劇場公開日 2024年3月29日

オッペンハイマーのレビュー・感想・評価

全723件中、1~20件目を表示

4.0忘れてはいけない日

2024年11月26日
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鑑賞方法:映画館

日本では公開前から様々な議論がうまれた作品、私としては待ちに待った公開だ。
今日で公開2日め。これからも様々な意見や議論が出てくるだろう。結論からいうと、それこそがノーラン監督の狙いであり願いなのではないだろうか。
広島、長崎の22万人をこえる犠牲を経験した唯一の戦争被爆国である日本に生まれ育った人こそこの作品を観て賛否議論する意味があるのではないだろうか。

私の母は1945年8月8日生まれだったからか、8月6日と8月9日の式典の日は必ずテレビの前に私達姉妹を座らせた。広島、長崎とも母に血縁はいないが彼女なりの「語り」だったのだろう。

劇中に「世界が忘れられない日となる」とあったが(トリニティを指していたのか広島を指していたのか忘れたが)、この作品一番の皮肉なセリフだと思った。この日本においてすら「忘れられない日」もそれが何をもたらしたのかも「忘れてしまいつつある」からだ。そんな今、この作品を日本で公開する意味はあると思う。

2024年を生きる私たちは戦争被爆のことを語り継がれたものでしか知らない。でも、その「語り」を知っているからこそこの作品を多くの視点から評価できるのだと思う。

この作品はオッペンハイマー博士の自伝映画であるので、原爆が主題ではない。しかし、原爆の父となり神話ではなく現代のプロメテウスとなってしまったオッペンハイマーの苦悩は未だ戦争の無くならない今を生きる私たちが想像力をもって向き合うべきものだと思う。

私は終演後しばらく腕組みをしたまま立ち上がることを忘れていた。

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イズボペ

5.0アメリカ視点で描く原爆は興味深い

2024年4月5日
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鑑賞方法:映画館

興奮

知的

難しい

日本でも公開されると知ったときは、絶対に行こうと決めていました。私が行った回は満席になり、ノーラン監督が愛されていることを実感しました。

被爆国の立場として複雑な気持ちになりながらも、原爆をアメリカ視点で描かれていたのが興味深かったです。中学では日本の観点から教わってきたので、米国は完全に敵として扱われていました。しかし、少し見方を変えるだけでも全然違う内容になるんだと感心しました。

オッペンハイマーは核兵器の恐ろしさを伝えることで、戦争を終わらせて平和な世界にしようとしました。ところが、事態を悪化させてしまったことで、周りから称賛されても彼が後悔する姿勢が伝わってきました。科学の力で世界を変えることができても、一度実行すると取り返しがつかなくなる危険性もあることを学びました。

そんな彼を演じたキリアン・マーフィは、悩み続ける科学者を当時の映像かと間違えそうなぐらい見事に再現できていました。ストローズを演じたダウニーJr.は、アイアンマンとは違った雰囲気が出ていて、彼の演技力にも驚きました。それと、二人からの視点を白黒とカラーでそれぞれ表現していたので、時系列がバラバラでもあまり混乱せずについていくことができました。

事前情報で聞いた通り、広島と長崎の被害を直接描いた場面はありませんでした(ラジオと台詞ぐらい)。だけど、これはオッペンハイマーの物語であることを忘れてはいけません。私としては、最低限のことに触れているだけでも十分だと思いました。

今回は池袋のIMAXで観たので、ノーラン監督の技術力が最大限に発揮された環境で鑑賞できました。正方形に近いサイズに広がる巨大な映像(一部シーン)と全身に響く音響効果によって、オッペンハイマーの心情とシンクロするような一体感がありました。他にも、核分裂の映像が流れているときは、原子の中に存在しているような不思議な感覚になりました。

上映時間は3時間と長尺でしたが、全然眠くならずに「こんなエピソードがあったのか!」と興味津々で観ることができました。日本公開をしてくれた配給のビターズエンドには感謝しかありません。

公開前から様々なニュースが飛び交っていますが、とりあえず一回観てから感想を述べてほしいです。原爆を新たな視点で知ることができるので、ぜひ多くの人に劇場で観てほしい映画になっています!

