浮世絵に宿る細田守エッセンスを考察 歌川国芳や国宝作品との驚きの共通点とは
2016年10月30日 15:15
[映画.com ニュース] 細田守監督の長編アニメーション「バケモノの子」(2015)が10月30日、第29回東京国際映画祭内の特集企画「映画監督 細田守の世界」で上映され、細田監督と東京国立博物館の学芸員である松嶋雅人氏(学芸研究部列品管理課・平常展調整室長)がトークショーに出席した。
本イベントでは、細田監督と金沢美術工芸大学時代の同級生だという松嶋氏が、「日本絵画史からみた細田守作品」をテーマに、浮世絵師・歌川国芳や国宝・孔雀明王像といった美術作品と細田作品の共通点を紹介。さらには、細田監督が「絵画史のなかでのアニメーション映画の位置付け」についても語った。
細田監督は、「デジモンアドベンチャー」(1999)から「キャラクターに影をつけない」という表現を用いている。松嶋氏は国芳の「東都名所 新吉原」「あふみや紋彦」といった作品を例に出し、「浮世絵も人物のなかに影がついていない。背景描写は、実在感があるようにきっちり書くが、人物のなかには影がない。どういうことかというと人物をキャラクター化しているんです。観念上の人物として表している。その方が日本の人たちには、芸者さん、遊女など、特定の役割を演じている人に感情移入しやすい」と解説。そのうえで、背景とキャラクターの効果的な表現として「今回の『バケモノの子』のように、背景が我々が知っている渋谷がだったりすると、ミックスされて、よりファンタジーの人物に実在感が沸くんです。こういった“キャラ化”は共通する特徴だと思います」と力説した。
さらに、松嶋氏は「時をかける少女(2006)」「サマーウォーズ」「おおかみこどもの雨と雪」では場面が異世界に切り替わると、キャラクターの輪郭線が赤色に変わっていることにも触れた。スクリーンに孔雀明王像を映し「仏や神々の輪郭線は朱色。これは神々しい敬うべき対象としての記号」「視覚的に『世界が変わったよ』と伝える記号になる。異世界の生き物、現実の世界の生き物ではないものがいることで、違う世界にいると示す。こういったことが、日本の絵画の伝統にあるわけです」と熱弁。松嶋氏が「そういう意識はなく使っていたんですよね?」と問いかけると、細田監督は「先生からそういう話を聞くと、そういうつもりだったような気がします(笑)」と答えた。
「今日はそちら側(客席)に行きたいくらい」と言い、松嶋氏の話に熱心に耳を傾けていた細田監督。松嶋氏が「細田監督の作品には日本絵画のエッセンスが強く表れている」と評すると、「アニメーション映画って実写の亜流みたいな、実写で描く物語をアニメで描きましたって風に捉えられがちじゃないですか。演劇の亜流が映画であって、映画の亜流でアニメ映画があるっていう風にみる人がいるんだけど。でもやっぱり、美術大学で絵画を学ぶとアニメーション映画っていうのは、長い絵画史のなかの一番最先端のところにある。演劇の歴史も絵画の歴史も長いので、絵画史のなかでアニメーション映画を発展していきたいと思っている。松嶋先生のように見てくれると、いろんな楽しみ方ができると思いました」と言葉に力を込めた。
第29回東京国際映画祭は、11月3日まで開催。
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。