塚本晋也監督、20年間の思いが結実した「野火」 ベネチアで思いの丈を語る
2014年9月9日 19:00

[映画.com ニュース] 9月6日に閉幕した第71回ベネチア国際映画祭のコンペティションに、日本から唯一参加した塚本晋也監督の新作「野火」。大岡昇平の同名原作を映画化した本作は、第二次大戦末期、フィリピンに攻め込んだ日本兵が体験する極限状態を、監督自身が演じる主人公・田村一等兵の視点から描く。20年前から映画化を願い続け、今日ようやくその夢を実現させた塚本監督に、ベネチアでその思いの丈を語ってもらった。
「20年前から映画化したいと思い、当時出資者を探したのですが見つからず、それでも10年ぐらい前にいよいよ本当に作ろうと思いました。というのも戦争体験者というのは当時すでに80歳を過ぎていましたから、ここで話を聞いておかなければという思いがあって。それでインタビューをしたり、レイテ島に行って、主人公の田村の視点に立ちながら兵隊さんの遺骨の収集をする人たちに同行しました。今日、実際に戦争を体験した人々がだんだんといなくなり、世の中が戦争のほうに傾斜している雰囲気のなかで、今こそまさにこの映画をぶつけなくてはという焦りがあった。本当は多くの方に見て頂くために主演も有名な方に出て頂きたかったのですが、(予算的な)余裕がなくて。最初は自分でカメラを立ててやろうと思っていましたから、絵コンテはすべてフィックスのカットでした。小津安二郎風の初めての戦争映画ができるかなと(笑)。でも幸い『KOTOKO』という作品で撮影をしてくれた林(啓史)さんが参加してくれることになって、小津版じゃなくなりました(笑)」
スタッフはすべてボランティアで、衣装も銃も、それぞれ一点だけ購入したものを参考に手作りで制作したという。田村一等兵役の塚本監督を中心に、リリー・フランキー、中村達也、森優作らが脇を固める。「バレット・バレエ」以来16年ぶりに塚本作品へ復帰した中村が、「もう(機会は)ないのかなと思っていたので、声がかかって本当にうれしかった。この映画を見て、この戦争のことをもっと知りたいと思うようになりました」と語れば、フランキーも「初めて塚本監督の作品に誘って頂いてとてもうれしかったです。戦争映画を自分で撮るという、その気概にほれました」と語る。
本作はインディペンデント映画とは思えない壮絶な戦闘シーンとともに、手加減なしのバイオレントな描写もある。戦争のグロテスクな面を描くためには避けて通れないという信念が感じられるようだ。あえてそのリスクを負った理由を監督はこう語る。
「確かにそこをまず描かないと、という思いがありました。じつは編集中にこれでは物足りないと思って、あとからさらにそういうシーンを追加しました。戦争では人間の尊厳は失われ、ものでしかなくなる。原作ではカニバリズムが問われていますが、僕はそれをことさらテーマにはしたくなかった。動いているお肉だったら食べたいという気持ちになるぐらいの極限状態になってしまう、という状況を描きたかったのです」
もっとも、本作には大自然の美しい描写もあり、それがかえって戦争シーンの悲惨さを浮き彫りにする。そのスピリチュアルな対比は、テレンス・マリックの「シン・レッド・ライン」を彷佛させるような、深く、荘厳な痛みを観る者にもたらす。
「小説を読んで感じたのは、広大なフィリピンの原野の青空と白い雲と赤い花のなかに、なぜか兵隊さんだけがぼろぼろになっているというコントラストです。そのなかで人間が虫のように動き回り、何のために、何と戦っているかもわからないなか、急に弾が飛んできたりする。自然が妙に綺麗で、人間だけがなぜこんなことになっているのかということを描きたかった」
日本での劇場公開は未定ながら、監督は来年の終戦記念日に合わせたい意向だとか。その前にまず、11月22日から開催される第15回東京フィルメックスのオープニング作品として上映されることが、決定したという。(佐藤久理子)
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