ウォルター・サレス監督、ブラジルを題材とした最新作「アイム・スティル・ヒア」を語るインタビュー&本編映像
2025年7月5日 07:00
(C)2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma第97回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した「アイム・スティル・ヒア」ウォルター・サレス監督のインタビュー、本編映像を映画.comが入手した。
長編としては16年ぶりに祖国ブラジルを題材とした本作は、軍事独裁政権下で消息を絶った政治家ルーベンス・パイヴァと、夫の行方を追い続けた妻エウニセの実話に基づいている。サレス自身、幼少期にパイヴァ家と親交を持ち、この記憶を、喪失と沈黙をめぐる私的な問いとして丁寧に掘り起こした。自由を奪われ、言葉を封じられても、彼女は声をあげることをやめなかった。サレスは、理不尽な時代に抗い続けたひとりの女性の姿を、美しくも力強い映像で永遠の記憶として刻みつける。
主演は、サレス作品の常連にして名優フェルナンダ・トーレス。静かな闘志と深い慟哭を織り交ぜたその演技で、アカデミー主演女優賞にノミネートされた。そして、エウニセの老年期を演じたのは、実の母であり「セントラル・ステーション」でブラジル人初のアカデミー主演女優賞候補となったフェルナンダ・モンテネグロ。母と娘、ふたりの女優が、記憶と時代、そして命の継承を映し出す。
(C)2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma本作は第81回ベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞。第97回アカデミー賞では、ブラジル映画史上初となる作品賞ノミネートを含む3部門に名を連ね、国際長編映画賞を受賞した。
サレス監督は、「とてもパーソナルな映画です。最初は、軍事政権下という困難な状況にもかかわらず、生き生きと喜びに満ちて暮らす家族の物語です」「しかし、そこに運命がもたらした出来事が起こり、家族は大きな喪失と向き合うことになります」「この映画は、そうした喪失をどう超えていくのか──どうやって生き続け、学び、抗いながら、再び人生を抱きしめていくのかを描いています。つまり、これは何よりも<生きることそのもの>についての映画です」と本作について説明する。
「ルーベンス・パイヴァの失踪は、友人の父親が行方不明になるという、当時の私にとって初めての経験であり、大きな衝撃でした」と振り返り、本作の題材に出会ったきっかけは「1960年代末にリオへ移住したパイヴァ一家―父ルーベンス、母エウニセ、そして5人の子どもたち(ヴェロカ、エリアナ、ナル、マルセロ、バビウ)との出会いでした」と切り出す。
(C)2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma「ちょうど私自身も5年間の海外生活を終えてリオに戻ったばかりで、思春期の一部を彼らの家で過ごすことになります。そこで初めてトロピカリア(1960年代末、カエターノ・ヴェローゾやジルベルト・ジルらが主導した、ブラジル音楽にロックや前衛芸術の要素を取り入れた革新的文化運動)を聴き、独裁政権下の政治について語り合う熱気に包まれ、私の価値観は大きく揺さぶられました。あの家は、映画館とは異なるかたちで<世界は想像以上に広い>と教えてくれた場所だったのです」と当時を回顧する。
だが、映画化するにあたっては、パイヴァ家と近しい関係だった故に「彼らの記憶を再構築することが、それぞれの断片的かつ主観的な証言に依存せざるを得ないという構造に直面」したと言う。だが、その複雑さを熟慮した末に、サレス監督がこのプロジェクトに本格的に着手したのは7年前。決定的な後押しとなったのは、家族の記憶を綴った著書「Ainda estou aqui」を発表したパイヴァ家の子供、マルセロ本人が「本作の脚本作業(ムリロ・ハウザー、エイトール・ロレガと共同)に寄り添い、鋭い洞察を与えつつも原作を自由に脚色する裁量を委ねてくれたこと」だったと明かす。
(C)2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinéma自身の世代を「21年に及んだ軍政の終焉を経て映画制作を志した世代」だと言う。そして「本来であれば、抑圧の時代に語れなかった多くの物語と正面から向き合うべきでしたが、90年代初頭のコロール政権の危機によって、目の前の現実を記録せざるを得ない状況に置かれました。そうした流れの中から、『ビハインド・ザ・サン』(2001)や『セントラル・ステーション』(1998)といった作品が生まれていきます」と語る。
しかし近年「極右の台頭により、軍政期の記憶がいかに脆く、消されやすいものであるかが改めて露わになりました。過去を照らし出し、同じ過ちを繰り返さないための作品が、今こそ必要だと痛感しています」「本作では、国家が家族の中にまで介入し、生死を左右し、遺体すら奪うという現実を描いています。2021年には、かつての拷問者に勲章を授ける大統領が現れるまでになりました。この映画はボルソナロ政権以前に構想されたものですが、結果的に過去だけでなく、現代における新たな権威主義の危険性をも照射する作品となりました。それが、私たちが今いる現実です」と訴える。
本作の日本公開を「本当に光栄」と喜び、「私にとって日本公開は特別な意味を持っています。というのも、私が映画を学び始めた頃から、小津安二郎、溝口健二、小林正樹、そして是枝裕和といった日本の監督たちに深い憧れを抱き、大きな影響を受けてきたからです」と敬意を表す。
(C)2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiração/MACT Productions/ARTE France Cinémaそして「どうか楽しんでいただければうれしいです。この映画を日本の皆さんと分かち合えることは、本当に大きな喜びであり、光栄です。心から感謝します」と加え「この映画に関わった私たち全員、そしてこの物語の源であるパイヴァ家の皆さんの思いを込めて、心からお礼を申し上げます」と結んだ。
本編映像は、父のいなくなったパイヴァ家が、毅然とした態度で取材に応じる様子を捉えたもの。読者の同情を誘うための写真を撮影したいと言う記者。だが、エウニセたちは流されることなく<笑って>応じる。さらに続く記者からの取材にも感情ではなく事実を冷静に伝える姿勢を貫き、あくまで真実のために戦う姿勢を滲ませる。揺るぎない信念を持つエウニセと静かな強さを感じさせる一幕だ。8月8日新宿武蔵野館ほか全国公開。
(C)2024 VideoFilmes/RT Features/Globoplay/Conspiracao/MACT Productions/ARTE France Cinema
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