「悪女」の驚がくアクションはどうやって撮った?監督が舞台裏を解説
2018年2月9日 14:30
[映画.com ニュース] 藤原竜也と伊藤英明が共演したヒット作「22年目の告白 私が殺人犯です」のオリジナル版となる「殺人者の告白」を手がけたチョン・ビョンギル監督の最新作「悪女 AKUJO」。オープニングの圧巻の犯罪組織への殴り込みやバイクに乗った暗殺者と追手たちによるバトルなど「CGを使ったのは安全のためのワイヤーを消す作業など、ごく一部」という言葉がにわかに信じられないほどすさまじいアクションの数々は、どのようにして生まれたのか? 初来日を果たした監督に話を聞いた。
父を殺され、犯罪組織に殺人術を叩き込まれて育てられるも、ある事件をきっかけに政府直属の暗殺者として第2の人生を歩み始めたスクヒ(キム・オクビン)。彼女の数奇な運命を描く本作では、オープニングから7分にも及ぶ怒とうのアクションが畳みかける。父亡き後の育ての親で、愛する夫でもあるジュンサン(シン・ハギュン)を殺されたスクヒが対立組織のアジトに乗り込み、構成員を次々と倒していくが、まるでゲーム画面のように、観客はスクヒの視点で、迫りくる敵たちを倒していくさまを“体験”する。このアイデアは、監督が数年前にVR(バーチャル・リアリティ)を使っての短編をオファーされた経験から生まれたという。
「そのVRの企画は頓挫(とんざ)してしまったんですが、当時、もしVRを使うならこんな映像が撮りたいとデザインしたアイデアが頭の中にありました。加えて、子どものころに楽しんだシューティングゲームの影響も大きいです。まるで、アジトに実際にいるように、スクヒになった気分で楽しめるでしょう? オープニングならば、何の説明をせずとも違和感を抱かせず、観客に受け止めてもらえると思いました。1番気をつけたのは、スクヒの“1人称”から“3人称”の視点に映像を切り替えるポイントです。映画が始まって『一体誰がこんなすごいバトルをしてるんだ?」と思わせておいて、ある瞬間に視点が切り替わり、スクヒの姿が映し出される。そこで観客が一気に物語に入り込めるようにしました」と背景を明かす。
続けて、中盤で繰り広げられるのが、ある仕事を終えたスクヒがバイクで逃走するも、同じくバイクに乗り、日本刀を手にした追手と対決するシーン。観客の度肝を抜く驚異の映像となっているが、監督は「やってみたら、意外とできるもんなんですよ(笑)」とこともなげに語る。「最初に、アクションの持つパワーを見る人に感じてもらえるようなカギとなるシーンを構築します。ここでいうと、バイクの車輪がカメラの前を通り過ぎていくカットや、バイク上で刀を使って戦うカット、そして並走しているバイクがひっくり返ったり、吹っ飛んだりする画ですね。イメージを絵コンテにし、さらにプリビジュアライゼーション(製作段階での簡易なCG映像化)します。そこにカメラアングルを導入し、どこまで実写にするのが可能かを検討、検証するんです。そうすると、これはこうすれば可能だなというのがだんだん、見えてくるんです」。
さらに、クライマックスで印象的なアクションとして描かれるのが、敵の乗ったバスをスクヒが追いかけるシーン。一般人の車を奪い、フロントガラスを破り、エンジンをかけ、アクセルに重しを乗せた状態でボンネットの上に乗り、後ろ手でハンドルを操りつつ、バスを追いかけ、ボンネットからバスに乗りこむというスタイリッシュでエンターテインメント性の高いアクションが展開される。「ここは最初、台本では単に車でバスを追いかけるスクヒが、バスに飛び乗るというシーンだったんです。ただ、これまでのシーンの積み重ねからも、観客はこれだけでは物足りなく感じるだろうと、よりインパクトのあるカットを入れたくなったんです。そこでボンネットに乗るのはどうかと考えました。難しそうに見えますが、車自体は逆走するわけではないので、意外と簡単にできるんですよ(笑)。運転しているのは車内に隠れているアクション監督ですし、例えばよくある車同士の派手な衝突シーンなどよりも安全ですし、より刺激的だと思います」。
監督が大きな影響を受けたというのが、子どものころに見て衝撃を受けたというリュック・ベッソン監督の「ニキータ」。さらに「キム・ギヨン監督の『下女』、そして、ブライアン・デ・パルマの『キャリー』へのオマージュでもある」と明かす。今後のキャリアにおいて、チョン監督は「アクションだけでなく人間ドラマに徹底した作品も撮りたいし、SFにもコメディにも興味がある。大事なのは、どのジャンルであれ『これは今までにない!』と思ってもらえる新しいものを生み出すこと」と不敵に笑う。
「僕はドキュメンタリー(『俺たちはアクション俳優だ』)で長編デビューしたんですが、いまだに『あのドキュメンタリーが1番いいね』と言われることがあります。そう言われるのは複雑でもあるんですが、なぜあの作品がこんなに愛されるのかは自分でもよくわかります。ともすると真面目で暗いものだと思われがちなドキュメンタリーに、そうじゃないトーンを持ち込んだからだと思います。悩み続けながらもより自由にシャープに考えていくことで、きっとその先に、何か新しいものが見つかると信じています。今回のバイクシーンのようにね」と先を見据えた。
「悪女 AKUJO」は2月10日から全国公開。109シネマズHAT神戸、109シネマズ大阪エキスポシティでは4D上映も実施される。
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