味がわからないよ』って状況だとは思うんですが、割と皆が『やってみましょうか』となってくれている」
北島「福田組の凄さって他にも幾つかあるんですが、カメラは基本2カメ態勢で、なるべく役者に芝居を繰り返しさせない。録音部だけでなく、照明部だってちょっとライティング変えたいって事もあるはずなのに、組全体が“監督の撮り方”を理解して共有している」
なかでも、北島氏が「フォア・ザ・監督だな!」と舌を巻いたのは“美打ち(美術打ち合わせ)”だ。「『斉木楠雄のΨ難』の時が衝撃でした。美打ちって各部が集まって、脚本の1ページ目から最後にいたるまでを細かく打ち合わせしていくんです。エキストラが何人必要かとか、デイかナイターかとか…。6~7時間とか、へたすると12時間くらいかかる時がある。なのに2時間で終わっちゃったんですよ」と未だに驚きを隠せずにいる。
福田監督は「美打ちは嫌い」と公言するなかで、スタッフひとりひとりをプロとして扱う。「僕の基本スタンスとして、皆が皆、その仕事がしたくて集まっているわけじゃないですか。その人たちに、僕の狭い範囲の能力で“ああして”って言うよりも、それぞれが持つアイデアでやった方が総合体として面白いものが出来る。それって当たり前なんですよ。僕が“こうして”と言った時点で、それはもう絶対的な権力をもった監督の言葉として伝わるわけじゃないですか。そうすると、そこからの枠は絶対に出ない。『お任せします』と言っておくと、数日後に美術さんが得意げな顔をして『こんな風にしました』って報告に来て、『すげえいいじゃないですか!』って事が生まれたりするじゃないですか。福田組は、餅は餅屋ってのがポリシーなんです(笑)」
笑いを交えながら、スタッフへのそこはかとない愛情をうかがわせる福田監督だが、北島氏に対しても容赦のないツッコミを通じて、同様の愛情をにじませる。
「北島さんはね、最初は僕に対して疑念しかなかったと思いますよ。直前まで『銀魂』を撮っていて、オールアップして1週間で『斉木楠雄のΨ難』が撮入ですから。『銀魂』の撮休日に打ち合わせを組んではいましたが、『大丈夫かよ?』という思いはあったはず。さすがに美打ちはがっつりやるんだろうと思ったら、松橋真三プロデューサーにいたっては1時間後に別の予定を入れているし。クランクインの日はいつもの感じで、リハも程ほどにガン巻きして、暮れ待ちですよ(笑)。あのとき北島さん、なんか泣いていましたよね(笑)」
「福田組は、セオリーから全部外れているんですよ」と照れ隠しの笑みを浮かべる北島氏は、福田組に参加することで「映画の現場がこんなに楽しいんだってことを思い出させてもらいました。僕はもともと映画が作りたかったはずなのに、『斉木楠雄のΨ難』の撮入直前は、“映画を作るのは、どうしてこんなに辛いんだろう”って悩んでいた時期だったんです。あの日、映画を作る楽しさみたいなことを改めて気付かされたというか……。映画が好きだからこの仕事をしているはずなのに、逃げ出したいくらい辛い期間が続いていたんです。だから、心のどこかで“好きな仕事をしているんだから、辛くて当たり前だ”って自分に言い聞かせていたんですよね。そんな風に悩んでいたタイミングだったんで、福田組の初の現場は本当に衝撃だった。大人になって、自分の感情を整理できずに涙が流れるなんて思ってもみなかったですね」
さて、そろそろ話題を「50回目のファーストキス」へと移行することにする。ハリウッド版は、アダム・サンドラーとドリュー・バリモアの共演で大ヒットした2004年の「50回目のファースト・キス」。山田孝之と長澤まさみの共演で日本リメイクした今作は、ハワイ・オアフ島でツアーガイドとして働きながら天文学の研究をしているプレイボーイの弓削大輔(山田)と、事故の後遺症で眠ると1日で記憶が消えてしまう藤島瑠衣(長澤)の純愛を描いている。