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Ken@

4.0「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーの光と影とその生涯

2024年4月3日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

原子爆弾の開発に成功し、「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。第96回アカデミー賞7部門受賞の話題の映画が、満を辞して日本にて上映開始されました。

正直、日本人として観るのを躊躇わずにはいられない作品でしたが、意を決して鑑賞。広島、長崎の方々はこの映画、直視できるのでしょうか?観る前からいろんな感情が湧き起こる作品です。

ダイナマイトを発明したノーベルと同じで、結局は戦争の抑止力となることはなく、破壊力の大きな兵器として使用されることとなる原子爆弾(核兵器)。

科学者として、それを創ることは是か非か?

物語は、終始オッペンハイマーの心の苦悩と葛藤と共に進んでいきます。

たくさんの人のレビューのとおり、原爆投下時の描写が避けられていたのは賛否両論。この映画に対するANSER映画を日本人として誰かが作るべきだという意見も然り。日本人として、ただ黙って受け入れるだけで終わってはいけない気がします。このなんとも言えないモヤモヤ感を解消してくれる度肝を抜いたANSER作品の登場を待ちたいです。どなたかそこの新進気鋭の監督!頼みますよ!!唯一の被爆国からみた世界、史実と感情と未来への希望を混ぜ込んだ力強い作品を心よりお待ちしています。

戦後78年余り。
こんな恐るべき作品が大きな暴動もなく平和に映画館で上映される時代になったのを喜ぶべきなのかどうなのか…
まだ世界中では戦争が続いています。他人事ではないことを今一度肝に銘じないといけませんね。

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ななやお

0.5山崎さんより宮崎さん

2024年4月2日
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鑑賞方法:映画館

オレが本作に臨むにあたり、関心事として

・バーベンハイマーという社会現象
・アカデミー賞作品賞を貶したい
・公開延期
・あんまり好きではないノーラン
・オレ自身は被爆二世

さて鑑賞後どうだったかというと、結論からいうと、「ですよね」という。

「オッペンハイマー」




まず、大手が避けて、ビターズエンド配給について、確かに大金をはたいての「賭け」だとも思うが、作品賞確実、の予想もあって、発表後の公開という最大のメリットがあっての、「賭け」。「英断」とか、いやいや、商売ですよ、あなた。

ただ、初登場4位は正直ショックレベルの成績だとは思うが、見てみりゃ納得。

こりゃ大手は避けますよ。原爆どうのこうののリスクじゃないじゃん。よっぽど「パール・ハーバー」のほうが、「映画」として正しい。おまけに日本で大ヒット。(ふふふ)

自意識過剰、被害妄想のおっさんが、コミュ障の天才に逆切れして陥れようとするが、なんだかんだ(ここ、ほんとどうでもいい)で失敗する話。その天才が「原爆の父」だったから、ちょいと、本編真ん中辺に、爆発見せました、という映画。

よって、被爆二世のオレはこれを見て、こんなお話にするなら、オッペンハイマーじゃなくてよいじゃん、というだけで。がっかりとかそういうんじゃなくてそもそも「期待している」オレがバカだったということ。

内容わかってて元広島市長と高校生に「見当違いのもの」を試写にみせるのはどうかなあ。いくら商売でもさ。

この絶好のタイミングですら、「まず間違いなく」日本ではコケることになろうが、いやあー、ほんとネットは怖い。実際に映画を見ると、「バーベンハイマー」なる社会現象すら、フェイクに思えるほどだし、その現象が本物だったとしても、この映画を「バービー」と一緒に「見に「行った」だけ」に盛り上がったとしか思えない。

そして、ノーラン。相変わらず音響だけはもう病気のレベル。ノーランとビルヌーブとランティモスはもう、音響で吐き気がする。

ただ、「ゴジラ-1.0」の山崎さんが「日本がアンサー映画を作らないといけない」とノーランと意気投合したようで、それは結構な話だが、そういえば、飛行機を作ることが夢だが、大人になったら、美しい戦闘機を作らされた主人公の映画があったじゃないか。

