驚きの恋愛体験を映画化してオスカー候補に!「ビッグ・シック」脚本家夫婦を直撃
2018年2月23日 14:00
[映画.com ニュース] 実話の映画化はハリウッドでも人気だが、その中でもとびきりユニークな「ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ」が2月23日から全国で順次公開される。題材は異文化カップルの恋愛。しかも、彼女は難病でこん睡状態に。さらに驚くのは、本人たちが自ら脚本を執筆し、男性は主演も務めたことだ。家族からの猛反対や病気といった人生の困難を、ハッピーな物語に変え、第90回アカデミー賞脚本賞ノミネートを果たしたクメイル・ナンジアニと妻のエミリー・V・ゴードンが、映画.comのインタビューに応じた。
パキスタン出身の駆け出しコメディアン・クメイルは、アメリカ南東部出身でセラピストを志す大学院生のエミリーと出会い恋に落ちる。しかし、イスラムの伝統を重んじる母親に言われるがままお見合いを続けていたことが発覚して、エミリーはクメイルのもとを去る。その数日後、エミリーが原因不明の病に倒れ、こん睡状態に。エミリーの両親は、娘を傷つけたクメイルに腹を立てていたが次第に打ち解けていき、クメイルも自分の家族との葛藤を抱えながら、エミリーが大切な存在だと改めて気づいていく。クメイルをナンジアニ本人、エミリー役をゾーイ・カザンが演じた。
いまでは、ナンジアニは米HBOのコメディシリーズ「シリコン・バレー」でブレイクし、ゴードンも脚本家兼プロデューサー、ライターとしてマルチに活躍している。2人は同じ番組に参加したことはあったが、共同で脚本を執筆するのは本作が初めて。最大のチャレンジは、「自分自身の生活を、人々が見たいと思う映画にすることだった」と、ゴードンは振り返る。「簡単ではなかった。なぜなら、自分が重要だと思うものが、映画には重要じゃなかったり、あるいは、あまりに個人的で映画には入れたくないことが、映画にとって必要だったりするから」。
ナンジアニはこう付け加える。「自分の人生でとてもトラウマ的な経験をさかのぼって、それについて考えて書くことは難しい。ちょっとセラピーのようなんだ。最終的にカタルシスがあって良いことになる。でも、とても辛いことを考えないといけないのは大変だよね」。
自ら主演を務めたナンジアニは、脚本執筆と撮影を通して再び自分の人生を体験し、「自分が思っていた以上に、ずっと怖がっていたことを知った」と明かす。ゴードンから「あなたは自分が普通だと思っていて、ただ世界を歩き回っていたんでしょ」とツッコまれ、当時の心境を鮮明に解き明かした。
「そうだね。でも、僕が言っているのは、エミリーが病気だった時だけじゃない。僕がエミリーとデートしていた時、両親は僕に(同郷の女性との)結婚を望んでいた。僕は歩き回りながら、自分はとても気楽だと思っていた。でも、ストレスがあった。どうしていいかわからなかったから。そういったことを(映画製作中に)僕は学んだ。過去のバージョンの自分自身を精神分析してみたら、僕はとてもビクビクしていたんだ」
宗教や文化の違い、病気といった題材は、シリアスで暗くなっても不思議はない。しかし、本作は明るくチャーミングでハートウォーミングだ。「僕にとってユーモアは、人々が普段は面白くないとか、演説っぽいと感じる何かについて耳を傾けさせる素晴らしいやり方なんだ。だから、社会的な主張を発するうえで、コメディはベストな方法だと思う」。そして、2人は「コメディをつくりたかった」と声をそろえる。
ナンジアニは本作を「人々のつながりと、それを阻むものの話」だという。全米では5スクリーンから約2600スクリーンに拡大公開。人々がつながりを求めていることの証明だろう。この大反響に「圧倒されているよ。満足しているし、興奮している。僕らが期待する以上だった」と語るナンジアニ。一方のゴードンも、「子どもの頃、映画やテレビ番組を見て、『誰かが私を理解している』と思えたのはとても心強かった。そして今、人々がそう感じる作品を私たちがつくれるのは、とてもエキサイティングよ。アカデミー賞ノミネーションは悪くなかったわ(笑)」と満足げだ。
ちなみにオスカーノミネーション発表の瞬間は? と問うと、「僕らは叫んで、笑って、泣いて……また寝たよ」(ナンジアニ)、「朝とても早かったからね。とてもエキサイティングだった。だって、アンディ・サーキスが私たちの両方の名前をはっきり読み上げたの。素晴らしい瞬間だった」(ゴードン)と、ふたりにとって久々の衝撃だったと明かしてくれた。