「空の沈黙」脚本家が語る、現在のブラジル映画界
2016年11月4日 17:00
![カエタノ・ゴタルド](https://eiga.k-img.com/images/buzz/61421/3e3f82e309f9a3a0/640.jpg)
[映画.com ニュース] 昨年の東京グランプリ受賞作「ニーゼと光のアトリエ」(TIFF上映タイトル「ニーゼ」)も、今年の出品作で高い評価を集めた「アクエリアス」もまたブラジル映画。リオ五輪の高まりが記憶に新しいなか、映画界も良質な作品が世界に羽ばたいている。そんなブラジルからコンペにも1作品、今年も選出された。「空の沈黙」は世界的に注目を集めるマルコ・ドゥトラ監督による、サスペンススリラーだ。監督は新作撮影のため来日はかなわなかったが、監督の親友であり本作の脚本を手掛けたカエタノ・ゴタルドに、作品の詳細やブラジル映画界について聞いた。
ある夫婦のミドルエイジクライシスをスリリングに描いた本作。冒頭からして衝撃的だ。妻ディアナは自宅に押し入った男ふたりにレイプされていた。彼女はそれを秘密にしておくことを決意。だが、じつはそのとき、窓の外から夫マリオはそれを目撃していた。マリオは犯人たちを追い払おうとするも後手に回り取り逃がす。ふたりの心には喉に刺さった棘のように、解決できない違和感が残る。「原作は夫の視点だけで描かれていましたが、映画の脚本では変更をしました」というゴタルド。
カエタノ・ゴタルド(以下、ゴタルド):じつは監督が決まる前から、原作者のセルヒオ・ビージオさんと彼の妻が、映画用の第1稿を書きあげていました。その後、マルコ・ドゥトラと私が決まり、脚本をさらに修正したんです。一番の違いとして、原作では完全に夫のマリオの視点で彼の考えがモノローグで描かれていました。夫婦別居中の描写とか、いかに中年の危機を迎えたか、新しい彼女、年を取ることへの嘆きなど、いろいろな要素が入っていたのです。ですが、映画化にあたりかなりの部分をそぎ落としていき、夫婦がまた一緒の生活を始めるというひとつのストーリーに絞ることに注力しました。
妻のディアナは冒頭、酷いトラウマを抱えることになります。大変な出来事ですので、彼女をよりクローズアップして苦悩を大きく描いています。あと、原作には出てこないキャラクターも登場しています。彼女の職場の友人がそのひとりで、彼女がブラジル人であることも原作にはない設定です。それとセラピーに行く部分も変更しました。映画ではマルコがセラピーに行ってきたよと言いながらレイプ犯を追いますが、原作では本当にセラピーに行き、飛行機恐怖症を克服しようとしています。
こういった工夫がなされたおかげで、主人公の夫婦の心理的危機を描くアートハウス作をエンタテインメントに昇華している。モノローグと印象的なカット割りで描き出す手法が多用されており、ブライアン・デ・パルマのような手ざわりがある。
ゴタルド:私も監督も、往年のサスペンス映画の巨匠の作品が大好きですから(笑)。ブライアン・デ・パルマやヒッチコックなどをリスペクトしています。オマージュを捧げたつもりはありませんが、何度も何度も繰り返し観ているせいか、マネしようとしなくてもにじみ出てしまうんでしょうね。
アートの香りを強く残しながらも、万人にうける娯楽としても観られるのは、商業映画とアート映画が二極化する現代においては貴重なことだ。TIFFをはじめ、各国映画祭でブラジル映画が活気を帯びているのは、こういったバランス感覚があるからではないだろうか。「幸いにして、この10年ほど、ブラジル映画界はとても活気があるんですよ」とゴタルドが語る。
ゴタルド:ブラジル映画界は1990年代中盤から終盤にかけては苦しい時代もあったのですが、政府の文化的政策のおかげで少しずつ資金繰りがよくなり、2000年代に入ってからは非常に元気です。以前にはなかったような映画学校、国公立大学の映画学科も今は多く存在し、いろいろな助成金のプログラムなどサポート体制が充実してきました。かつ、デジタル革命も同時期に起き、今までより安く映画を制作できる環境になったことも起因しているでしょう。
2000年代以前の映画製作は、サンパウロやリオデジャネイロなど大都市に限られていたのですが、今では中級の都市でもどんどん映画を作るようになり、これまで以上にいろいろな新しい視点やアイデアが出てくるようになりました。そういった芽生えがあるから映画作家の視野も広がってきており、多様な映画作りができるようになってきているんだと思います。
特にブラジル国内市場においては、商業映画もコメディ映画も非常に調子がよく、映画人口が増えている感があります。そのため、アート映画にも少しずつ間口が広がっており、各国の国際映画祭での立場も確保できているのだと思います。たとえば「ニーゼと光のアトリエ」は商業的には中規模の作品でしたが、あの規模にしては何か月も劇場公開が続いた成功事例のひとつになっています。今年のカンヌ映画祭のコンペティションに出品された「アクエリアス」も、監督の前作に比べ2倍の収益をあげました。こういった成功事例があるからこそ、私たちはみな、リスクをいとわず多様な映画を撮るようになり、新しい道を開拓しつつあるんです。
好調なブラジル映画界だが、ひとつだけ懸念があるという。それは政局だ。
ゴタルド:ルセフ大統領は弾劾裁判で失職し、ミシェル・テメル新大統領が就任しましたが、彼がまず行ったことは文化省の廃止でした。しかし、我々文化人はそれに反撃すべく街頭でデモを行ったりしたので、すぐ撤回され文化省は復活しました。そういった局面なので、我々は闘い続けなければならない状況にあるんですよ。
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