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森田剛、壮絶な狂気まき散らす「ヒメアノ~ル」で体現した“普通でいること”

2016年5月29日 08:00

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「ヒメアノ~ル」場面写真
「ヒメアノ~ル」場面写真
(C)古谷実・講談社/2016「ヒメアノ~ル」製作委員会

[映画.com ニュース] 森田剛吉田恵輔監督作「ヒメアノ~ル」で映画初主演を飾った。役どころは、普段のイメージとはかけ離れた猟奇殺人犯。自らの存在意義を誇示するかのように凶行を重ね、壮絶な狂気をまき散らしていく役に、どのように向き合ったのかを聞いた。

「話を頂いた時はちょうど舞台をやっていたころで、その時も人を殺す役だったので、その流れでいけると思いました」。森田は淡々と、オファー当時を振り返った。質問にはシンプルな語り口で答え、朴訥とした雰囲気を漂わせたかと思えば、時折り軽やかな笑みをのぞかせ、周囲を和やかにする。一筋縄ではいかない空気感と人懐っこさが同居するたたずまいは、内面に広がる深淵をうかがわせる。

原作は、「ヒミズ」の古谷実氏が生み出した“実写化不可能”の問題作。ビルの清掃員として働く岡田(濱田岳)や安藤(ムロツヨシ)、カフェ店員・ユカ(佐津川愛美)のコミカルな恋愛譚が描かれる裏で、ユカを執拗に付け狙う森田正一(森田)の地獄の日々が同時進行で映し出される異色サスペンススリラー。三度の食事をとるかのように、当然のごとく人を殺していくシリアルキラー・森田正一を体現してみせた森田。その不気味さは、“怪演”の言葉がふさわしい。

鉄パイプでの殴打、放火、強姦、銃撃、包丁でメッタ刺し、ひき逃げ……。原作の森田が持つ“動機”を薄め、代わりに暴力性を際立たせたことで、殺人を肯定することなく突き放し、共感不可能なモンスターを創出した。「(役に対し)共感や理解はできなかったです。映画の中の森田正一は、高校時代のいじめが(殺人衝動の根源として)大きかったと思いますが、だからといって人を殺していいわけではない。いじめは、ほとんどの人が大なり小なり経験したことがあると思う」。それだけに精神的な葛藤はあったようで、「1日で3人を殺さなければいけない(撮影)日は、流石に重い気持ちになりました」と話し、「引きずることはないんですが、ちょっとイラッとしたり、違う自分が出てくることが多かったです」と述懐する。

そんな難役に挑む森田に、吉田監督は「何もやらないこと、普通でいること」を注文した。森田は「監督の演出が絶対」とポリシーを打ち明け、「監督の言う『普通』が、やっぱり大きかったですね。(役から逸脱し)変わっていくことが怖かった」と語る。殺しが「普通」のこととなった森田正一になりきるうえで、「衣装」が重要なポイントになったそうで、「暗めの衣装に監督はこだわれていて、衣装合わせに時間をかけた分、スッと入っていけました。セリフのニュアンスも、シーン毎に監督に演出してもらっていましたね」と説明した。

暴力性全開のアクションでも、吉田監督はウェルメイドではない生の迫力にこだわった。「よりリアルに見えるように、ということは監督が特に意識されていたことでした。殴り方や刺し方、体の預け方など、監督から細かく指示があったので、それに応えなければという意識がありました。アクションはもっと動きたくなるんですが、なるべく普通でいるという気持ち悪さにこだわっていました」。演じるうえで過酷だった場面として「警官を殺すひと幕は、体力的に一番しんどかった。あと精神的に疲れたのは(共演の)山田真歩さんを棒で叩くところ」を挙げる。「相手もいるわけだから力芝居で100%は出せないんですが、監督は『100%でやってくれ』と。無茶だと思ったけど、そこも大事だと思ったので、100%でいきました。普段、ポカーンとしているやつから出る必死さを狙っていると思いました」と吉田監督への信頼感をにじませた。

映画出演は「人間失格」(2010)以来、約6年ぶり。近年は蜷川幸雄さんや宮本亜門らの寵愛を受け、「血は立ったまま眠っている」「金閣寺」など舞台の世界で研鑚を積んだ。宮本が「絶対に世界に通用する才能」と認める表現力が、「ヒメアノ~ル」での“普通でいること”を実現せしめている。

「V6」メンバーの反応も気になるところ。「メンバーには見てもらいたいですね。家族に見てもらう感覚に近いです。岡田(准一)に『一緒に見に行こう』と話してしまったんですが、映画館は行きたくない。お客さんが入っていなくてガラガラだったら、気まずいじゃないですか(笑)」と照れ笑いを浮かべた。

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