「寄生獣」山崎貴監督を驚かせた、主演・染谷将太の卓越した眼力
2014年11月28日 08:00
[映画.com ニュース] 累計発行部数1300万部を誇る岩明均氏の伝説的な漫画「寄生獣」が、山崎貴監督、染谷将太主演で映画化決定と本サイトが報じたのは、2013年11月20日。原作の連載が「月刊アフタヌーン」で始まってから20年以上が経過していたが、原作ファンのみならず映画ファンは、上を下への大騒ぎとなった。あれからちょうど1年。約5カ月間の撮影を踏破し、10月下旬に完成した前編「寄生獣」は、第27回東京国際映画祭のクロージング作品としてワールドプレミア上映され、公開を待つばかり。紛れもなく今作の立役者といえる山崎監督と染谷に話を聞いた。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
「寄生獣」2部作の主演はその存在感をいかんなく発揮した染谷だが、もうひとりの“主役”ミギーについても言及しなければならない。名優・阿部サダヲが、CGとして描かれるミギーの声にとどまらず、全身にモーションキャプチャースーツ、頭部にヘッドマウントカメラを装着するパフォーマンスキャプチャー撮影に挑み、まさにミギーになりきって息吹を注ぎ込んだ。だが現場には、当然ながらミギーはいない。染谷は本番時、コンピューターにミギーの動きを取り込むため、右手にマーカーをつけて撮影に臨んだ。
ミギー不在の撮影現場で、染谷は孤軍奮闘どころか一人二役を積極果敢にこなし、いつからかミギーと同化していった。だからこそ、「現場では何もない状態でひたすら頑張っていたので、初号試写を見たとき、開始3分で涙が出そうになったんですよ。パラサイトがウネウネしているだけなんで、全然泣くシーンじゃないんですが(笑)。それぞれのキャラクターが浮き立っていて本当に素晴らしいし、VFXが役者の魅力を立たせてくれたり、役者がVFXの魅力を立たせたり、その相乗効果も面白いことになっていると思いましたね」と振り返る。
完成した映像を見たプロデューサー陣は、口々に「染谷君じゃないと出来なかった」とうなったという。山崎監督も、「ミギーが入って完全な映像ができあがった時、まるで最初からそこにミギーがいたかのようで、ちょっと驚がくした。目線の動かし方も含め、『こいつ、ここまで読んでやっていたのか?』ってね」と驚きを隠せずにいる。さらに、「僕もある種の計算のうえでは見ていましたけれど、CGをはめてみないとわからないわけですよ。撮影中に染谷が『ミギーが見えました』っていうから、『こいつ大丈夫か?』と思ったんですが、『あ、本当に見えていたんだね』っていうのが、画として理解できたし、染谷に任せて本当に良かった」と賛辞をおくる。
日本のVFXディレクターとして先頭をひた走る山崎監督が手がけたからこそ、「寄生獣」という企画が成立したという側面はある。最新鋭の技術もつぎ込んでいくなかで、撮影に採り入れることができなかったものもあったが、どんな時でも常に判断は的確で早かった。現場では、カットがかかった後に「前編が●%、後編が●%、全体では●%撮り終えています」と共有されている光景が見られたことを思い出し、来年4月25日公開となる後編「寄生獣 完結編」の進捗具合が何%なのかを聞いてみた。
「編集は出来ていますけれど、ほぼ0に近いですよ(笑)。CGに関しては前編を完成させたばかりとあって、スタッフもヘトヘトで、いまは腑抜け状態ですよ。昨日、顔を出したら、みんなでプロレスゲームをやっていやがった(笑)。ただ、前編を完成させたというノウハウがある。これは大きいんですよ。普通は映画を1本作ると膨大なノウハウが蓄積されて終わるけれど、なかなか違う作品に転用することができないので、そこで終わってしまう。ただ今回は、前編のノウハウを後編に全て注入できる。これは初めての経験なので、楽しみでワクワクしています」。
原作の連載当時には実現しえなかった表現が、CGやVFXの進歩により現代では可能になった。今後も10年後、20年後と可能性が無限大に広がっていくなかで、映画表現において今作が果たす功績は大きい。「僕らの亡骸の上を、皆が乗り越えていけばいいんですよ」と冗談めかして笑う山崎監督だが、見据える将来について語る姿はどこまでも晴れやかな面持ちだ。
「実写映画の中に言葉をしゃべる生きたキャラクターがCGで出てきて、主役レベルで活躍する映画は僕にとっても初めてでした。初めてなのに、随分と大きなハードルを無理やり越えている感じですね。染谷の右手をデジタル的に追いかけなくてはいけないっていうシンプルな事であっても収穫はありましたし、実写の中にCGを入れて演技をさせるということについては、これからは今までよりも短距離で出来るようになると思いました。まあ、無茶はしてみるもんですね(笑)。ただ、同時に足りていない部分もたくさんあって、キャラクターのCGを作るっていう部分においては、必死に頑張ってもあれくらいしか出来ない。改善点もいろいろと出てきて、泥縄式というか現場で対応することは多かったんですが、実戦じゃないとわからない事ってすごくあるんですよ。それにひとつひとつ取り組めたということは、スタッフにとっても大きな収穫になったはず。こういうタイプの映画ってそうそうあるわけではないので、今後も自らそういう機会を捻出していくしかないし、試していきたいですね」。
染谷の「早く後編が見たいです」という言葉でインタビューを締めようとしたところ、山崎監督からすぐさま横槍が入った。「俺だって見たいよ! 誰か出来上がった本編を見せてくれないかなあ(笑)」。今後もこの2人の動向から、目が離せそうにない。
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