ロバート・バドロー監督が明かす、チェット・ベイカー演じたイーサン・ホークのパフォーマンス
2015年10月27日 21:15
[映画.com ニュース] 第28回東京国際映画祭コンペティション部門で上映された「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」は、1950年代なかばに“時代の寵児”と称され、ウエストコースト・ジャズの代表的存在だったトランペット奏者チェット・ベイカーの苦闘の時代を描いたもの。ドラックに依存し、暴漢に襲われて前歯を失っても演奏への執念を燃やすミュージシャンの愛と葛藤を、シャープな映像で浮き彫りにしたロバート・バドロー監督に、チェット・ベイカーへの思いや撮影の裏話などを聞いた。
ロバート・バドロー監督(以下、バドロー監督):昔から古いジャズや音楽が大好きですが、その入り口はボブ・ディランでした。14~15歳の時に夢中になって聴きまくりツアーにも行きました。それから彼に影響を与えたミュージシャンたちに興味を持って1930~50年代の音楽を聴き、60年代のジャズやブルースにも魅了されました。実際に、私が最初に撮った映画は、40年代を舞台にしたジャズ映画でしたから。
バドロー監督:彼は非常に矛盾を抱えたキャラクターです。そこに惹かれましたね。彼はオクラホマの農場育ちの田舎ボーイでありながら、とてもクールな男として知られています。またラブソングばかりを歌っているけれど、実際の恋愛はうまくいかない。そういった矛盾だらけの存在が面白い。それにアメリカの50~60年代という時代を描くことにも興味があったし、人種問題やドラッグ、恋愛や芸術、それに伴う葛藤といったテーマにもとても惹かれました。
バドロー監督:そこが製作する上で困難なところでした。カナダのオンタリオ州北部のへんぴなところでニューヨークとロサンゼルスを再現しなければならない。しかも10~11月に撮影したので、とにかく寒い(笑)。雪も降っているので、それをなんとかしなければならないし。ベイカーがオクラホマの実家に帰るシーンなど、実際に雪が降っているシーンもありますが、大半は雪を省かなければならなかった。ですから、才能ある美術監督と撮影監督の腕に頼ることも多かったです。ロサンゼルスでも3日間だけ撮影したのですが。
バドロー監督:実は、あの海はわざとじゃないのです。私たちは青空のカンカン照りを期待して行ったのですが、撮影日はぜんぜん晴れなくて、ああいう非常にムーディーなロサンゼルスになった。でも結果的には良かったと思います。光も柔らかくなったし、おっしゃるとおりチェット・ベイカーの心情を反映した画になったと思いますから。
バドロー監督:ごく普通にルール通りにオファーをしたら、たまたま彼自身も以前にチェット・ベイカーの作品を作ろうと思ったこともあって、即座にOKの返事をくれました。とにかく、スケジュールなどいろいろな面でタイミングがすごく良かったのだと思います。そして、出演が決まってからはとても前向きで情熱的に取り組んでくれました。脚本の段階から参加してくれましたし、音楽に関しても一生懸命に取り組んでくれた。結局、トロントで数カ月間を一緒に過ごしました。
バドロー監督:とても熱心に、献身的に役作りをしてくれました。彼の中でもベストなパフォーマンスを発揮したと私は思っていますし、彼自身も自分のキャリアの中でこれだけ上手くいくことはそうそうないと思っているみたいです。トランペットに関していえば、吹く振りが出来るぐらいの練習をして上手く演じてくれました。ケガをして入れ歯になったために上手く吹けない、というバスルームのシーンは彼自身に吹いてもらっています。さすがにパフォーマンスのシーンで使えるほどには上手くはないので、音楽担当のディビッド・ブレイドの協力を得たり、トランペット奏者のケビン・ターコットの演奏に頼っていますが。その代わり、歌は彼の声です。ニューヨークで女性のコーチをつけてボーカルトレーニングをしました。音楽のレコーディングもニューヨークで撮影の1カ月前に行ったのですが、イーサンは素晴らしかった。チェット・ベイカーの真似事にならず、でも彼のエッセンスはちゃんと出ている。そういう歌にしてくれたと思います。
バドロー監督:これで2作目なので、もういいと思っています(笑)。3~4年前にこういう作品を作りたいと思ったことが、イーサンやプロデューサーや音楽監督たちと自然にコラボできて、うまい具合に一人歩きして進化を遂げた結果がこの作品です。だから非常に満足していますし、誇りにも思っています。
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