ベルリン映画祭監督賞「君はひとりじゃない」は人間ドラマ?ホラー?映画ライターが徹底討論
2017年7月11日 16:00

[映画.com ニュース]第65回ベルリン国際映画祭で最優秀監督賞(銀熊賞)を受賞し、ポーランドのアカデミー賞といわれるイーグル賞で作品賞・監督賞ほか主要4部門に輝いた「君はひとりじゃない」の試写会が、7月10日に都内で開催された。上映後には、ジャンルが混じり合った幾通りもの解釈が可能な本作を読み解くべく、映画ライターの高橋諭治氏と森直人氏が意見を戦わせ、独特の解釈、分析が行われた。
ポーランドの俊英女性監督マウゴジャタ・シュモフスカによる本作。突然、母のヘレナを亡くした娘・オルガ(ユスティナ・スワラ)と父ヤヌシュ(ヤヌシュ・ガヨス)。悲しみに暮れる父娘は、セラピストのアンナ(マヤ・オスタシェフスカ)の独創的なセラピーを受けるうち、気持ちに変化が生じていく。
本作の際立った特徴といえるのが、シリアスな人間ドラマのように見せつつ、随所に“霊”の存在をほのめかす描写が散りばめられている点。森氏は「大きく言うとセラピー映画だけど、ホラーの文体でそれを描いている」と語る。映画の中で、邦題の由来ともなった60年代のヒット曲で、各国のサッカーチームでサポーターズソングとしても愛されている「You'll never walk alone.」がスピーカーから突然、勝手に流れるシーンがあるが、高橋氏は「亡くなった母・ヘレナが起こしたと考えるなら、(自身の死後)ダメな人生を送っている娘と夫に『見守っている』と伝えていると解釈できる」と分析する。
「人の心や絆は超常現象で描け」というのが高橋氏の持論であり、セラピストのアンナが、オルガとヤヌシュのために独特のセラピーを試みるシーンは、まさに高橋氏の言葉が実践された場面といえる。高橋氏は「(妻/母の死で)断絶された父と娘の絆の再生を描いてるけど、普通の映画なら、ドラマチックな物語や俳優の涙ぐましい演技で見えない絆が表現されるのが、この映画ではそれを一切排除して、唐突にラストで超常現象で描いている」と本作の独自路線を称賛した。
この描写をもって高橋氏が本作について「心が震えるほど感動した」と語る一方、森氏は「好きな映画なんですが、(ラストに)いまだにピンと来ない(笑)」と明かす。「霊的なものとリアリズムが混ざりつつ、リアリズム寄りに進んでいくけど、よく見ると細かい心霊描写の仕掛けが点在している。そこからラストの飛躍に心を持っていけるか?」が本作を楽しめるかのポイントだと語った。
本国ではヒューマンドラマとしてヒットする一方で、銀熊賞に輝いたベルリンでは、半ばコメディのように心霊シーンに爆笑が起こったという。監督自身、正解を示さず観客の解釈に任せる方針であり、見た後の会話、解釈も含めて楽しめる、多様性を含んだ映画といえそうだ。
「君はひとりじゃない」は、7月22日から全国順次公開。
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