「オッペンハイマー」をより娯楽に、よりメッセージ色が強い、(たとえジブリ効果あろうとも)日本で大ヒットした、ああ、オレが見たかったのは「風立ちぬ」だったんだ。

別にジブリファンでもないんだが、オレはこのタイミングで宮崎さんの本作の鑑賞コメントが聞きたいね。興味深い。

もちろん、ゴジラを進化させた山崎さんが、そのへんのニュアンス汲み取って、実は庵野sんじゃなく、山崎さん、というトリッキーな後継もアリなのかもしれない。

まあ、3人とも特別思い入れはないですけどね。

追記
ロバート・ダウニー.Jrの件

ノーランはひょっとしたら、大金を集められる存在だが、「アメリカの闇」をドストレートに描くことをせず、相当歩み寄って「原爆」「赤狩り」などをやんわり描くことにチャレンジしたと、思いっきりひいき目でみたとしても、Jrがあんなことになってしまうようでは、すべてが水の泡、もともと「闇」を描くことを避けた、関心がなかった、と思われてもしょうがない。

だから、アカデミー賞は面白い。

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しんざん

4.0科学者の苦悩を描く映画

2024年4月30日
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鑑賞方法:映画館

原爆の成果を肯定的に描いているわけではない。数奇な巡り合わせで原爆を開発することになった科学者の苦悩を主観的に描こうと試みた作品だ。その意味で原爆についての映画かというと、微妙に違う。あくまで原爆を作った男についての映画だ。鑑賞する時にはそこを間違えない方がいい。
とはいえ、被爆国の日本でこの映画を見るというのは、どういうことかを考えざるをえない。被害が直接描かれないという批判は正当にあり得る。加害者の苦悩と被害者の被害とどちらが大切なのかということは問えるだろう。
ただ、映画を観るというのは、他者を知る良い機会にできる。アメリカで原爆開発をめぐってどんな議論があり、どんなプロセスを経て開発され、開発者は何を葛藤し、戦後どのような目にあったのかを知る機会は手放すべきではない。
ただ、個人的には原爆の被害がどのようなものかより突っ込んだ描写をした方が、オッペンハイマーの苦悩をより深く理解できる作品になったのではないかという気がする。スライドで被害報告を聞くオッペンハイマーの描写があったが、そこでスライドの内容を見せない選択でよかったのかどうか。
日本人なら、あのスライドの内容を想像可能だ。他の国の人々はどうなんだろうか。

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杉本穂高

5.0原爆の表現よりも予備知識の有無で評価が分かれそうな「原子爆弾の父」に関する必見映画!

2024年4月2日
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 本作は「インターステラー」「インセプション」「TENET テネット」などの挑戦的な名作を生んだクリストファー・ノーラン監督作品です。
 ただ、正直なところ見終わった際に「クリストファー・ノーランらしさ」は薄いと感じました。
 一方で、クリストファー・ノーラン監督は、第二次世界大戦初期イギリス、ベルギー、カナダ、フランスの連合軍将兵が、フランスのダンケルク海岸でドイツ軍に包囲され撤退を余儀なくされる「ダンケルク」のような戦争史実を映像化する作品も作っています。
 その意味では、本作は「ダンケルク」寄りの作風と言えますが、「原子爆弾」という未だに賛否の分かれる物を最初に作った中心人物オッペンハイマーを描き出すには3時間という尺をもってしても映像化の難しさを感じました。
 1人の科学者の生涯を描き出すのさえ難しいのに、原爆を生み出したことへの苦悩や、原爆では飽き足らず、より破壊力が得られる「水爆」の開発を進めるアメリカ。それに反対するオッペンハイマー、など内容は盛りだくさんで登場人物も多くなっています。
 本作は、ピュリッツァー賞受賞の書「オッペンハイマー」をベースに作られていますが、映画の物語の中核は、原爆投下で終わらせた第二次世界大戦の後からです。
 ソ連との冷戦の時代へと突入し、水爆の開発に突き進んでいるアメリカにおいてオッペンハイマーが「共産主義国のスパイ」という疑いを持たれて聴聞会で責められているシーンから始まります。
 この構図を利用したのがロバート・ダウニー・Jr.が演じる政治家ルイス・ストローズ。
彼は戦後にオッペンハイマーを、アインシュタインなどがいる「プリンストン高等研究所」の所長に抜擢しています。
 そして、ルイス・ストローズに関する公聴会も、映画では並行して映し出されます。
 これは、見ていると時間軸などが分かりにくいため、ルイス・ストローズの目線で描かれるシーンは「白黒」で表現するなど、「クリストファー・ノーランらしさ」も垣間見られます。
 この効果もあり、助演のロバート・ダウニー・Jr.の存在感を際立たせる事に成功し、アカデミー賞で助演男優賞受賞にまで輝く結果になっています。
 もちろんメインはオッペンハイマーで、聴聞会での自身の説明で、映像は大学生の時にイギリスのケンブリッジ大学に留学したシーンになります。
 このような感じで過去が語られ、同時に公聴会も進んでいく構造になっています。

