「女は二度決断する」でカンヌ戴冠!ダイアン・クルーガー、極限演技を生んだ“出会い”とは
2018年4月13日 13:00
[映画.com ニュース] 「イングロリアス・バスターズ」で知られるダイアン・クルーガーが、第70回カンヌ国際映画祭の女優賞に輝いた主演作「女は二度決断する」を携えて来日。これまでのイメージを覆すこん身の出演作について、存分に語った。
世界3大映画祭で主要賞を獲得している名匠ファティ・アキン監督が手がけ、第75回ゴールデングローブ賞で外国語映画賞を獲得したサスペンス。トルコ人の夫と幼い息子と共にドイツで平和に暮らしていた女性カティヤ(クルーガー)の生活は、家族が爆弾テロの標的になり、無残に殺されたことから一変。悲しみに暮れながらもカティヤは犯人探しを行い、家族の無念を晴らそうとする。
全編に緊迫感がみなぎる物語だが、何より強烈な印象を残すのは、ほぼ全編出ずっぱりのクルーガーの圧倒的な存在感だ。最愛の家族を奪われてどん底に突き落とされた女性の耐えがたい苦しみや喪失感、やがてその状態から奮い立ち、“正義”を下すために闘っていくさまを、神がかり的な演技で見せる。だが、本人から飛び出したのは「最初は、この役をできるかどうか自分自身に自信が持てなかったの」という意外な言葉だった。「脚本を読んでショックだったし、自分がどうやって役に信ぴょう性を持たせられるのか、確信が持てなかった。ファティ(・アキン)も、私をキャスティングしたときにドイツのマスコミから大分言われたそうなの。『ハリウッド女優がやって来て、大丈夫か』みたいにね。ファティは、いつも地元の役者やノンプロを使って映画を作っているから」。
撮影前に、早くも立ちはだかった逆境。クルーガーとアキン監督は、内外に立ち込める不安をどうぬぐい、作品に挑んでいったのだろうか。「ファティからまず要求されたのは、6カ月間役の準備に当たること。そして他には何もやっていけないと言われたわ。だから、今までで1番時間をかけて臨んだ役になったの」と明かしたクルーガーは、「ファティとも色々な話をしたけれど、私にとって1番効果的だったのは、家族をテロや殺人で亡くしてしまった方々の遺族会・自助グループとの交流だった。これは、自分自身で決めたことよ」と続ける。
「彼らの声に耳を傾けて、心を開いて悲しみを感じた。これまでの人生で、あれだけ悲痛な気持ちを目撃することはなかったわ。それぞれが聞かせてくれたお話もつらかったけれど、それ以上に彼らが放っているエネルギー、空気感がものすごかった。そういう人々と過ごしたから、撮影中は自分が演技をしているという意識すらなくなっていたわ。頭の中に常に彼らの声が響いていたし、夜も眠れないくらいに入り込んでしまっていた。今回は時系列に沿って“順撮り”だったこともあって、目の前で起こることに反応するだけという感覚だったの」。“演技を超えた演技”ヘのプロセスを明かしたクルーガーは、アキン監督ならではの演出術も大きな影響を及ぼしたと語る。
「ファティはとにかく『隠すな!』っていう人。女優というのは、髪をこうしたら良い、メイクをこうしたら良いっていうトリックを身に付けていくもの。でも彼は、そういったものを全部剥ぎ取って、心を裸にしてやれっていう監督なの。シーンによっては何回も何回も撮り直して、最後には疲れ果ててしまったこともあったわ。とにかく“これは失敗が許されない作品”という意気込みで臨んだ。かなりつらいことを要求されたけれど、ファティを信頼していたし、『何でも受けて立ちます』という姿勢で挑んだの」。アキン監督と共闘した日々を振り返ったクルーガーは、「なかなかない経験ができたわ」と柔らかな表情を見せる。事実として、世界各国で激賞を浴び、カンヌとゴールデングローブ賞で戴冠。苦しみぬいた日々は、最高の結果を呼び込んだ。
作品全体に目を向けると、人種差別やテロ問題といった社会的なテーマを扱いながらも、サスペンス劇や法廷ドラマの側面も持ち、アキン監督の過去作品と見比べてもよりエンタメ性が強まった印象だ。クルーガーもうなずき、「監督は恐らく誰しも、キャリアのどこかで、より大衆に伝えていきたいっていう地点にやって来るんだと思う。ファティにとっては、本作がそうだったのかもしれない」と考察。「私自身、作家性を持ちながらもちゃんと大勢の人に伝わるような作品が1番好き。ファティの作品は非常に作家性が強いけれど、この作品についていうと、とてもうまくスイート・スポット(ボールを打つのに最適の場所)を突いていると思う。多くの人々にも伝わるし、でもすごく色は出せているの」とアキン監督の手腕をたたえた。
「女は二度決断する」は、4月14日から全国公開。
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