自閉症少年に密着取材した「ぼくと魔法の言葉たち」監督の“はみ出し者”への共感
2017年4月7日 17:00

[映画.com ニュース] 自閉症で言葉を失った少年とその家族の日々を追ったドキュメンタリー映画「ぼくと魔法の言葉たち」のロジャー・ロス・ウィリアムズ監督が3月に来日。自閉症の人々が秘める可能性や、社会の“はみ出し者”への共感を映画.comに語った。
映画は、2歳のときに突然言葉を失った自閉症の少年オーウェン・サスカインドが、ディズニー・アニメーションを通して言葉を身につけ、外の世界に適応していく術を学んでいく姿を映し出す。オーウェンの父親で、ウィリアムズ監督の長年の友人ロン・サスカインド氏によるノンフィクション書「ディズニー・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと」をもとに幼少期を振り返りつつ、大学卒業を控えたオーウェンが自立した生活を送ろうと奮闘する約2年間に密着取材した。第89回アカデミー賞では、長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。
近年、自閉症スペクトラムを含む脳の発達障害に対する理解は広まってきたとはいえ、彼らはいまだ社会のはみだし者のように思われがちだ。ウィリアムズ監督は、「ぼく自身もはみだし者だと感じたことがあるから、オーウェンの物語に共感し、映画でつづりたいと思った」と明かす。そんな共感は、母校の高校でスピーチしたエピソードにも表れる。2013年の短編ドキュメンタリー「Music by Prudence(原題)」で、アフリカ系アメリカ人監督として初めてアカデミー賞受賞の快挙を果たした後のことだ。
「周囲にうまくなじめないことや、足並みをそろえられないことが悪いことだと思っている人こそ大成する、と話したんだ。生徒たちは列をなして、ぼくに感謝の言葉をくれたよ。だけどスピーチの後、校長先生は、『今のは監督の本音ではありません。みんなが成功できるんです』なんて修正しようとした。でも、ぼくが伝えたかったのは、自分が一番の負け犬だと思っている人こそ、一番大きな成功を収める可能性があるってことだ」
本作では、対象を外から観察するのではなく、対象の視点から外の世界を見つめた。「誰も本当のぼくを見ていない」というオーウェンの心情に寄り添った結果だ。それを可能にしたのは、ドキュメンタリーでは珍しいアニメーションによる表現だろう。「ピーター・パン」や「ノートルダムの鐘」といった名作アニメの挿入は、他者とのコミュニケーションが困難を抱える少年がいかにして周囲の世界を理解したかを知る手助けとなる。さらに、ディズニーの脇役たちに愛着を抱いたオーウェン少年が生み出した自伝的物語「迷子の脇役たちの国」の美しくイマジネーションにあふれるアニメーションは、自閉症への偏見を覆す。
「健常者と言われている人たちは他人からどう見られているかにとらわれているから、実はオーウェンや自閉症スペクトラムの人たちのほうが自由な魂を持っているのかもしれない。オーウェンをより理解し、彼の世界を共有できるような作品をつくりたかったのもあるけど、同時にスペクトラムの人々の世界が美しく豊かで、ぼくたちの世界よりも自由だと観客に感じさせたかったんだ」
「迷子の脇役たちの国」は、オーウェンの分身である少年ティモシーが、「アラジン」のイアーゴや、「リトル・マーメイド」のセバスチャン、「ライオン・キング」のラフィキたちからアドバイスをもらいながら、それぞれの内なるヒーローを探す冒険譚だ。幼い頃に「ぼくは脇役」と明言したオーウェンだが、いまでは「ぼくがヒーローだ」と口にするようになったという。オーウェンが愛した脇役たちは、彼のコミュニケーション能力を発達させ、精神的自立を促しただけでなく、洞察力に満ちた人生観も開拓したようだ。
「ある映画祭で観客に『あなたはセレブ(有名人)ね』と言われたとき、オーウェンは『違うよ。セレブって自分のために有名人でいる人のことでしょ。ぼくは、今年ここでセレブレーション(祝福)されているだけだから』って答えたんだ。彼は、(ディズニー・アニメーションが内包する)神話や寓話を糧にして成長してきたから、聡明で哲学的なのさ」
映画の後日談になるが、社会人としての一歩を踏み出したオーウェンは、ディズニーキャラクターの模倣画からステップアップして独自の創作に打ち込み、個展を3度開いたそうだ。
「ぼくと魔法の言葉たち」は4月8日公開。
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