鬼才パク・チャヌク、ハリウッドデビュー作「イノセント・ガーデン」で描く少女の“目覚め”
2013年5月30日 17:00
[映画.com ニュース] 野心作「オールド・ボーイ」で世界を震撼させた韓国の鬼才パク・チャヌク監督がハリウッド進出作に選んだのは、謎の無名脚本家によって執筆された「イノセント・ガーデン」。本作で再び新たな地平を切り拓いたパク監督に話を聞いた。
世間から隔絶されたかのような屋敷で暮らす繊細な少女インディア・ストーカー。最愛の父を事故で失った18歳の誕生日、行方不明だった叔父のチャーリーが突然現れる。折り合いの悪い母とチャーリーとの奇妙な共同生活が始まるが、その日を境にインディアの周囲で不可解な事件が起こり始める。インディア役に「アリス・イン・ワンダーランド」のミア・ワシコウスカ、母親役にニコール・キッドマン、叔父役に英俳優マシュー・グードが配された。
ハリウッド業界人が選ぶ製作前の優秀脚本「ザ・ブラックリスト」2010年版の5位に選ばれた本作の脚本は、「プリズン・ブレイク」で知られる米俳優ウェントワース・ミラーが偽名“テッド・フォーク”(フォークはミラーの愛犬の名前)の名で執筆したものだった。パク監督も、「実は誰が書いたかを知らずに読んだので、私も知って驚きました。それまでに読んだハリウッドの脚本は全部説明してしまうものが多かったので、脚本が“説明調”ではないことに好感をもった。こういう脚本を待っていたという感じ。ミラーの書いた脚本には神秘性があり、観客に想像の余白を与えることができるんです」。
そんな“余白”を漂わせる脚本から、パク監督でなければ実現しえなかった魅惑のカットの数々が生まれた。韓国とハリウッドでの映画製作の違いは簡潔だといい、「ハリウッドの長所はポストプロダクション(編集)が長いことで、短所はプリプロ(準備)とプロダクション(撮影)の時間が短いこと。時間に追われて撮っていると、何かに追われている感じがして寿命が縮まってしまいそうだった(笑)。全部にじっくりと時間をかけられれば一番良いけれど、そうもいかない。静かな映画の雰囲気とは反対で、現場では常に大きな声を出していましたよ」と存分に本領を発揮した様子だ。
この上ない理想のキャスティングと思わせるほど、主要キャスト3人の演技は見事に三重奏のように調和している。「脚本の特性上、おそらく想像している完成図が各自違うものだった。なので、事前に全ての関係者が同じページを読んで確認作業をすることによって、それぞれの考えや方向性を一致させることが重要でした。全体を見渡すことによって、ひとりよがりの演技にならなくなるんです」と念入りにリハーサルを重ねたことを明かす。
これまでのパク監督作に比べれば、残酷なバイオレンス描写は少ない。ジャンルという側面においては、ミステリー、サイコサスペンス、ラブストーリーの垣根を越えて、さまざまな要素が絶妙にブレンドされた。パク監督自身は、この作品をどんな位置づけとして捉えているのか。
「ひとことで言うなら、これはインディアの成長物語です。人は成長過程で色々な感情をもつ。未知なものへの好奇心、性的な混乱、ひねくれた反抗心、両親への愛情や憎しみ。そして最後は、自分を育ててくれた存在を乗り越えていかないと成長できない。彼女が大人になるまでの感情を詰め込んだので、さまざまなジャンルの要素を内包したのかもしれません」。また、「生半可に道徳的な基準を据えて、インディアを判断してはいけないと思うんです。冷静に多角的視点で見ると、インディアの“目覚め”は通過儀礼のようなもの。劇中にワシのドキュメンタリーが出てくるけれど、動物というのは時に可愛くもあり哀れでもあり残忍でもある。だけどそれはあくまで人間側の感情。だからこの作品は、インディアの成長過程を追跡するドキュメンタリーのような側面もあるんです」と本作の深層に潜むテーマを紐解くヒントを語った。
「イノセント・ガーデン」は、5月31日から全国で公開。
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