【映画プロデューサー・北島直明を知ってるか!? 第3回】かつて夢中になった原作を映画化することの意義
2018年4月27日 12:00
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[映画.com ニュース] 「ちはやふる 結び」を興行収入16億円超え(4月23日時点)の大ヒットに導いた北島直明プロデューサーだが、一息つく間もなく各所を飛び回り、慌しい毎日をおくっている。連載第3回となる今回は、北島氏がかつて夢中になって読み耽った人気少女漫画「ママレード・ボーイ」をいかにして実写映画化するに至ったのか、そして北島氏が尊敬する2人のプロデューサーの存在についてご紹介していきます。
「ママレード・ボーイ」(集英社刊)は、1992~95年に「りぼん」で連載されていた大人気漫画だ。それも、ありきたりな恋愛ものではなかったことが、現在でも多くの層から熱い支持を集める所以といえよう。物語は、2組の夫婦がパートナーを交換し共同生活をおくる様子と、各夫婦の子どもである光希と遊(桜井日奈子&吉沢亮)が織り成していく恋愛模様を描いている。
中学生時代に原作の大ファンだった北島氏だが、今作を製作するうえで浮上してくるのが2人のプロデューサーの存在だ。今作でエグゼクティブ・プロデューサーを務める小岩井宏悦氏と、プロデューサーとして名を連ねる松橋真三氏。これまでにヒット作、話題作を多く手がけてきているが、それが北島氏を魅了する最大要因ではない点が興味深い。
「プロデューサーという仕事をうまく回すために必要な要素が、幾つかあります。もちろん監督との相性はとても重要な要素。そしてもうひとつ、僕にとってすごく大事なのは、一緒に組むプロデューサーの存在です。製作の企画段階から組むプロデューサーもいれば、現場を回してくださるプロデューサーもいる。プロデューサーは我の強い生き物なので、お互いの主張がぶつかり合う事もあります。でも、『オオカミ少女と黒王子』で出会った松橋さんとは、今まで一度もぶつかった事がないんです。年齢とか肩書きによって、立ち位置って変わってしまうものだと思うんです。でも、松橋さんはいつも立ち位置が変わらない。ぶれない。一緒に仕事をする仲間と、同じ立ち位置で、同じ方向を向いている限り、ぶつかる事はないと学びました。仮にどちらかがぶれたとしても、常に隣に指針となるパートナーがいるから、自分の誤りにも気づける。4作品(『オオカミ少女と黒王子』『斉木楠雄のΨ難』『ママレード・ボーイ』『50回目のファーストキス』)をご一緒して一度もケンカしていないんですよ。僕はどの作品でも、本当に人に恵まれていますね」
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そして、小岩井氏に対しては「先生みたいな人」と形容する。小岩井氏は、フジテレビで「君といた夏」「ラブジェネレーション」「神様、もう少しだけ」「パーフェクトラブ!」など大ヒットドラマをプロデュース。2007年からワーナー・ブラザースへ移籍し、「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」をはじめとして多くの意欲作を手がけてきた。
「僕がガキの頃に夢中になって見ていたドラマを作っていたフジテレビのトップランカーが、テレビをやめて映画を作り始めた。経験に基づいた引き出しを山ほど持っていらっしゃる。その発想力は、本当に勉強になります。最たる例が、『ママレード・ボーイ』のキャスティングなんですよね。あれは、僕なんかの発想では出てきませんよね」
どのようなキャスティングかというと、中山美穂、檀れい、谷原章介、筒井道隆だ。1990年代にトレンディドラマや宝塚歌劇団で八面六臂の活躍をみせていた4人だが、実は初共演。パートナーを交換して再婚するという複雑な家族を体現していくわけだが、交換後の夫婦は松浦千弥子(中山)&小石川仁(筒井)、小石川留美(檀)&松浦要士(谷原)という組み合わせになる。
