秦基博「あさがくるまえに」監督の死生観に共鳴 同名タイトルがつないだ縁
2017年9月8日 10:00
「ダゲレオタイプの女」のタハール・ラヒム、「母の身終い」のエマニュエル・セニエ、「Mommy マミー」などグザビエ・ドラン監督作品で知られるアンヌ・ドルバルが集結し、心臓移植をテーマにしたメイリス・ド・ケランガル氏のベストセラー小説を映画化。事故で脳死状態と宣告された青年とその両親、青年の恋人、医師、臓器移植コーディネーター、臓器提供を待つ女性音楽家とその息子たちの心の変容がすくい取られていく。
秦の人気曲「朝が来る前に」が映画の邦題と同タイトルだったことから今回の対談が実現し、特製ミュージックビデオも製作された。秦は「まずはこうして邦題と自分の楽曲の名前が重なったことなど、偶然のシンクロに驚きましたが、実際に作品を拝見したら、映画に使われている音楽が素晴らしかったので、さらにもう1曲、自分の曲がそこに加わることが、果たして大丈夫かなあと、少し気がかりでした(笑)」と率直な思いを吐露する。
一方のキレベレ監督は、秦の楽曲との出合いが「新たな発見」だったといい「彼の曲はシンプルでありながらもとても詩情豊かで、まったくぶれていないと感じました。秦さんの楽曲と私の映像は、その全てを表現し、とても響き合っていると思います。秦さんの曲を聴いていても感じることでもあるのですが、人生というのは、どの瞬間に終わってしまうのかわからないものですよね。それは輝しく深い意味を持っているものです。でも一方でとてもはかなく脆弱(ぜいじゃく)なものでもあります。秦さんの曲にはそのことが歌われている。そして私はそのことを映像にしました。この2つの作品がコラボレーションできたことは、私にとってとても意味のあることだと感じています」と今回のタッグに手ごたえを抱いている様子だ。
さらに、「私は秦さんにぜひ伝えたかったことがあります」と前置きし、「今回のコラボレーションは私にとってとても光栄なことです。秦さんはたくさんの若者に影響力があります。『あさがくるまえに』は重いテーマで、しかもフランス語の映画です。私は、おそらくたくさんの若い人たちが関心を寄せる作品ではないと感じています。若い人たちにたくさん見てもらいたいけど、それが困難なときにどうすればいいのか。私にとって、秦さんがこのコラボを受け入れてくれたことが、すなわち日本の若者に私の映画を見てもらう大きなチャンスになるかもしれません。そういう意味でも、本当に秦さんに感謝いたします」と切実な思いを訴えた。
監督の言葉に、秦は「きっと若い世代の人たちも見てくれると思います。それから、監督と僕は同世代なので、死生観といったものに対して、国境を越えてどこかでつながる部分があるんだとしたら、ものを作る人間としてはやっぱりうれしいし、すごく刺激的でした」と感謝を述べる。「音楽というのはすごく短い時間のものですけど、僕もそれを通して人の営みを描いていきたいと思っているので、まさにこの映画を見て、人が生きること、人間が暮らしていくということが描かれている部分が、どこか共感、共有できることなのかもしれないと思いました」と続け、映画から受けた“気づき”を「生と死は僕らが生きていく毎日の中にも必ずあって近しいものでもあるし、でも普段から常に意識しているものでもない、近くて遠いようなものですが、それがいろんな登場人物たちの視点によって描かれていくので、自分自身も、例えば最初に出てくるシモンの視点になったり、親の視点になったり、はたまた移植を受ける女性の息子になったり、いろんなところからそういう生と死というものを捉えるきっかけをくれる映画だなと思いますね」とまとめた。
キレベレ監督は、邦題への思いについても言及し「日本語タイトルの、『朝』というのは映画全体の内容を象徴する言葉でもあります。それは新しい1日を意味し、新しい人生を意味します。一方、移植を受ける母親は、決してその未来を約束されたわけではありません。そのことで彼女の死が早まるかもしれない。決別を意味するのか。新しい人生の第一歩なのか。そういう不安定な状況の中で、心臓を提供してくれた人、彼女を取り巻く様々な人々……そのとき彼女は物質としての心臓ではなく、周りの人々の愛も受け入れ、何よりも命を落とした青年のすべて、彼の活力も、彼の恋愛感情も、すべて彼女の体内に受け入れることを決断します」と作品に込めた思いを内包していると述べた。
「あさがくるまえに」は、9月16日から東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで全国順次公開。
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