「2つ目の窓」河瀬直美監督、奄美への深き思いが起こした奇跡
2014年7月26日 07:30
[映画.com ニュース] 第67回カンヌ国際映画祭コンぺティション部門に出品された、河瀬直美監督最新作「2つ目の窓」。奄美大島の雄大な自然と文化を背景に、主演の村上虹郎、吉永淳という若く力強いふたりの姿を通し、人間の生と死、脈々と続く命のつながりというテーマを豊饒な映像で描き出した。自身のルーツでもある神の島に導かれるようにメガホンをとった河瀬監督に話を聞いた。
2008年に初めて奄美を訪問。豊作を神に感謝する祭「八月踊り」や神託、土地に根差したシャーマン 「ユタ神様」など、神と人が共存する奄美独特の文化に深い感銘を受け、映画化を決めた。「私が今までにやってきた生と死の関係の表現、土地と自然、人間関係が奄美の文化によって表現されていると感じたのです」と島での印象を語り、その後、1年をかけて春夏秋冬の同地を訪れ、1週間で脚本を書き上げた。
「20代の『萌の朱雀』の頃は、絶対にこれを撮るんだという思いでしたが、今回は自然に撮れるものは撮れるんだという気持ちがありました」。「沙羅双樹」でタッグを組んだ名カメラマン山崎裕氏の起用、台風の撮影や、地元住民との交渉などあらゆることがスムーズに進行していった。「映画づくりにおける様々な奇跡が起こりました。撮りたいという私自身の欲望というよりは、撮る役割をいただいている。と感じていました」と使命感のようなものさえ抱いたという。
惜しくもカンヌでの受賞は逃したが「賞がなかったと聞いたときに、皆さんの期待に対して申し訳ないと思うと同時に、語弊があるかもしれませんが、ふっと何かが抜けたような気がしたんです。見えないものに『賞を獲っても獲らなくてもこの映画は誕生したんだよ』と言われているような、強いものが」と打ち明ける。そして、「一緒にカンヌに連れて行った奄美の子は、「『神様が賞を獲ることから守った』って言うんです。(受賞で)注目されると、島にいろんなものが一気に入って来ると。自然は簡単に壊れるので、『その辺のバランスを神様が守ったのかもね』と。その考えはすごいなと思いました」と明かす。
カンヌ映画祭において「萌の朱雀」(1997)が史上最年少でのカメラドール、2007年「殯の森」がグランプリ、09年には映画祭に貢献した監督に贈られる「黄金の馬車」賞を受賞、13年には日本人監督として初めて審査員を務めるなど、フランスとの縁が深く、数多くの観客から評価されている。全仏で100館規模での公開が決まった今作は、フランスとスペインの資本が入り、編集を担当したフランス人スタッフから、脚本にはない斬新なアイディアがいくつも出されたそうだ。
「カンヌは作家を育てようとする映画祭」だという。「『直美の映画をみんな待ってる、直美だからこそ作れる作品だよ』そういう言葉をかけてくれ、いろんな人に見せる場をくれる」そして、「作家として勝負しよう、国を越えて行こうと思うのだったら、自分を持たないと、誰も話をしてくれなくなる。カンヌで出会う監督たちは作家としての使命感があり、自分のためというより、世界を何とかしたいと思っている。私もおこがましいですが彼らと同じように考えています」と、これまでのカンヌとのかかわりから世界を舞台にする映画作家としての自覚を深めた。
「朝起きたらふっと降りてきた」というタイトルについては、「海や山、男性や女性など、自分と違うものが2つ一緒になって扉を開いてくれたら、いい世界にいけるかなと。今回の映画は根底に他者を認めるということがある。自分にはないものを受け入れるということがメッセージ」と話し、少年少女を主人公にした理由を「若者たちに現実に希望を託したいという思いもあります。自分の息子も10歳なので、彼らが生きたいと思う世界であってほしいと思うし、前を向いて歩けるような時代であってほしい」と語った。
大自然の中で営まれる人間の愛と死、生きることの喜び、そしてこれからの世界のあり方を河瀬監督ならではの視点で切り取った美しい傑作を、ぜひ観客自身の生き方とともにスクリーンで見つめてほしい。
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