27歳の新鋭R・クーグラー監督、鮮烈なデビュー作「フルートベール駅で」に込めた思い
2014年3月20日 16:20
[映画.com ニュース] 2009年元日、米サンフランシスコのフルートベール駅ホームで、3歳の娘をもつ22歳の黒人青年が警官に銃殺された。その青年の人生最後の1日を描いた「フルートベール駅で」は、サンダンス映画祭で作品賞&観客賞をダブル受賞するなど、全米賞レースで高い評価を集めた。メガホンをとった弱冠27歳の新鋭ライアン・クーグラー監督が初来日し、本作に込めた思いを語った。
「あらゆるメディアを見た時、黒人が主役として描かれることは少ない。彼らはいつも脇役だったり、背景を歩いているだけだったり。彼らの物語を撮りたいと思っていた」。
事件性を扱う新聞記事などでは見ることのできないオスカーの1日。ありきたりな1日なのに、オスカーという青年の人となりがじわじわと浮かび上がってくる。クーグラー監督は丹念にリサーチを重ね、「公的な証言記録もあるし、オスカーが他人と過ごしていた時間はその相手から話を聞くことができるので、彼の足取りを細かくつかむことはできた。だけど、彼が1人でいた時間は彼に聞くことができないので何が起きていたか分からない。それを補うために多少エピソードを追加したけれど、“その日何が起きたか”という本質からブレないように十分気を付けたよ」と繊細な作業でオスカー像を描き出した。
「クロニクル」でも注目を浴びた新星マイケル・B・ジョーダンは、オスカーを等身大に演じ切った。クーグラー監督は、「次の企画でもマイケルをあて書きしているんだ。彼にはカリスマ性があって、誰もが彼の一挙手一投足に目が奪われてしまうようなスターの資質をもっている」と絶賛。だからこそ、現実と違和感のないオスカー像が実現したといい「観客がオスカーと一緒に1日を過ごし、まるで家族のような親密さをもって彼を見守ることができればいいと思っていた。ああいう不条理な形で彼を失った時、家族や周囲がどう感じたか。それを観客と共有することが映画のゴールだったんだ」と語る。
実際に起きた事件の映画化であるため、オスカーが悲惨な死を遂げることを観客は周知している。クーグラー監督は、「死だけでなく、結果が分かっていても人は映画を見に行くよね。それは、人間が今この瞬間というものすごく高い集中力をもてるからだと思う。みんないつかは自分が死ぬことを分かっていても、毎日を生きていける。1日1日が小さな葛とうの積み重ねなんだ。だからこの映画でも先にあるオスカーの死ではなく、『彼の5分後はどうなっているんだろう?』と感じてもらえるような作りを意識したんだ」という。
製作を務めた名優フォレスト・ウィテカーとの仕事も、クーグラー監督にとって大きな財産となった。「たまたま『大統領の執事の涙』(リー・ダニエルズ監督)と製作が重なっていたんだけど、フォレストは『やろう!』と言ってくれた。役者が実在の人物を演じる時、単なるモノマネにならないように気をつけないといけない。役者の心の内側から湧き出るような芝居を演出するようにとアドバイスをもらったよ。マイケルも母親役のオクタビア・スペンサーもフォレストの大ファンなんだ」。
そして、「フォレストは大成功しているスターだけど、本当に謙きょなんだ。謙きょな姿勢は人生において最も大切なことだと、彼の存在自体が教えてくれたような気がする。彼には一生の恩があるし、ぜひまた一緒に仕事がしたいよ」と“謙きょ”に語った。
Amazonで関連商品を見る
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
第86回アカデミー作品賞受賞作。南部の農園に売られた黒人ソロモン・ノーサップが12年間の壮絶な奴隷生活をつづった伝記を、「SHAME シェイム」で注目を集めたスティーブ・マックイーン監督が映画化した人間ドラマ。1841年、奴隷制度が廃止される前のニューヨーク州サラトガ。自由証明書で認められた自由黒人で、白人の友人も多くいた黒人バイオリニストのソロモンは、愛する家族とともに幸せな生活を送っていたが、ある白人の裏切りによって拉致され、奴隷としてニューオーリンズの地へ売られてしまう。狂信的な選民主義者のエップスら白人たちの容赦ない差別と暴力に苦しめられながらも、ソロモンは決して尊厳を失うことはなかった。やがて12年の歳月が流れたある日、ソロモンは奴隷制度撤廃を唱えるカナダ人労働者バスと出会う。アカデミー賞では作品、監督ほか計9部門にノミネート。作品賞、助演女優賞、脚色賞の3部門を受賞した。
父親と2人で過ごした夏休みを、20年後、その時の父親と同じ年齢になった娘の視点からつづり、当時は知らなかった父親の新たな一面を見いだしていく姿を描いたヒューマンドラマ。 11歳の夏休み、思春期のソフィは、離れて暮らす31歳の父親カラムとともにトルコのひなびたリゾート地にやってきた。まぶしい太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、2人は親密な時間を過ごす。20年後、当時のカラムと同じ年齢になったソフィは、その時に撮影した懐かしい映像を振り返り、大好きだった父との記憶をよみがえらてゆく。 テレビドラマ「ノーマル・ピープル」でブレイクしたポール・メスカルが愛情深くも繊細な父親カラムを演じ、第95回アカデミー主演男優賞にノミネート。ソフィ役はオーディションで選ばれた新人フランキー・コリオ。監督・脚本はこれが長編デビューとなる、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。