「砂の器」伝説の名子役、春田和秀さん 43年を経て語る子役という“宿命”(1)
2017年8月8日 13:00
[映画.com ニュース] 数多くある松本清張原作の映像化作品で、最高傑作のひとつと言われているのが、橋本忍と山田洋次が共同脚本を手がけ、名匠・野村芳太郎監督がメガホンをとった松竹映画「砂の器」(1974)だ。その後も、4本のテレビドラマが作られるなど清張人気を決定づけた。そんな中、表舞台から静かに姿を消した名子役がいる。加藤剛扮する天才音楽家の少年時代を演じた春田和秀さんだ。15歳の時に俳優業を引退し、子役時代の栄光を封印してきた春田さんが長い沈黙を破り、映画.comのインタビューに応えた。(全3回)
春田さんは1966年、名古屋生まれ。親戚の子どもが所属していた関係で、「劇団こまどり」に所属。3歳の頃から、地元で子役として活動。その活躍ぶりに併せて、両親が上京し、テレビ各局のドラマに出演するなど多忙な日を送るようになった。
春田和秀(以下、春田):記憶にはないのですが、3歳くらいの時からお仕事をさせていただき、16歳くらいまで続けました。記憶に残っているのは4、5歳の頃で、NHKさん、TBSさんのドラマに出演させていただきました。何をやったのかは全然覚えていないんですよ。楽しくやらせてもらったんですが、数が多くて、飛び飛び。ほかにも、コマーシャル、ラジオ番組、ラジオ番組のコマーシャルとか……。それぞれがどんな中身なのかまではよく分からなかったんです。
「砂の器」は、迷宮入り寸前の蒲田操車場殺人事件を捜査する2人の刑事(丹波哲郎、森田健作)が、「東北弁のカメダ」という言葉を手がかりに全国を奔走する中、栄光の階段を上りつめる天才音楽家(加藤剛)の隠された宿命を探り当てるというストーリー。映画は74年10月に公開され、その年の邦画配収第3位となる7億円の大ヒットとなった。
その人気は、公開から43年経った今でも根強い。8月12、13日に東京・渋谷のBunkamura オーチャードホールで開催される映画「砂の器」シネマコンサートは、両日とも通常席(9800円)が完売。一部映像が見えにくい「コンサートシート」(7800円)を緊急発売するほどだ。これは映画のセリフや効果音はそのままに、音楽部分のみをフルオーケストラが生演奏をするライブ・エンタテインメント。クライマックスで演奏される組曲「宿命」をはじめ数々の名スコアが当時の演奏と同じ東京交響楽団が生演奏することが話題となった。
春田:「砂の器」の撮影があったのは小学1~2年の頃でした。オーディションはなかったです。テレビ局に行っている時に、「『砂の器』をやるんだって」と言われたのは覚えています。ロケは長くて、6カ月くらい。(少年の生まれ故郷である)島根県亀嵩とか、長野県あんずの里。北海道にも行きました。いろんな風景も浮かんできます。青森県竜飛岬は、一番寒かったので、よく覚えています。
春田さんは劇中、父親(加藤嘉)と遍路の旅に出る音楽家の少年時代を演じた。セリフはないが鋭い目が印象的で、一度見た人なら、忘れることはないだろう。
春田:自分では分からないんですけども、みなさんから言っていただくことはありました。40年くらい経った今、自分の中で再認識していくところはありますね。同時に、すごい仕事をさせていただいたんだな、と。感謝ですよね。
春田:台本は頂くわけですけども、子どもですから自分からは読むことはなくて、周りの大人から状況を聞くといった感じでした。「今度は長野に行くよ」と言われれば、どんなところだろうと楽しみにしていました。現場では(お遍路さんの)衣装を着るわけだけども、周りの人は普通の格好をしている。そういう中で、撮影の合間に打ち解けて、友達になったり、「また来るべ」と言ったり……。もちろん、来ることはないんですけども。
春田:加藤嘉さんには、つまずいた時、何度も助けられました。演技が良ければ、お褒めの言葉を頂きました。竜飛岬でのロケでは、僕がカイロ代わりになって温めたこともありました。子どもながらに、加藤さんの演技の迫力には圧倒されました。(親子を追い出す亀嵩の巡査役の)浜村純さんから突き落とされるシーンは最初、うまくいかなかったんです。自分なりに、話や背景の流れが分かっているところもあって、うまく演じなきゃ、と思っていました。
春田:実は撮影中、ドラマやコマーシャルもかけもちでした。田宮二郎さん、松坂慶子さんが出ていた「白い地平線」(74)や「わが子は他人」(74)も。この頃は本当に駆け巡っていて、学校に行く時間はありませんでした。1年に3、4日くらいしか行っていない。今じゃ、許されないですよね。それが3、4年続いたんです。
春田さんはどうして学校にも行かず、進級することができたのか? また、なぜ、俳優を辞めることになったのか? それは学校にも一因があった……。第2回に続く。(取材・文/平辻哲也)
春田和秀(はるた・かずひで) 1966年5月14日、名古屋市生まれ。3歳の頃から子役として活躍。映画「砂の器」(74)での役が鮮烈な印象を残す。ドラマは、木下恵介アワーの最終作「わが子は他人」(74)、田宮二郎主演の「白い地平線」(74)、林寛子主演の「がんばれ!レッドビッキーズ」(78)、ポーラテレビ小説「こおろぎ橋」(78)。映画では、主人公のゲン役を演じた「はだしのゲン 涙の爆発」(77)など。15歳の時に引退し、現在、自動車関係の会社を経営している。8月25日発売の「『昭和』の子役 ― もうひとつの日本映画史』(樋口尚文 編・著、国書刊行会)ではロングインタビューが掲載される。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。