全編手話の「ザ・トライブ」で女優デビュー ヤナ・ノビコバが来日「夢をあきらめないで!」
2015年4月15日 18:00
[映画.com ニュース] キャストにプロの俳優ではないろうあ者を起用し、全編を字幕、吹き替えなしの手話のみで描くというこれまでにない手法で世界に衝撃を与えた映画「ザ・トライブ」が、4月18日から公開される。静寂の中で、行き場を失った若者たちの暴力と愛が激しく描かれている。このほどヒロインを演じたヤナ・ノビコバが来日し、手話で撮影を振り返った。
第67回カンヌ映画祭批評家週間でグランプリを受賞した本作は、ウクライナの新鋭ミロスラブ・スラボシュピツキーの長編初監督作。ろうあ者のセルゲイは寄宿学校に入学するが、そこは犯罪や売春などを行う悪の組織=族(トライブ)によるヒエラルキーが形成されていた。セルゲイも犯罪に加担していくうちに、族のリーダーの愛人のひとりで売春をするアナを愛してしまい、組織の暗黙のルールを破っていく。
生後2週間で聴力を失ったノビコバは、幼い頃からダンスや絵画など表現することが好きで、女優を目指していた。キエフの劇団のオーディションに参加した際に、スラボシュピツキー監督の目にとまり、アナ役に抜てきされた。
本格的な演技経験はほとんどなかったため、生活を一変して役作りに臨んだ。劇中では、寮生活から逃れる資金のために売春を繰り返し、恋愛感情なく主人公のセルゲイと肉体関係を結ぶヒロインという難役を見事に演じきった。「私は普段陽気なほうですが、撮影の間は、笑顔を封印して本当のアナのように何も話さず、他人とも交わらないような態度で過ごしました。私自身のままでいると、アナの気持ちが表現できませんから。また、様々な映画を見て、短い期間に彼女のキャラクターと人生とは何なのかを考えました。また、体を売る仕事をしているので、太らないよう気をつけたり、ジムに行ったりもしました」
本作では、大胆なラブシーンに挑みヌードも披露している。第66回カンヌ映画祭のパルムドールに輝いた「アデル、ブルーは熱い色」を参考にし、同作で当時無名ながら一躍注目を集めた若手女優アデル・エグザルコプロスの演技に感銘を受けたという。「とても素晴らしい映画で、この作品を見てヌードシーンの美しさを知りました。私も、カンヌで賞をとりたいと思ったのです。ヌードの演技は、いきなり飛び込むのは難しいので、少しずつ覚悟を決めて演じました。脱ぐことによって、演技の幅が広がったと思います」
音のない世界に生きる登場人物たちを描くという、従来のサイレント映画とも違う本作。一切の説明なしに、我々観客は果たして作品を理解することは可能なのだろうか。「監督のアイデアでこのように仕上がりました。字幕がないことで、観客のみなさんは作品に集中することになります。手話だけですが、手話がわからなくても、登場人物の表情でわかってもらえる作品だと思うのです」
ウクライナといえば、ロシアとの政治的な緊張状態がいまだ続いているが、撮影に影響はなかったのだろうか。「昨年10月頃から撮影が始まって、12月の雪の降る寒い頃にキエフで暴動が始まりました。私たちが撮影した宿舎はキエフから離れていましたが、監督はキエフ近くに住んでいたので、非常に心配でした。しかし結果的には大きな影響はありませんでした」
本作出演後は「人生が一変した」と語るノビコバ。「以前は学校との往復と、友達と会うという狭い世界だけでした。今は、外国にも行き、飛び立って空から俯瞰するような気持ち。気持ちがオープンになりました」と話し、今回初来日を果たした。「映画の中で見た日本の着物の文化、下駄などの履物や傘をさすシーンなどがとてもきれいだなと思っていました。しかし実際に日本に来てみると、どうして着物を着た人がいないのだろうと驚いています(笑)。今回和食もいただき、初めてうなぎを見て、ヘビだ!と思ったのですが、とてもおいしかったです。また、神社などの建築、五重塔など美しい建物があることも知りました」と東京滞在を大いに楽しんだようだ。
劇中では終始陰うつな表情でヒロインのすさんだ日々を表現したが、役とは正反対の天使のような笑顔で、この作品を見る日本の観客にメッセージを送ってくれた。「誰でもいろんな夢があると思います。私のように、その夢はいつかかなうかもしれません。ですから、皆さんにお伝えしたいのは、夢をあきらめないでほしいということ。皆さんがもっともっと夢に向かうことを応援しています」
「ザ・トライブ」は4月18日からユーロスペース、新宿カリテほか全国順次公開。
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