 これらの現実の事象はかなり入り組んでいるので、それを3時間の映画で描き出すのは困難ですが、割と「シンプルで分かりやすく構成されている」と思います。
 ただ、その結果、展開が早くならざるを得ず、いろんなディテールがバッサリと切られている面はあります。
 象徴的なところは全般的に、通常の映画であれば、もう少し丁寧に説明があるシーンでも、本作ではバッサリと切ってあったりしていて、「こんなの文脈で明らかだよね?」「自分で考えてね」といった感じの、良くも悪くも「クリストファー・ノーランらしさ」があります(これの究極形が前作「TENET テネット」でしょう)。
 また、唯一、原爆を投下された日本としては、日本の描写がない事が気になる人もいるでしょう。
 これについては、「オッペンハイマーに降りかかる悪夢のような映像」として間接的に描かれていますし、尺を考えると仕方ない面もあるのかもしれません。
 個人的には、せっかくの題材の作品なので、むしろアメリカ軍が原爆投下の予行演習として行なった、日本全土を巨大な実験場とした「パンプキン爆弾」の投下を描いてほしかったです。
 1945年7月16日に、オッペンハイマーらが人類史上初の核実験「トリニティ」を成功させる描写はありますが、その直後の7月20日から始まった(長崎に投下された「ファットマン」と同じ重量・寸法で作られた)リハーサル用の模擬爆弾「パンプキン爆弾」を東京、福島、新潟、愛知などで合計49発の投下を行なっていたのです。
 結果として1700人規模の死傷者を出していて、この史実も無視はできないものですが、これも尺を考えれば無理難題なのかもしれません。
 しかも、もしこの「パンプキン爆弾」の投下を描くと、「マンハッタン計画」の責任者であるマット・デイモンが演じるレズリー・グローヴス中将が「原爆を落とすのは2回だけだ」と言い切っている描写に矛盾が生じます。(現実にはグローヴス中将は「8月17日か18日以降の、最初の晴れた日に、日本に原爆を投下できるように準備が整うはず」と、3発目の原爆が用意されているという書簡をアメリカ軍のトップに送っています)

 本作は、基本的に過去をそのまま伝える映画。いわゆる「ネタバレ」が存在しない作品であり、知っておくべき史実を多数みつけることもできます。
 例えば、そもそも「原爆は、ヒトラーが先導してドイツで作り上げられそうだったこと」。
 そして、「アメリカの原爆はドイツを攻撃するために作られていたこと」などです。
 さらには、日本は原爆の影響が強烈なため、原爆で話が止まっている人も少なくない気がしますが、アメリカやソ連は、原爆より破壊力が得られる「水爆」の開発を進めていた現実があるのです。
 本作は、一見するとクリストファー・ノーラン監督以外でも作れそうですが、このネタを3時間で俯瞰して見せることを可能にしたのは、やはり「クリストファー・ノーランらしさ」があったからだと言えそうです。
 そう考えると、第96回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞(キリアン・マーフィ)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、編集賞、撮影賞、作曲賞の主要7部門での受賞を制したのも納得ですし、「ゼロベースで原爆を考えてみる良い機会を提供してくれている良質な作品」だと思います。

