“難民3部作”カウリスマキ新作「希望のかなた」シリア出身俳優が語る名匠の現場
2017年12月1日 12:00
[映画.com ニュース]第67回ベルリン映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞した、アキ・カウリスマキ監督最新作「希望のかなた」が12月2日公開する。前作「ル・アーヴルの靴みがき」で“港町3部作”と名付けたシリーズ名を“難民3部作”に変え、2本目となる今作でも全世界で向き合うべき難民問題を扱った。フィンランドの首都ヘルシンキを舞台に、生き別れの妹を探すシリア難民の青年が、レストランオーナーとその仲間と出会い、彼らの善意に救われる物語だ。主演のカーリド役に抜てきされたシリア出身のシェルワン・ハジに話を聞いた。
シリア・ダマスカスで運命的にフィンランド人パートナーと出会い、2010年にフィンランドに渡り、その後英国で映画を学んだ後に、監督・俳優として活動している。カウリスマキ監督は、主演俳優に、英語、アラビア語、フィンランド語を話す中東出身の俳優で「ユーモアが理解できる人」という条件を求め、ハジはオーディションでカーリド役を射止めた。
「私は役者としての訓練を受けており、監督、演出家の求めに応じて、役柄や登場人物、すべてのあらゆるプロジェクトに対して、それぞれアプローチの違いを見せながら、それぞれに合うメソッドを見つけ出そうとしてきました。それは、とても大きな責任を伴うものです。私がプロとして映画の中で役を演じることによって、何百何千という人たちが母国を出国しなければならない状況、家族や愛するものを失い、そして新しい始まりをもとめてシェルターに入ったりという困難に直面した人々を、役柄として物語の世界観の中で監督に提示し、監督とともに、カーリドというキャラクターを考えていきました」
常連の俳優陣が顔をそろえる中、カウリスマキ監督は初参加のハジにも絶対的な信頼感を持って撮影に臨んでいたそうだ。「カウリスマキ監督は、私に様々な指示を出すようなことはなく、何か魔法的な呪文や言葉というか、普通のものを特別なものにするために必要な空間を与えてくれます。役者という職業の素晴らしさは、そういったクリエーションの一部になれること。そういうチャンスをもらえたのは大きなことです。カウリスマキ監督の撮影はほぼ1テイクです。まれに2テイク、最大でも3テイクです。あるシーンで私の長いモノローグがあるのですが、それはアラビア語のセリフで、監督は僕が何を言っているのかわからないのです。でも、1シーン1テイクで終わりました。それが信頼というものなのです」
前作とも共通するおとぎ話的な描写がある一方、入管の職員、ネオナチなど、現実社会でも見られる人々の不寛容な行動が、ある種のリアリティをもって描かれている。「我々の日常生活もある意味、おとぎ話のようです。あまりにも抽象的ですし、所謂リアリティと呼ばれるものも大体おとぎ話ではないでしょうか。フィンランドも他の国と同じです。良い人もいれば、良い人になる方法を忘れてしまった人たちもいます。私は“悪い人”とは言いたくありません。何かがあって今は良くない人間になっているのかもしれませんが、もともと私たち人間は善だと思うのです。観客は賢い存在なので、白か黒かだけではないとわかっているはずです」
今後、シリアの情勢が落ちついたら、母国に戻る可能性はあるのだろうか。「私は人生で様々な大きな変化を試みてきました。そして変化を怖がりません。過去に閉じ込められてこだわるのは嫌なのです。私は世界に対してオープンですし、自分をグローバルな市民として考えています。現状、フィンランドは私にとって家です。殺し合いをしているシリアはもはや我が家ではなくなってしまいました。私は人の殺し方はわかりませんが、映画の作り方、脚本の書き方はわかります。もちろん、シリアで映画づくりの機会に恵まれたら喜んで参加したいです」
「希望のかなた」は、12月2日からユーロスペースほか全国順次公開。
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