アニメの神様、ユーリー・ノルシュテインが伝えたいこと
2016年12月9日 09:00
[映画.com ニュース]ロシアのアニメーション監督、ユーリー・ノルシュテインの生誕75周年を記念した特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」が12月10日から開催される。「霧の中のハリネズミ」「話の話」など、代表作6作品を高画質・高音質でよみがえらせたデジタルリマスター版で上映する。手塚治虫、宮崎駿、高畑勲監督らをはじめとした世界中のアニメーション作家からリスペクトされるノルシュテイン監督が来日し、自身の作品や幼年期、未来を担う子供たちに伝えたいことを語った。
ソビエト時代に、偶然アニメの世界に足を踏み入れることになったというノルシュテイン監督。切り絵を用いた緻密な作風で知られ、“アニメーションの神様”として称えられる唯一無二の豊かな映像表現はどのように生み出されるのだろうか。
「いつも幽霊や幻影から、どうやって私たちの未来を作り上げるかを考えています。その源泉をたどると、過去に触れた様々な文学作品のなかで感動、共鳴したもの、それから今でも自分の頭の中に残り、息づいている強烈な経験から出てきているような気がします」
「私がこの文化の中で生き、アニメーションを製作するようになり、仕事を全うすることが大事だと考えています。私はもともと美術や絵画を愛していました。ですから、私は絵画の構図を見るような形でスクリーンを見るのです。アニメーションのキャラクターは重要ですが、私にはキャラクターが生きる世界、その空間がより重要なのです。その表現の豊かさが、結果として作品に表れるのかもしれません」
「私の美の概念は、その中で時が進むものであると思っています。時間の経過がその中で行われるということのすべてが、私にとって美しく感じられるのです。ですから、私にとっての美は、この世界から切り取られたものの中にはありません。必ずこの世界に結びついていることが重要なのです」
「若い人々は美しいです。しかし、年寄りたちはそれにも劣らず美しい場合があるのです。その姿や顔の中に、生き抜いてきた苦しみや喜び、どういう生き方をしたか、真実の生き方をしたかという時間の経過の痕跡が見られるときに、自然が与えた美を持っている若い人よりも、年配の人のほうが私にとっては美しく見える場合があります」
「若いときは困難さを回避したいと考えるのが自然です。しかし、いずれ困難のときが訪れるかもしれない。オスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』という小説は、この問題を我々に提示してくれます。社会の営みの中では、様々な問題がありますが、今はそこから離れてなんとか無事に生きたいという人だらけです。私はそのように、世界に結びつかないものには美を見出せないのです」
そのような自身の哲学を作品に反映し、小さな子供たちにも、いつか何かしらの形で伝わるよう願っているという。
「『話の話』は子供向けとはいえませんが、何かが心に残るのでしょう、小さい子供も夢中になってくれるのです。私は、大人のための作品の中から子供に読み聞かせ、大人と共有できる世界を手渡したいという気持ちがあります」
「例えば、母親が子供の手を引いて池沿いで散歩をしたとき、『古池や…』と言ったとしたら、子供はその意味がわからなくても、その後どこかで松尾芭蕉の句を見つけたとき、その記憶がふとよみがえるのです。そのとき子供の脳は活性化し、思考方法が深くなるのです。そういう機会が増えれば増えるほど、子供は大人になったときに、世界に広がりを持つかもしれない。だから、私は親がそういう知識を持って、子供に手渡して欲しいと思うのです」
「子供の特質を見ながら、その子たちが持っている、“辞書”の中身を増やしてあげるのが大人の役割だと思うのです。豊かな音楽、言語、絵画や映画を与えるのです。私の子供時代は、戦争があり苦しい時代でした。今のように便利なものもありませんでしたし、日々親の手伝いをさせられ、自立できるよういろんなことをやらされました。そんな中でも母は、いろいろと考えてくれました。私は絵をいつも描いていましたし、かなり早くから本を読み始めました」
幼少期に自然に触れながら暮らしたことが、豊かな感性をはぐくむ礎になったと語る。
「子供の頃に住んでいたアパートの前に木がありました。私はこの木についていつか作品を作りたいと思い、絵コンテを作りました。うろが大きい泥柳という木です。何十年経ってから、ドラマチックな光景を見ました。枯れるだろうと思っていたら、うろの上の方から枝が出て、土の中に根を張っていたのです。生き抜く力、木が死に絶える時の生命の貪欲さに感動し、それを哲学的に受け入れました。そして数年後、木は切られて大地の上に大きな体を横たえていました。庭師が切っている最中に、私の目には木が切らないでくれと訴えているように見えたのです。その樹木と、新たな命も魂で対話をしていたので、木の言葉が聞こえたのです。こうしたアプローチは子供時代にはぐくまれました。大人になったからできるようになったのではないのです」
「昔の生活ではねじを巻いて時計を合わせていました。いまの生活は、どこかで大きなねじを巻かれ、我々は針のように動かされる、そういう錯覚を覚えます。あまりにも便利すぎて、すべてが空虚なものに感じるのです。現代の子供は、田舎に行って、水道に手を差し出して水が出ないと言います。便利になりすぎた社会で、人は水を出すために栓をひねる小さな動作さえ忘れてしまうのです。このエピソードだけで、小さな映画ができると思います。私は手を使いたい。人間にとって、自然性を残すということはとても重要なのです」
特集上映「アニメーションの神様、その美しき世界」は12月10日、シアター・イメージフォーラムほかで順次公開。
執筆者紹介
松村果奈 (まつむらかな)
映画.com編集部員。2011年入社。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
【推しの子】 The Final Act NEW
【忖度なし本音レビュー】原作ガチファン&原作未見が観たら…想像以上の“観るべき良作”だった――!
提供:東映
物語が超・面白い! NEW
大物マフィアが左遷され、独自に犯罪組織を設立…どうなる!? 年末年始にオススメ“大絶品”
提供:Paramount+
外道の歌 NEW
強姦、児童虐待殺人、一家洗脳殺人…地上波では絶対に流せない“狂刺激作”【鑑賞は自己責任で】
提供:DMM TV
全「ロード・オブ・ザ・リング」ファン必見の超重要作 NEW
【伝説的一作】ファン大歓喜、大興奮、大満足――あれもこれも登場し、感動すら覚える極上体験
提供:ワーナー・ブラザース映画
ライオン・キング ムファサ
【全世界史上最高ヒット“エンタメの王”】この“超実写”は何がすごい? 魂揺さぶる究極映画体験!
提供:ディズニー
映画.com編集部もドハマリ中
【人生の楽しみが一個、増えた】半端ない中毒性と自由度の“尖った映画”…期間限定で公開中
提供:ローソンエンタテインメント
【衝撃】映画を500円で観る“裏ワザ”
【知って得する】「2000円は高い」というあなただけに…“超安くなる裏ワザ”こっそり教えます
提供:KDDI
モアナと伝説の海2
【モアナが歴代No.1の人が観てきた】神曲揃いで超刺さった!!超オススメだからぜひ、ぜひ観て!!
提供:ディズニー
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。