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細野真宏

4.5人類に委ねられ、思考を促す一作

2024年3月31日
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原子爆弾を作り出した天才科学者の人物研究とも言うべき本作は、二つの時間軸を行き来しながら主人公の人となりを描き出す。カラー部分はいわば自分がどこへ向かうのか正確には予測し得ないまま突き進んでいく若き日の世界。対するモノクロ部分は決定的な出来事が起こった後、自らが何をもたらしたのかを知っている世界。同一人物の似て非なる二つの側面によって物語を組み立てたノーランの試みが実に興味深い。科学、政治、軍が歯車のように動き出し、止められなくなる構造が現代世界をも貫く刃のように胸をえぐる。そして一人称ならではの語り口で主観や内面を描きつつも、投下直後の研究所の様子に象徴される「実際に起こった場所から程遠い距離感」が刺のように刺さって抜けない。観賞後にのしかかるのは重く、答えのない複雑な思い。人類の限界や無力を感じたならきっとそれが始まりだ。これはあらゆる意味で観客に命題を突きつけ、思考を促す作品である。

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牛津厚信

4.0主観映像炸裂のノーラン映画に応える術は?

2024年3月30日
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鑑賞方法:試写会

怖い

興奮

難しい

原子爆弾の開発に成功した理論物理学者、オッペンハイマーが、アメリカの国家戦略に巻き込まれていくプロセスを、クリストファー・ノーランは3つの時間軸を行き来しながら描いていく。時間軸への執着はこれまでも『メメント』『ダンケルク』『テネット』等でも見られた手法だが、今回は3時間の物語の中で主に16人、脇を入れると50人以上の実在の人物が入れ替わり立ち替わり現れて言葉を発するため、観客の動体視力が追いつかない。人にもよるだろうが、それでも集中力はギリギリ維持できる。

理由は、ノーランが徹底してオッペンハイマーの主観に観客も巻き込んで、彼を取り巻くカオスを彼の視点で体験できるように工夫しているから、だと思う。客観ではなく、主観。それは、オッペンハイマーをしばしば悩ませる何かがチラチラと発火し、爆発するような幻覚や、原爆投下後の惨劇のイメージに代表される。演じるキリアン・マーフィーのあまり他者に興味がなさそうな表情や、その割りにはいつも見開かれた青くて大きな瞳が、殺人兵器の製造に関わってしまった人間の虚しさと迷いをうまく表現している。それだけに、見ていて複雑な気持ちにもなるのだ。

オスカー受賞後にノーランと会談した山崎貴監督が言っていたように、このモヤモヤを解消する方法は、山崎監督でなくても、誰か日本人の監督が、日本人の視点で、改めて原爆を描くこと、それ以外にない気がする。

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清藤秀人

4.5IMAXで体感することを推奨したいノーラン渾身の勝負作

2024年3月29日
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鑑賞方法:試写会、映画館

悲しい

怖い

知的

まずは日本配給を買って出た中堅の配給会社ビターズ・エンドに感謝を表したい。原爆開発者の伝記映画でありながら広島・長崎の描写がないことや、映画「バービー」との抱き合わせキャンペーン“バーベンハイマー”をめぐるSNS上での騒動などがあり、日本の大手配給が米公開から4カ月以上沈黙するなか、米アカデミー賞ノミネート発表1カ月前の昨年12月にビターズ・エンドが配給を決めたのはまさに英断だった。広島・長崎の描写の不在については、オッペンハイマーの視点で描く物語だから当人が見ていない原爆投下を描かないというのも一理あるが、1億ドルもの巨費を投じて米国の製作会社が作る大作ゆえ米国市場での評価と興行的成功が重要視された(そのためネガティブな反応を引き起こしかねない原爆による凄惨な殺戮の描写はぼかされた)点も見過ごされるべきではないだろう。米国側の視点・史観に立った映画を日本人が観てさまざまな意見を持つのもまた当然で、健全な議論のきっかけになればいい。作品を見ずして賛否を論じるのは不毛でしかないが、日本公開されるおかげでそれは避けられた。