リメイクするにあたり、主人公の男性が専門とする学問の設定を海洋学から天文学へと変更しているが、このアイデアを福田監督へ進言したのが北島氏だった。松橋プロデューサーとともに3人で出かけた横浜の餃子屋でのやり取りを想像すると、失礼ながら爆笑を禁じ得ない。
福田「北島さんが話したい事があるっていうから、松橋さんと3人で、僕が大好きな横浜の餃子屋へ行ったんです。そうしたら、なんか知らないけど『天文学の方が良くないですか?』というプレゼンを、気持ち悪いくらい汗をかきながら、息つく暇もないくらいに畳み掛けてくるんです。僕としては、自慢の餃子を早く食べてほしい。いっぱい食べると思って、ものすごい頼んじゃって、テーブルに焼き餃子、揚げ餃子、水餃子が並んでいる。『天文学? いいじゃないですか!』って返したのに、その後も天文学の説明を続けているわけですよ。徐々に『天文学でいいって言ったのに、どうしてこの人は餃子を食わねえんだろう』とイライラしてきてですね、その後も『餃子を食べてください。冷めちゃうと美味しくないんで』と言っても、『あのですね、星座っていうのはですね』って返ってくるもんだから『こいつ、やべえな』って(笑)。北島さん、多分2個くらいしか餃子食べてないはずですよ。そういえば、今回の撮影には全然来てくれなかったよね。『ちはやふる』をやっていたからさ」
北島「いやいや、違う、違うんですよ。そもそも、今作と『ちはやふる』の撮影時期が被っているのは分かっていたんです。でも、福田組だし、仕事をしてみたかった役者さんも出ているし、この仕事をやるべきかどうか、本気で考えたんです。その結果、無理してでもやろうって決めたんですよ!」
福田「その割に、台本を変えさせたのに3日くらいしか現場にいませんでしたよね。天文学にしたいっていうから『はいっ!わかりました!』って書き換えまして、いわば北島映画ですよ。でも結局、星よりもかるただったんだなあ。餃子屋で『ハワイといったら星なんですよ!』と熱弁していたのに、1回もハワイの星を見に来ねえなあ、あいつ! みたいな話になってね。本当に寂しかったから、まさみちゃんの動画を撮って送ったんですよ。『北島さん、すずちゃんと私とどっちが大事なの?』って(笑)」
北島「その動画を受け取った2日後にハワイへ行きましたよ。もうなんとか都合をつけて弾丸で。ところが僕も脇が甘くて、帰国して『ちはやふる』の現場に着て行ったのが、“アロハ”って書いてあるTシャツだったんです…。『ちはやふる』のキャスト・スタッフにも、色々突っ込まれましたよ」
延々と続きそうな掛け合いだが、北島氏の福田監督に対する敬意は本物だ。
「監督のことを本当にすごいと思ったのは、ダビングのとき。サウンドエフェクトエディターの荒川望さんが、監督の好みそうな音楽や効果を入れて、福田節というか笑いを強化したものが出来ていたんですね。そのとき、監督が『今回はそういう事じゃないから、面白い音は全部抜いてくれ』って。今回はラブストーリーというところにコアな魂を置いて、それに合わせてすごく引き算をされていた。その決断はものすごく早かったですし、監督の違う考え方に対しても迅速にアジャストしてくれた福田組のスタッフもすごい。撮影から編集、仕上げにいたるまでが福田組だと痛感しました。監督が組織論とか本を書いたら売れると思いますよ。経済書としてね。ひとりのカリスマがいて、それに皆が追随するっていう……」
「そのカリスマが、カリスマじゃないってのがキモかもしれないね。赤ん坊に近いっていう」。そう言い放ち、豪快な引き笑いを残して部屋を後にした福田監督が、北島氏という希有なプロデューサーと丁寧に撮り上げた「50回目のファーストキス」は、2018年初夏の映画興行を爽やかに盛り上げてくれるはずだ。(取材・文/映画.com副編集長 大塚史貴)
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