社会を変えるとは?「人類資金」阪本順治監督ら、現役大学生と熱論交わす
2013年9月21日 21:54
[映画.com ニュース] 旧日本軍の秘密資金“M資金”をめぐるサスペンス大作「人類資金」の阪本順治監督と原作者で共同脚本を務めた福井晴敏が9月21日、社会学者の古市憲寿氏を招き、東京・有楽町の東京国際フォーラムでトークイベントを行った。
第2次世界大戦敗戦直前に旧日本軍が隠匿したとされる財宝、通称「M資金」をめぐって繰り広げられる陰謀を描く。佐藤浩市が主演を務め、香取慎吾、森山未來、観月ありさ、オダギリジョー、仲代達矢、韓国のユ・ジテ、アメリカのビンセント・ギャロら豪華キャストが顔をそろえた。
M資金を題材にした映画の製作を切望してきた阪本監督は、「33年前にM資金の本を読み、いつか監督になったら映画にしたいと考えていた。まずは原作が欲しいと思い、『亡国のイージス』の打ち上げで映画化を前提にその深い思いを福井さんに伝えた。プロットが上がると、期待以上のエンタテイメントに消化されていた」と大きな手応えを得た。福井も、「リーマン・ショックをきっかけに、マネー経済がいかに危険かつ怪しいものか身に染みた。そこで、M資金の物語をうまくそこにつなげられないかと思いついた」と着想の経緯を明かした。
脚本執筆時に東日本大震災が発生し、阪本監督は「脚本を書き変えなきゃいけないと思った。2014年を舞台にした作品なので、全ての登場人物が3月11日を経験している。映画そのものを作るということも問われた時だったけれど、経済格差の問題も含めて今世界で起きていることを描く。何もブレることはなかった」と確信を深めた。福井も、「経済は毎年成長しなければいけないとされ、ゴールがない。何が成功かという発想を変えてみることが大事」と語りかけた。
古市氏は、「M資金の謎解きの映画かと思いきや、社会を変えるとはどういうことかを誠実に考えた映画。抽象的で中身のないものが多い中、現実的な視点で真面目にエンタテインメントとして取り組んだ作品で、見ていて引き込まれた」と感心しきり。また、「映画や小説のひとつのミッションは、今ここにある世界が全てではないと示すこと。資本主義が誕生して200年くらい経ち、共産主義などその他の社会制度も試されてきたけど全部失敗してきた。そしてもはや資本主義しかないという流れになったけれど、それでもやはりクラッシュが起こる。だから今ここにない仕組みを作らないといけない」と力説。現役大学生およそ30名もディスカッションに参加し、阪本監督らも質疑や議論に応じた。
「人類資金」は、10月19日から全国で公開。