被爆者と戦後日本を追い続けた反骨のカメラマン、福島菊次郎氏に聞く
2012年8月3日 18:30
[映画.com ニュース] 敗戦直後の広島で原爆の後遺症に苦しむ人々を撮影、その後報道カメラマンとして学生運動、自衛隊、水俣、祝島などをテーマに激動の戦後日本にレンズを向け続けてきた福島菊次郎氏の2009年からの2年間に密着したドキュメンタリー「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」。がんを患い執筆活動に専念していたが、東日本大震災を受け、原発事故で多大な被害を受けた福島を報道写真家として最後の現場として選んだ福島氏に話を聞いた。
「戦時中の若者でしたから、国家権力に対しては一切抵抗できなかった。国に言われるがままに、ぼろきれのように使い捨てられた」。戦時中は二等兵として召集され、米軍が本土上陸した際の自爆攻撃を命じられていた。敗戦を迎え、1946年から広島で被爆者の撮影を始めた福島氏は「そこで見たものは人間の地獄だけでした」と語る。「戦後70年たとうとしているのに、いまだに最高裁で被爆者の訴訟が続いている。一体何という国だろうと思います。政府は被爆者の治療に対して、世界に先駆けた医療体制を確立すべきだった」と主張。そして「その問題が今の福島の被ばく者への対策につながっている」という。
「今の福島は、原爆を受けた当初の広島とほとんど同じ状態。つまり、もし放射線による障害が出た場合、その対策はいまだ皆無ではないか」と語気を強める。本作では震災から半年後の2011年9月、原発事故の被害にあった福島で取材を敢行する姿に迫っている。やせ細った体ではあるものの、検問に立ちはだかる警察官をものともせずシャッターを切りまくる福島氏の鋭い眼光からは、何が何でも真実を伝えたいという気迫が伝わってくる。
「毎年、年が明けるごとにあと1年……と考えて生きています」。1921年生まれの福島氏、今年で91歳を迎えた。激動の戦後日本と共に歩んだカメラマン人生はどのようなものだったのだろうか。
「戦中は一切国家の言うままになっていたので、敗残兵だった僕にとっては、戦後というのはいろんな意味であらゆることが刺激的だった」と振り返る。特に60年代からの学生運動の取材は、「国家権力に抵抗する若者に教えられました。それは僕が戦時中の日本人から、民主主義の日本人に変わっていくひとつの動機を作ってくれた」と明かす。
「戦時中も大本営の嘘、戦後も政治の嘘、日本は嘘のかたまり。子どもが自殺した時も教師や校長、教育委員会に真実を感じる人は誰もいない。本当のことを言わなくなった国は恐ろしい。我々は政治に対して変幻自在な態度、考え方、やり方を持つべき。嘘っぱちの政治に対して、行儀よくしたら、国の思うつぼ」と、報道が相次ぐ子どものいじめ問題にも言及し、教育委員会の公選制復活を期待しているという。
本作は「ガイアの夜明け」などテレビを中心にドキュメンタリーを手がけてきた長谷川三郎監督の劇場デビュー作となり、日本のドキュメンタリー界の第一人者であり長年是枝裕和監督作品のカメラマンも務めている山崎裕が撮影を担当した。「問題が法を犯したものであれば、カメラマンは法を犯しても構わない」など過激な発言も飛び出すが、穏やかで説得力のある福島氏の語り口に引き込まれずにはいられない。激動の時代を切り取った数多くの写真のほか、年金受取を拒否し、現在山口県のマンションで愛犬とつつましく暮らす姿も映し出す。写真家現役時代に趣味で始めた彫金もプロ並みで、カメラを構えた手に光る個性的なデザインの指輪にも注目だ。
今回被写体側にまわった感想を聞くと「恥ずかしかった。写真に撮られるのが大嫌いなんです(笑)。いつも自分が傍若無人に撮っているくせに、人間って勝手なもの。若ければいいんですがこんなにしなびちゃっているから」と冗談めかす。そして、「僕が人生を賭けて写真家としてシャッターを押し続けた時代をこういう形でまとめて見るのは初めてなので、非常に感慨深かった。戦後時代に対してひとつの役割が果たせたんだなと、幾ばくかの満足感をおぼえました」と笑顔を見せた。
「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」は8月4日から、銀座シネパトス、新宿K's cinema、広島八丁座ほか全国で順次公開。
フォトギャラリー
関連ニュース
映画.com注目特集をチェック
十一人の賊軍
【本音レビュー】嘘があふれる世界で、本作はただリアルを突きつける。偽物はいらない。本物を観ろ。
提供:東映
知らないと損!映画料金が500円になる“裏ワザ”
【仰天】「2000円は高い」という、あなただけに教えます…期間限定の最強キャンペーンに急いで!
提供:KDDI
グラディエーターII 英雄を呼ぶ声
【人生最高の映画は?】彼らは即答する、「グラディエーター」だと…最新作に「今年ベスト」究極の絶賛
提供:東和ピクチャーズ
ヴェノム ザ・ラストダンス
【エグいくらい泣いた】「ハリポタ死の秘宝」「アベンジャーズ エンドゲーム」ばりの“最高の最終章”
提供:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
予告編だけでめちゃくちゃ面白そう
見たことも聞いたこともない物語! 私たちの「コレ観たかった」全部入り“新傑作”誕生か!?
