北乃きい×永山絢斗、若き実力派が見た“時代劇という現場”
2017年12月12日 19:00
[映画.com ニュース] 藤沢周平氏の小説を、「眠狂四郎」「座頭市」などを手がけたベテラン井上昭監督が映像化した「小ぬか雨」で、北乃きいが時代劇初挑戦を飾った。相手役を務めた永山絢斗とともに、“時代劇という現場”で得たものを語った。
履物屋でひとり暮らすおすみ(北乃)は、がさつな職人との気の進まない縁談が決まるなど、希望のない日々を送っていた。ある夜、新七と名乗る若い男(永山)が「追われている、匿ってほしい」と逃げ込んでくる。「お嬢さん」と呼ばれ胸の高鳴りを感じたおすみは匿うことにするが、新七が人を殺して追われているという噂を耳にする……。運命というには大仰だが、確実に周囲を取り巻く“流れ”のような何かに翻ろうされ、思う通りにも生きられず、小さくも深い傷を抱える2人。そんな男女が惹かれあうのに、長い時間は必要なかった。
京都での撮影では、百戦錬磨のスタッフ陣の技術に息を呑んだという。美術や照明などが瞬く間に完璧に組み上がると、2人はただそこに存在し、芝居をするだけでよかった。北乃は「俳優部としての仕事を全うする現場でした。私たちは動かされるものですから」と述懐。永山は「でもそれは決して簡単なことではなく、『そこで、あなたたちはどうしますか?』と問いかけられているようでもありました。井上監督は(演出の)方角を指さしてはくれますが、明確な指示ではなく、余白を残してくれているんです」と話し、北乃も「『なるほど、こういう芝居の仕方があるんだ』と、発見する毎日でした」と華やいだ表情を見せる。
布を折りたたんでから立ち上がり、障子の向こうに歩いていくなど、カットをあまり割らず役者の一連の動きをとらえる画作りが印象的だ。当然、現代劇とはまったく異なる所作や言葉使いが要求されるだけに、その労力は北乃が「ずっと張り詰めていました」と苦笑いするほど。「ひとつひとつの動きが気になってしまって、カットがかかると、はあ~! って(ソファーに崩れ落ちる)。カツラで普段より身長が高くなっているのを忘れて、照明に何回もぶつかっちゃいました。時代劇をやっている方には当たり前のことなのですが、私は初めてだったので大変でした」と振り返れば、永山も「意識することが現代劇とは違います。呼吸や指先ひとつに意識が全部いってしまったり、目でも『なぜ瞬きした?』と細かく気になってくる。本当に、違う仕事のようです」と同調する。
身体や指先の動かし方など、日ごろ無意識でいた部分が、時代劇に身を置くなかで意識に立ち上がってくる。その感覚を逃さずとらえ積み重ねていくと、身体を自由自在に動かすことも可能になる。俳優としてなくてはならない“表現力”につながるだけに、あらゆるシーンに訓練のような心持ちで身を投じた。
だからこそ、2人はかけがえのない現場だったと口をそろえる。北乃は「初めての時代劇。新人のような感覚で現場に行っていたんです。井上監督の演出も、撮影終わりに誘ってくれた『スマート』という喫茶店も、1秒1秒を一生忘れないほど大切な時間でした」と目を細め、永山も「もう怖いものはない、そう言い切れるくらい、すごくいい経験をさせてもらった」と胸を張った。一方で「次は自信をもっと持ち、さらに勉強して臨みたい。時代劇の撮影が終わると、悔しいことだらけなんです。やりきっているけど、後からできないことが見えてくるし、『何を怖がっているんだ、俺は』と思ってしまう」とも述べる。それまで、ひょうひょうとした発言で場を笑わせていた永山だが、この言葉からは俳優としてのプライドとプロ意識が垣間見えた。
11月29日に行われた上映会では、北乃は一緒に時代劇を見て暮らした亡き祖母を思い、「天国にいるおばあちゃんも、今回の時代劇はすごく嬉しかったと思う」と滂沱の涙を流した。今後も挑戦する意志をたぎらす北乃に、永山は「2回目からが楽しいよ。俺、今回が2回目の時代劇で、すごく楽しかったから」と優しくエールを送った。時代劇に明るい光をさす、新たなる希望が誕生した。
なお今作のほか、短編集「橋ものがたり」から「小さな橋で」「吹く風は秋」を映像化。「小ぬか雨」は12月13日からテアトル新宿で上映され、3作品のスケジュールの詳細は公式サイト(https://www.jidaigeki.com/goodmorning/)に掲載されている。時代劇専門チャンネルでも、1月3日の午後9時に放送予定。
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