高畑勲監督が語る熊谷守一の絵画、アニメーションとの共通点
2018年2月25日 14:00
[映画.com ニュース]5月公開の映画「モリのいる場所」で描かれる主人公の画家、熊谷守一の展覧会「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」が開催中の東京国立近代美術館で、2月24日、高畑勲監督が講演した。
明るい色彩と単純化された風景や動植物の絵で知られる熊谷の作品に長年惹かれてきたという高畑監督は、「描かれたものと空間に実在感がある。花がリアルに描かれているかというとそうではないが、“もの”として訴えてくる。そこに魅力がある。これまでいろんな面白い絵を見てきましたが、じっと眺めているうちに時間がすぐに過ぎてしまう、そういう絵」と、代表作の「鬼百合に揚羽蝶」「伸餅」などを挙げ、熊谷の絵の魅力を語る。
没後40年、97歳まで生きた画家の初期から晩年までの200点以上を集め、スケッチや日記などの資料とともに画家の創作の秘密に迫る大回顧展。高畑監督は「熊谷守一を研究するにあたって一段階上がったような素晴らしい展覧会」と褒め称え、「例えば、僕は奈良美智さんの絵もじっと見入ってしまう。本で文字と一緒に見るとイラストっぽく見てしまうけれど、本物と対面するとまったく違う。熊谷守一の絵も同じでそこに喜びがある。そのように訴えかけてくるものがある絵はそれほどたくさんないのではないか」と、美術館で絵のサイズを確認し、色や筆致など作品の細部まで鑑賞する意義を語り、「仙人のような人と言われるが、人物と(作品を)一体化する必要はない、絵だけを見ているだけで十分面白い」と主張した。
輪郭線で描き、陰影をつけずに中を平らに塗るという手法はセル画や、浮世絵にも見出すことができる。展覧会を企画した学芸員の蔵屋美香氏は、逆光で見たものの境目を赤い線で描いた熊谷の表現は「あくまで洋画家として陰影を探求した」結果であると解説し、「熊谷さんは色や形で、ものが生きているような生命感を出すために並々ならぬ工夫をしていた。止まっている絵が動いているように見えることは、アニメーションにも通じる考え方では」と高畑監督に問いかけた。
高畑監督は「例えば、美術の専門の人に群生したチューリップを描いてもらううと、陰影をつけて本物であるかように主張するので、本物には見えない。反対にセル画のように線だけで描くと、見る人がその後ろにある本物を想像することができる」と自身の考えを述べる。そして、熊谷の用いた手法とアニメーションとの共通点として、スタジオジブリ製作「レッドタートル ある島の物語」監督のマイケル・デュドク・ドゥ・ビットの作品「父と娘」が、逆光でエッジを捉えた絵でできた映像作品であること、また、「火垂るの墓」のセル画の線は黒ではなく、茶カーボンを使っていたことを紹介した。
さらに、フランスの画家アンリ・マティスの代表作「ダンス」から影響を受けたといわれる、熊谷の「稚魚」と水たまりに落ちて跳ねる雨粒を描いた「雨滴」を挙げ、明度の高い色を使うことで、動きを感じさせる手法を蔵屋氏が解説。また、ひとつの絵の中で、時間の流れを表現する異時同図法については「伴大納言絵巻」「鳥獣戯画」なども例に挙げられ、高畑監督は、これらの絵の独特の視点について「西洋では本質や永遠を求めますが、日本人は現象に興味を持つ人々なのです」とコメントした。
展覧会「没後40年 熊谷守一 生きるよろこび」は、東京国立近代美術館で、3月21日まで開催。映画「モリのいる場所」は、昭和49年に熊谷守一が過ごすある一日を、山崎努主演でフィクションとして描くもの。5月公開。
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