地上411メートルの美しい犯罪者。「マン・オン・ワイヤー」P・プティ氏に聞く
2009年6月12日 12:00
[映画.com ニュース] 「僕には羽根が生えていないし、ものすごい高さにいると自己防御しようとするから、本能的には怖さを感じるのかもしれない。雲の上は無防備な無の空間だからね。しかし、その高さを心から愛しているから、理性が勝って怖さは感じない」と語ったのは、1974年、ニューヨークのワールド・トレード・センター(WTC)のツインタワー間を命綱なしで綱渡りした、フランス出身の大道芸人フィリップ・プティ(59)。その彼がWTCを綱渡りする“美しい犯罪”をつづった映画が、間もなく公開されるアカデミー長編ドキュメンタリー賞受賞作「マン・オン・ワイヤー」(6月13日公開)だ。
彼は、411メートルという高さにワイヤーを張り、重さ37キロの天秤棒だけを持ち、45分間も滞在して8往復もした。おまけにワイヤーに寝そべり、「カモメと語らう」余裕まで見せている。
「ああやって警官が止めなければ、あのワイヤーの上にいつまでもいたかもしれない。人間がアリよりも小さく見える天空は素晴らしい場所だったからね」と当時を振り返る。
綱渡りのとき、目線はワイヤーの先に置くそうだ。「安全性を考えたら足元をじっと見つめることだが、それではうまくワイヤーを歩けない。エレガントであることが僕のモットーだから、目線はワイヤーの先にあることが多く、背筋を伸ばして姿勢良くワイヤーを渡るんだよ」
独学でビルの建築工学を学んだプティは、ワイヤーのゆるやかなたわみも“美しいカーブ”と呼んで、すごく愛しているという。「どうすればあの“美しいカーブ”でワイヤーを安定させられるのか、ビルの模型を作ったりして常々研究している。東京は素晴らしい街で、綱渡りしたいビルばかりだ」と“犯行予告”まで語り出すプティ。彼の人生はハリウッドでドラマ化されるほど魅惑的なようだ。「僕の冒険に満ちた人生を、今度はロバート・ゼメキス監督が実写ドラマ化してくれる(笑)。すごく楽しみにしているよ」