提供:ワーナー・ブラザース映画
八犬伝
【90%の観客が「想像超えた面白さ」と回答】「ゴジラ-1.0」監督も心酔した“前代未聞”の渾身作
提供:キノフィルムズ
関連コンテンツをチェック
シネマ映画.comで今すぐ見る
死刑囚の告発をもとに、雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていく過程をつづったベストセラーノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発」(新潮45編集部編)を映画化。取材のため東京拘置所でヤクザの死刑囚・須藤と面会した雑誌ジャーナリストの藤井は、須藤が死刑判決を受けた事件のほかに、3つの殺人に関与しており、そのすべてに「先生」と呼ばれる首謀者がいるという告白を受ける。須藤は「先生」がのうのうと生きていることが許せず、藤井に「先生」の存在を記事にして世に暴くよう依頼。藤井が調査を進めると、やがて恐るべき凶悪事件の真相が明らかになっていく。ジャーナリストとしての使命感と狂気の間で揺れ動く藤井役を山田孝之、死刑囚・須藤をピエール瀧が演じ、「先生」役でリリー・フランキーが初の悪役に挑む。故・若松孝二監督に師事した白石和彌がメガホンをとった。
ギリシャ・クレタ島のリゾート地を舞台に、10代の少女たちの友情や恋愛やセックスが絡み合う夏休みをいきいきと描いた青春ドラマ。 タラ、スカイ、エムの親友3人組は卒業旅行の締めくくりとして、パーティが盛んなクレタ島のリゾート地マリアへやって来る。3人の中で自分だけがバージンのタラはこの地で初体験を果たすべく焦りを募らせるが、スカイとエムはお節介な混乱を招いてばかり。バーやナイトクラブが立ち並ぶ雑踏を、酒に酔ってひとりさまようタラ。やがて彼女はホテルの隣室の青年たちと出会い、思い出に残る夏の日々への期待を抱くが……。 主人公タラ役に、ドラマ「ヴァンパイア・アカデミー」のミア・マッケンナ=ブルース。「SCRAPPER スクラッパー」などの作品で撮影監督として活躍してきたモリー・マニング・ウォーカーが長編初監督・脚本を手がけ、2023年・第76回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリをはじめ世界各地の映画祭で高く評価された。
「苦役列車」「まなみ100%」の脚本や「れいこいるか」などの監督作で知られるいまおかしんじ監督が、突然体が入れ替わってしまった男女を主人公に、セックスもジェンダーも超えた恋の形をユーモラスにつづった奇想天外なラブストーリー。 39歳の小説家・辺見たかしと24歳の美容師・横澤サトミは、街で衝突して一緒に階段から転げ落ちたことをきっかけに、体が入れ替わってしまう。お互いになりきってそれぞれの生活を送り始める2人だったが、たかしの妻・由莉奈には別の男の影があり、レズビアンのサトミは同棲中の真紀から男の恋人ができたことを理由に別れを告げられる。たかしとサトミはお互いの人生を好転させるため、周囲の人々を巻き込みながら奮闘を続けるが……。 小説家たかしを小出恵介、たかしと体が入れ替わってしまう美容師サトミをグラビアアイドルの風吹ケイ、たかしの妻・由莉奈を新藤まなみ、たかしとサトミを見守るゲイのバー店主を田中幸太朗が演じた。
文豪・谷崎潤一郎が同性愛や不倫に溺れる男女の破滅的な情愛を赤裸々につづった長編小説「卍」を、現代に舞台を置き換えて登場人物の性別を逆にするなど大胆なアレンジを加えて映画化。 画家になる夢を諦めきれず、サラリーマンを辞めて美術学校に通う園田。家庭では弁護士の妻・弥生が生計を支えていた。そんな中、園田は学校で見かけた美しい青年・光を目で追うようになり、デッサンのモデルとして自宅に招く。園田と光は自然に体を重ね、その後も逢瀬を繰り返していく。弥生からの誘いを断って光との情事に溺れる園田だったが、光には香織という婚約者がいることが発覚し……。 「クロガラス0」の中﨑絵梨奈が弥生役を体当たりで演じ、「ヘタな二人の恋の話」の鈴木志遠、「モダンかアナーキー」の門間航が共演。監督・脚本は「家政夫のミタゾノ」「孤独のグルメ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭。
奔放な美少女に翻弄される男の姿をつづった谷崎潤一郎の長編小説「痴人の愛」を、現代に舞台を置き換えて主人公ふたりの性別を逆転させるなど大胆なアレンジを加えて映画化。 教師のなおみは、捨て猫のように道端に座り込んでいた青年ゆずるを放っておくことができず、広い家に引っ越して一緒に暮らし始める。ゆずるとの間に体の関係はなく、なおみは彼の成長を見守るだけのはずだった。しかし、ゆずるの自由奔放な行動に振り回されるうちに、その蠱惑的な魅力の虜になっていき……。 2022年の映画「鍵」でも谷崎作品のヒロインを務めた桝田幸希が主人公なおみ、「ロストサマー」「ブルーイマジン」の林裕太がゆずるを演じ、「青春ジャック 止められるか、俺たちを2」の碧木愛莉、「きのう生まれたわけじゃない」の守屋文雄が共演。「家政夫のミタゾノ」などテレビドラマの演出を中心に手がけてきた宝来忠昭が監督・脚本を担当。
内容のあまりの過激さに世界各国で上映の際に多くのシーンがカット、ないしは上映そのものが禁止されるなど物議をかもしたセルビア製ゴアスリラー。元ポルノ男優のミロシュは、怪しげな大作ポルノ映画への出演を依頼され、高額なギャラにひかれて話を引き受ける。ある豪邸につれていかれ、そこに現れたビクミルと名乗る謎の男から「大金持ちのクライアントの嗜好を満たす芸術的なポルノ映画が撮りたい」と諭されたミロシュは、具体的な内容の説明も聞かぬうちに契約書にサインしてしまうが……。日本では2012年にノーカット版で劇場公開。2022年には4Kデジタルリマスター化&無修正の「4Kリマスター完全版」で公開。※本作品はHD画質での配信となります。予め、ご了承くださいませ。