黒沢清監督「観客はどう思っているのか?」デジタルシネマの未来に問題提起
2012年10月26日 22:00
[映画.com ニュース]米俳優のキアヌ・リーブスが製作を手がけたドキュメンタリー映画「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」が10月26日、第25回東京国際映画祭ワールドシネマ部門の招待作品として、TOHOシネマズ六本木ヒルズで上映された。フィルムからデジタルシネマへの移行を通し、映画の現在と未来を見つめる本作。上映後に黒沢清監督がトークショーを行い、映画監督の視点からデジタルシネマに対する考えを語った。
映画の唯一の記録フォーマットだったフィルムが、デジタル技術の台頭により消滅しつつある現在の映画界を舞台に、映画におけるデジタル技術の革命を検証する。リーブス自らホスト役を務め、マーティン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロンら大物監督や撮影監督、編集技師、特殊効果技師などにインタビューを敢行し、映画制作の今後を探っていく。
黒沢監督は「映画を見て、現状について映画監督は感情的になり、撮影監督は冷静に対処しているという印象を受けた。実際にはフィルムであれ、デジタルであれ、監督の仕事に大きな違いはないし、撮影する際にフィルムを選ぶ基準もあいまいになっている」と分析。それでも、デジタルで撮影した映像の色調を自在に調節してしまう“カラリスト”の存在には驚きを隠せないようで「もはや撮影監督よりも、権限が大きいのでは? このままでは何を撮ればいいか途方に暮れてしまうし、監督の出る幕もない」と絶句する。
さらに「撮影以上に、上映におけるデジタル化があまりに急激。すでに映写機がない劇場も出てきているし、もう少しゆっくり様子を見ながら(デジタルに)移行してもいいのに……。まずいことが起こっていると思う」と懸念を表明。「この映画に抜け落ちている点があるとすれば、『映画のデジタル化を観客がどう思っているのか?』ということ。きっと普通のお客さんには、よくわからない話だろうし、この問題が業界内でしか盛り上がらない恐ろしさも感じる」と問題提起した。
トークショーには海外でも活躍する撮影監督の栗田豊通氏も出席し「富士フィルムがフィルム生産をしないと発表し、(アメリカの)コダックが倒産。そういう時代なんだと実感するが、映画を作る面白さはどこにあるのか考えてしまう」と苦言を呈した。
映画にはスコセッシ、キャメロンをはじめ、デビッド・フィンチャー、ジョージ・ルーカス、デビッド・リンチ、スティーブン・ソダーバーグ、クリストファー・ノーラン、ラース・フォン・トリアー、ダニー・ボイルら時代をリードする映画監督たちが総出演している。
「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」は12月22日から全国で公開。