「小岩井さんが、この4人が絶対にいいって言ったんです。かつてのトレンディドラマは、“ママレード・ボーイ”みたいな世界観だったと。つまり、カップルがいたとして、そこに友達が割って入ってきて恋人を取り合うみたいな。90年代にトレンディドラマの世界で恋に明け暮れていた登場人物たちが、そのまま成長していたならば、こういう親が存在してもおかしくないだろうって。いやぁ、発想がすごいんですよ。確かに原作もトレンディドラマ全盛期の作品ですし、それを聞いたとき、なんだか腑に落ちまくったんです」
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また、出来すぎとも解釈できる偶然に触れる。「中山美穂さんが『素敵な片想い』に主演したのって20歳だったらしいんですよ。まさに、今の桜井さんと同い年。筒井道隆さんが『あすなろ白書』に出演したときの年齢って、今の吉沢君と同じなんですよ。作品に直接関係あるかどうかは別として、その偶然性みたいなものを作れてしまう小岩井さんってすごいなあと思ったんですよ」。さらに北島氏が目撃した光景として、「筒井さんが吉沢君に『昔、俺もこういうラブストーリーをやったなあ』っていう話をされていたんです。かつて自分がいたポジションにいる吉沢君を見ている筒井さん。なんか凄い光景を見ている気がしたんですよね。しかも、ガキの頃にテレビを食い入るように見ていた僕が、仕事で現場にいて、それを見ていることも面白いですよね。時代の継承、物語の継承、役割の継承というか、こうやって作り継がれていくのかと。いろいろなことを考えさせられた現場でしたね」と振り返る。
そんな現場に、主演として大抜擢されたのは、“岡山の奇跡”と形容されてきた桜井。「既視感だけは取っ払いたかった」と明かす北島氏は、「次のヒロインを作らなければならない、育てなければならない。魅力的でフレッシュ、健康的。そう、健康的ってキーワードが重要だと思うんですよ。僕と松橋さん、ふたりとも桜井がいいという意見で一致した」という。
プロデューサー2人が太鼓判を押した桜井を筆頭に若手のキャストを、廣木隆一監督が粘り強く鍛えていった。北島氏も最敬礼で、「監督が本当によく若手の面倒を見てくれました。本読みを2回やりましたから。1度目は東京、2度目はイン前日。あまり多くを語らない監督ですが、役者に考えるチャンスを与えていました。ヒントを与えながら、どうしてそういう芝居をしたのか役者たちに考えさせていました。優しいんですよ、監督は」と笑みを浮かべる。そして、「廣木監督の優しさって、全ての作品に出ている。必ずどの作品のどの登場人物たちにもオチをつけるようにしているんですよね。役者に『この作品に出てよかった』と思ってもらえるような撮り方をするんだから、そりゃあ役者から人気あるわと思いますよ。役者としての自分をちゃんと見てくれているわけですから」と説明する。
また、今回は脚本を廣木監督が現場で強いものに変えていってくれたことも大きかったそうで、「あの本が強化されたのは、演出の力が大きい。今回は監督からフードコーディネートを入れてほしいとリクエストがあった。監督がこの物語に見出したものって、人は恋を知って、愛を知って、そして家族を作って人生を添い遂げていく。何が大事かっていうと、食を通して家族の描写とか、ふたりの関係というのを描きたいんだよと。脚本にはあそこまで細かく書かれていないので、役者が芝居をしやすいように考えてくれたんです」。
「ママレード・ボーイ」撮影前、北島氏は筆者に「少女漫画原作の映画化作品としては、これを集大成とするつもり」と胸中を吐露していた。果たして、現在はどのような心持ちなのだろうか。
「いまは、そういったカテゴリーすら無意味な気がしています。少女漫画だからやらないって言っていた時は、やっぱり自分の中で線を引いていたんだと思います。そうじゃなくて、面白いものがあればそれがなんであれ、やる! っていう感じですかね。そしてその選んだ題材を通して何を描きたいのか、じっくり考えたいと思っています」。
前述の北島氏のコメントを見れば一目瞭然、言葉に嘘がない。実に素直で、前言撤回もいとわない。だからこそ人間味にあふれ、信じることができる。次回は、声の大きな“あの人”との対談を予定しております。乞うご期待ください。(取材・文/映画.com副編集長 大塚史貴)
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