ドゥニ・ビルヌーブ監督、「メッセージ」で目指したのは「見るたびに新しい発見があること」
2017年5月18日 18:00
[映画.com ニュース]「プリズナーズ」「ボーダーライン」で知られ、「ブレードランナー 2049」(10月27日公開)も控えるドゥニ・ビルヌーブ監督が来日し、最新監督作「メッセージ」の舞台裏や自身の作風について語った。
米作家テッド・チャン氏の短編小説「あなたの人生の物語」を、「her 世界でひとつの彼女」のエイミー・アダムス主演で映画化。言語学者のルイーズ(アダムス)が、巨大な飛行体でやってきた知的生命体「ヘプタポッド」とコンタクトを図り、生命体が発する“メッセージ”の解読に挑む。
第89回アカデミー賞で8部門にノミネートされた本作は、飛行体の独創的なデザインやこだわりの映像美だけでなく、見る者の感情に訴えかけ、さまざまな解釈を呼ぶ豊潤なドラマが反響を呼んでいる。ビルヌーブ監督は「映画には3種類あると思う。劇場から1歩外に出たら忘れてしまうもの、考えさせられたり人と分かち合いたくなるもの、そして考えすぎて人と話したくないもの。『メッセージ』を見た多くの人に言われたのが、映画館を出た後にみんなでレストランに行ってものすごく話し合っているということ。本作は言語についての映画だから、そういう風に(観賞者の)会話や対話を触発しているのはとても美しいことだと思う」と目を細める。
観客の盛り上がりを歓迎するビルヌーブ監督だが「『メッセージ』はとても長い編集のプロセスがあって、編集担当のジョー・ウォーカーと僕で、何回見ても構造に欠陥がないように、見るたびに新しい発見がある作品にするために尽力した」と試行錯誤の連続だったと明かす。「2回目に見ていただくと、鑑賞経験がより感動的になる。1回目に難しいと思った部分ももう感じないし、ルイーズの道のりにしっかりと寄り添うことができるから。何度も見られるように意識して撮影もしていて、エイミー(・アダムス)もそれを踏まえた演技をしているんだ。異文明の存在がやってくるという極端な状況にルイーズは置かれているから、彼女はずっと緊張を感じている。エイミーに出演をお願いしたのは、言葉で説明せずとも、魂でそれを感じさせてくれる役者だから。1つの演技であっても多層的に感じられるように演じてくれた」と5度もオスカー候補に選出されたアダムスへの感謝も忘れない。
ビルヌーブ監督が語るように、本作のキーとなるのは“言語”であり“対話”だ。ルイーズとヘプタポッドのコミュニケーションを通じて“思い”が通じる喜びを描くと同時に、ヘプタポッドの来訪によって混乱した人類間の衝突をも描き、理解し合うことの難しさを問いかける。言葉が通じないルイーズとヘプタポッドが歩み寄り、言葉が通じるはずの人類同士が疑心暗鬼にとらわれていがみ合ってしまうというアイロニカルな構造は、本作の重要なテーマの1つでもある。
ビルヌーブ監督は「ルイーズが(ヘプタポッドと意思疎通を図るために)やっていることにロジックが成立してほしくて、言語学の専門家たちに参加してもらったんだ。(ルイーズが)ホワイトボードに文字を書いて『HUMAN』と教えるのがあまりに原始的だから、監督としては大丈夫かなと思っていたんだが、専門家たちと話していると、言葉が通じ合っていなくても、その人と関係を持つことが大事なんだ、それがコミュニケーションなんだと気づかされる。お互いに耳を傾け、直感を大切にする、それがとても美しいことだと思ったから、プロセスをなるべく取り入れて描きたいなと考えたんだよ」と語る。
ビルヌーブ監督は同時に、本作は「人生、あるいは生きること、さらには死を祝福する映画でもある」という。本作にも監督ならではの死生観が反映されており「カナダや北米では死を恐れる傾向があり、死について語るのが醜いもののように扱われているけれど、死というものを受け入れられることは美しいと僕は思う。僕の人生で感銘を受けた瞬間が4つあって、3人の子どもそれぞれが生まれた瞬間、そして祖母が僕の腕の中で息を引き取ったこと。言葉で表現するのは難しいんだが、彼女の逝き方には奇妙な美しさがあり、流れに身を任せるべきだと悟ったんだ」と本作にも通じる実体験を明かした。
ビルヌーブ監督の口からは詩的な表現がとめどなくあふれ、唯一無二の感性を感じさせる。どのように想像力を培ってきたのか問うと「聞かれたのは初めてだよ(笑)! どう答えていいかわからない……でも、夢想していることが多いかな。少年時代からいろんなことを空想するタイプだったんだ。なんだか、急に裸にされてしまった気分だよ(笑)」とはにかんだ。
「メッセージ」は、5月19日から全国公開。
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