坂本龍一が明かす、オスカー受賞作「レヴェナント」の音楽制作における苦労と葛藤
2016年4月18日 19:30

[映画.com ニュース] 第88回アカデミー賞で監督賞、主演男優賞、撮影賞の3冠に輝いた「レヴェナント 蘇えりし者」で音楽を手がけた坂本龍一が映画.comの取材に応じ、音楽制作の裏話を語った。
坂本は、本作のメガホンをとったアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「バベル」(2006)に楽曲を提供しており、かつデビュー作「アモーレス・ペロス」(99)からのファンだという。「1番の魅力は、映像の力。テーマもメキシコ人らしく、どの作品にも生と死、暴力がありますよね。そこにひかれます」。
坂本にイニャリトゥ監督の人となりを聞くと「非常に細かくて完璧主義者」と答えが返ってきた。「絶対に自分でいじらないと気がすまないタイプ。(たいていの場合、映画監督は)僕が作った音楽をそのままその場所で使ってくれることはまずないのですが、イニャリトゥはお互いに何回も相談や調整をして、僕が最終的にこれでいこうと作ったものもいじる(笑)。イニャリトゥとやるまでは(『ラストエンペラー』『リトル・ブッダ』で組んだベルナルド・)ベルトルッチが1番難しかったですが、今はどっちとも言えない」。
「(自分の音楽が最終的にどうなっているかわからないから)試写を見るのが毎回心臓に悪い(笑)」と冗談めかして語る坂本だが、「映画音楽は自分の想像力では思いつかない題材や映像、監督の言葉によってインスピレーションを受けるので、自分の(発想だけで作曲する)音楽にはない刺激を得られる」と表現者同士のぶつかり合いを歓迎する。「本作の舞台は19世紀のアメリカで、あまりなじみのない音楽や文化だったりするわけです。作品に関わる上でこちらも勉強しますし(映画音楽の制作は)1回1回が旅をしている感じですね」。
本作では「風の音や雪、水の音といった自然の音」を入れ込み、壮大なだけでなく間(ま)を効果的に用いた音楽で映像との親和性を図っている。「今回の作業で録音とミックスをやってくれた若いドイツ人がいるんですが、彼のガールフレンドが完成した映画を見て『音楽が10分くらいしかなかったわね』って言ったらしいんです。実際は2時間分くらいあったんだけど、それくらい環境音や効果音に聞こえちゃった。実を言うと、アカデミー賞の作曲賞にノミネートされなかったのはそれも大きな理由の1つ。そういうものを目指していたわけだからある意味誇りですが、嬉しいとともにもちろん悔しいですね」。
まさに音楽と映像が完全に融合している証拠といえるが、そんな坂本にお気に入りのシーンを聞いた。「半年くらいの作業の中で何百回も見ていますが、自然のシーンが僕は好きですね。氷上の小さな草が風に揺れているようなシーンや、木が氷でいてついていて、氷のかけらが落ちて硬質な音が聞こえるシーン。あと、歩いている(レオナルド・)ディカプリオが見えないくらいのロングショットで、広大な山と雪原を映し出すシーン。(映画ではそのシーンでメインテーマが流れるが)『ここでしょう!』と(笑)」。
環境問題にも積極的に取り組んでいる坂本は、「自然の中で、人間は非常に無力。本作にはそんな、過酷な自然との戦いが描かれています。僕たち日本人は3・11で自然の巨大な力を思い知らされたけど、そういったことを思い出させてくれますよね。自然の中で僕たちが生きているということは忘れないほうがいい」と結んだ。
「レヴェナント 蘇えりし者」は、狩猟中に熊に襲われてひん死の重傷を負ったハンターのヒュー・グラス(ディカプリオ)が、隊のメンバー、ジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)に殺害された息子の無念を晴らすべく、苛酷な自然環境の中で生き抜こうともがくさまを描く。4月22日から全国公開。

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