「ガールズ・ハウス」監督のコメディ作品からの新境地開拓

2015年11月2日 22:45

イランの古きモラルについて語り尽くす
イランの古きモラルについて語り尽くす

[映画.com ニュース] 結婚式を翌日に控えた花嫁の突然の死。その真相を追いながら、近代化をひた走るイランの古きモラルやこじれた家族関係を描く「ガールズ・ハウス」は、サスペンスの醍醐味を凝縮させた一作。これまでコメディ作品で活躍して来たシャラーム・シャーホセイニ監督の新境地開拓作としても注目されている。そんな監督と、プロデューサーのモハマド・シャイェステ、そして花婿を演じたスター俳優ハメッド・ベーダットが揃って来日した。

これまで3作のコメディ映画を撮ってきた監督が、結婚式の前日に死んだ花嫁の謎を追うシリアスな本作を撮ったきっかけは?

シャラーム・シャーホセイニ監督(以下、シャーホセイニ監督):私はもともとコメディを作っていましたが、いつでも社会的な問題を描きたいという志は持っていました。社会的な問題も上手く描ける自信もありましたし。この脚本をもらった時に、最初のほうは戸惑いながら読んだのですが、読み終わった時には、「絶対に撮りたい」と思っていました。とにかく、サスペンス色の面白さが強いところに惹かれました。

「面白い」と思われた部分はどこですか? 女性にとってはとくに「怖い!」と感じる内容だと思いますが。

シャーホセイニ監督:男性としては、その女性と結婚することになった時、女性の過去、とくに男性関係を忘れて新しい人生を歩まなければいけない。それは男性にとって、ものすごく大きなチャレンジなのです。ハメッド・ベーダットが演じた花婿マンスールにとってもそうだったのです。

チャレンジは女性も同じだと思うのですが、本作では女性の方が不利に描かれています。イランはまだこういう現状ですか?

シャーホセイニ監督:男性に過去はないから(笑)。

それはズルいです(笑)。

シャーホセイニ監督:イランでは、男性はすごくお得だといわれています(笑)。

婚約者サミラの過去を気にしながらも結婚を決意したのに、相手が突然死んでしまい衝撃を受けるマンスールを演じた感想は?

ハメッド・ベーダット:時に男はズルいとか、意地悪だとかいわれますが、それはひとつのネガティブな側面だけをまとめているからです。人間はそういう部分がある一方で、優しかったり思いやりがあったりする。その両面が重なり合って形成されているのが人間だと思うのです。私たちは役柄をもらって演じますが、時として白黒はっきりしたキャラクターばかりではありません。グレーにならなければいけないこともたくさんあり、またそのグレーこそ人間の真理だと思います。

本作は、近代化の進むイランにいまだ根深く残る宗教的なしきたりや因習をキーワードとしながら、謎解きの面白さを加えています。

シャーホセイニ監督:できるだけディテールを細かく、きちんと撮ろうと思いました。いちばんサスペンス色が濃くなるのは、花嫁がマンスールの母親と妹と一緒に行く産婦人科のシーンですよね。あまり詳しくは言えないのですが。とにかく、それまで小さな質問と、小さな答えがたくさんあるのです。いわゆる布石をちりばめたのです。だからこそ産婦人科のシーンが生きてくる。あのシーンがなければ、観客を映画の中に引っ張る力も弱くなったでしょう。

フラッシュバックが巧みでしたが意図は?

シャーホセイニ監督:昔は、いろいろな話が同時に進行していく物語を説明するのに、アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督的な映画だと言っていました。でも、私たちの東洋的な考え方だと、“一瞬”がすごく大事なのです。この“一瞬”を説明するために、この作品では過去から離れ、少し間を置いて説明をしています。その過去から離れるところにフラッシュバックが生まれます。だからありきたりのフラッシュバックとちょっと意味が違ってくるのかもしれません。

プロデューサーとしては、本作のどこに惹かれて製作を担当することにしたのですか?

モハマド・シャイェステ:この作品は、花婿役のベーダットが持って来てくれたのです。最初は脚本を書いた、イランで有名な監督パルウィズ・シャーバズィが作りたかったのです。結局、監督はシャーホセイニになりましたが。とにかく、最初に脚本を読んだ時、ひとつのシーンにすごく惹かれてこれは絶対に出資に参加しようと決めたのです。そのシーンとは、マンスールと婚約者が車の中で過去の恋愛話をするシーンです。「手を握ったことはあるか、付き合ったことはあるか?」と問いただすシーンの男の立場に自分を置き換えてみたら、すごく共感し、自分にも当てはまる話だと思いました。女性人気の高いベーダットが出演していることは嬉しいけれど、でもこの作品は女性向きだと思わないし、正直、資本が戻るかどうか、五分五分だなと思いながらも参加したのです。でも、このプロジェクトは絶対にやりたかったのです。

ペルシャ猫を誰も知らない」(09)で知られるハメッド・ベーダットをはじめ、サミラには「彼女が消えた浜辺」(09)のラーナ・アザディワル、サミラの父役には「別離」(11)でベルリ映画祭男優賞を受賞したババク・カリミと、人気者や実力派が勢ぞろいしていますが?

シャーホセイニ監督:脚本を書いたパルウィズ・シャーバズィは、この作品をベーダットのために書いたのです。だから、私もプロデューサーもマンスールは彼しかないと思っていました。サミラに関しては、私としてはもう少し知名度のない、映画や演劇を学んでいる最中の素人的な女性を選ぼうと思っていたのですが、プロデューサーが絶対に有名な女優を使うべきだと言って。結局、高いギャラも払ってくれました。

監督がこの作品に込めたメッセージは?

シャーホセイニ監督:「私を判断しないで」。これに尽きると思います。

(取材/構成 金子裕子 日本映画ペンクラブ)

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