「新海誠展」は、なぜ国立新美術館で開催が実現したのか?史上初快挙の背景にある偶然
2017年12月1日 18:00
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[映画.com ニュース] 「新海誠展 『ほしのこえ』から『君の名は。』まで」が、12月18日まで東京・六本木の国立新美術館で開催されている。日本の国立美術館で、現役アニメ映画監督の名を冠した展覧会が実施されるのは初めて。なぜこのタイミングで、日本のアニメ界、美術界における“史上初”が実現したのだろうか。その背景に横たわる理由を探るべく、新海監督が所属するコミックス・ウェーブ・フィルムの落合千春氏と、国立新美術館の主任研究員・真住貴子氏に話を聞いた。
今や日本を代表するアニメ作家となった新海監督の“歩み”を、絵コンテ、作画、美術、映像、造形物を通じてひも解いていく本展。商業デビュー作「ほしのこえ」(2002)をたったひとりで製作し、業界を騒然とさせた新海監督が、作品を追うごとに新しいことに挑戦・吸収しながら進化し、「君の名は。」(16)で社会現象を起こすに至った過程が展示されるとともに、製作のメカニズムに触れることで、各作品の感動が行為的によみがえる仕掛けが随所に施されている。
企画が浮上したのは、16年1月のこと。もともと新海監督のデビュー15周年に全国をめぐる展覧会としてスタートしており、総監修を務める落合氏は「17年にファンへの感謝を込めたイベントを行おうと、朝日新聞社とたち上げました。『君の名は。』公開よりだいぶ前、予告編ですら世に出ていなかったころです。美術館は通常1年以上前から会場が埋まっているので、全国の美術館に提案してまわったのですが断られ続け、なかなか決まらない日々に焦りもありました。そんななか大岡信ことば館(静岡)と、監督の故郷の小海町高原美術館(長野)だけは決まっていて、大変ありがたい思いでした」と振り返る。
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苦しい滑り出しだったが、「映画が大ヒットとなりしばらくすると、今度は全国の会場からオファーが殺到しました」と潮目がガラリと変わった。開催地域などの調整に追われた16年末ごろには、国立新美術館からのオファーが届いた。「あんなに会場探しに苦労していたのに、美術館の中でも最高峰である国立新美術館から声がかかるなんて(笑)。そして偶然にも『君の名は。』の劇中に登場する場所(同館)で行えるなんて、一生に一度あるかないかのチャンスです」。
一方で真住氏は、オファーの理由をこう語る。「日本の国産アニメが公開されて100年という歴史の節目に、新海誠監督をきちんと紹介することで、今までとこれからのアニメ文化について皆さんと考えられたらと思っていました。新海監督は様々な意味で、今までとこれからの結節点に位置するアニメ監督の1人としてとらえられる、と思ったからです」。
前述のとおり、新海監督がひとりでつくりあげた「ほしのこえ」は、その執念とクオリティが業界を震撼させた。以後、美術監督・丹治匠らとともに劇中や製作手法にデジタル技術を臆することなく盛り込み、“今を生きる”センスや現実よりも美しい映像で観客の心を鷲掴みにしてきた。国立新美術館は、新海監督をデジタル技術発達と業界のノウハウ蓄積によるアニメーションの質的・量的変革のシンボルとしてとらえ、今回の展覧会を打診するに至ったという。
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とはいえ、真住氏いわく「どの展覧会も、美術館が望んだからできるほど簡単なものではなく、様々な理由で実現できないことはたくさんあります」。日本アニメ誕生100周年と、国立新美術館の開館10周年、そして新海監督のデビュー15周年が重なるという“運命的偶然”に導かれたことが、本展が実現した最たる要因だろう。「美術館や新海監督サイドだけでなく、時代も社会も含め関わった人々が開催を望み、幸運なめぐり合わせが重なり実現できたものと思っています。これはとても大事な点です」とも明かす。
また、比較的小規模なスペースで行われていた全国展バージョンから、国立新美術館の2000平米という規模に合わせるため、キュレトリアルチームを特別編成。落合氏は、展示デザインを「まるで別物といってよいくらい、一から作り直しました」と解説し、真住氏も「新美バージョンでは『新海誠がどういう人なのか』を見せる必要がある、と考えました。特に監督の思考や、創造性のルーツにつながるもの、例えばご出身の長野県佐久郡小海町の空や自然の様子、初めて使ったコンピュータを展示したり、ネットやCG技術の発展との関係も探りました」と述べる。
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特にこだわりが反映されている点は、映像展示だ。落合氏は既存のアニメ展とは一線を画す、“生きた動き”を表現する構成に心血を注いだと話す。「アニメーション作品の展示というと、その実、作画展になっているものも多く、アニメはその後の工程も多いのにと、違和感を持っていました。そこで作画は当然のこと、美術、色彩、CG、撮影などにも踏み込んだ紹介を行いました。もちろんアニメーション映像が完成形ですので、モニタも50台近く投入し、映像もふんだんに流しています」と語れば、結果として展示総数は1000点以上にのぼっただけに、長らく学芸員を務める真住氏といえど「企画展の出品総数が4桁というのは、さすがに初めてです(笑)」と驚いた様子だ。
展覧会場では、10~20代の若い観客が多く見受けられた。「新海誠展」をきっかけとした新たな試みも広がりつつある。「すでに19年頭まで全国の巡回先は決まりつつあります。各会場にあわせ展示物はアレンジしていきますので、どうかお楽しみに。年末からは同時進行で海外でもスタートします。第一弾は台湾です」(落合氏)、「国立新美術館の『新』の意味は、新しい芸術を紹介していく使命が反映されています。今後もアニメのみならず、これまで美術館で紹介される機会の少なかった分野、特に日本を代表する文化・芸術の発信に挑戦していきたいと思っています」(真住氏)。本展は12月18日まで開催。
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