クリストファー・ノーランは映画館でなければ得られない鑑賞体験を提供することに人一倍こだわってきた監督で、そのための有力ツールであるIMAXの画角を効果的に使った映像も見所のひとつ。過去作の「ダンケルク」では縦方向の動きを見せるショット(戦闘機同士の空中戦や、船から海に飛び降りる兵士たちなど)で活用されていたが、本作でのIMAX映像はまた一味違う。オッペンハイマーに扮するキリアン・マーフィ(頬がこけるほど激ヤセして熱演)の顔を画面いっぱいに映し瞳や表情筋の微細な動きを透過して心理状態にまで肉薄するかのようなショットや、オッペンハイマーが物理学的真理を追求する思索のイメージ、原子爆弾が世界に連鎖的な破壊をもたらす悪夢のような空想を、観客はIMAXのスクリーンからまさに全身に浴びるように受け止めることになる。

オッペンハイマーによる視点がカラー映像、ロバート・ダウニー・Jr.が演じるルイス・ストローズなどオッペンハイマー以外の視点がモノクロ映像と使い分けられている点は、本作を直感的に理解しにくくしている要因の一つだ。これもまた、一度観て理解できるような単純な映画でなく、繰り返し鑑賞することで理解度が高まる奥深い作品を追求するノーラン監督の挑戦の途上なのだと感じる。

アカデミー賞7部門受賞に関して、視覚効果を巧みに使ったSF大作でヒットを連発した監督がのち史実や歴史的事件を題材にしたドラマ作品で作品賞などの受賞を果たすという流れでは、リドリー・スコット監督の「グラディエーター」、ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」の先例にならうものであり、ノーラン監督もオッペンハイマーを題材に選んだ時点で当然意識し、オスカーを獲る勝負作として臨んだはず。そしてこのコースに沿う次なる最有力候補は現在「デューン 砂の惑星 PART2」が日本公開中のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督だろう。ヴィルヌーヴ監督の待機作については、「デューンPART2」にも出演しているゼンデイヤが主演で「クレオパトラ」が今年製作開始との報道も。必勝コースに乗って「クレオパトラ」で初受賞となるか、あるいはそれ以前にSF大作で獲得するのかも楽しみだ。

ノーラン監督と対談した山崎貴監督が、「日本が(「オッペンハイマー」への)返答の映画を作らねばならない」と宣言したという記事も興味深く読んだ。「ゴジラ-1.0」がアカデミー賞視覚効果賞を受賞したことで、山崎監督には国外の著名監督から視覚効果監督のオファーや、ハリウッド作品の監督としての依頼がきっと来るだろう。国際的な実績を積み、いつか日本側の視点で原爆を題材にした大作を世界に発信してくれたらと期待する。

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高森 郁哉

4.5Chilling You Can't Call It Sci-Fi

2024年3月6日
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怖い

興奮

Nolan eerily evokes The Prestige's "Are you watching closely?" in a similarly themed story about a scientist trounced by his creation. As for historical accuracy, the film doesn't contradict anything in the Hiroshima Peace Museum and dispels common US myths such as that the Japanese were warned prior. The sound is the film's strongest game. The cosmos began with a bang and will end with one too.

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Dan Knighton

2.5長くて、細切れで鑑賞 そのため登場人物の関係がわからなくなった も...

2025年2月19日
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長くて、細切れで鑑賞
そのため登場人物の関係がわからなくなった
もう一度見直したいが長い。。
映画館で集中してみなければ

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jyojyo4649

3.5核兵器の使用が叫ばれる現代こそ

2025年2月17日
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ナチスが原爆を作っているとの情報で、アメリカの威信を掛けて原爆を作る。
しかし、ナチスは降参。
作り上がった原爆を日本に落とす。
原爆の脅威を見せつける事でその恐ろしさを示めす為。
やがて原爆の父と呼ばれる事になる。

やがて水爆が開発され、その脅威に核兵器の反対の立場を取る。
大統領とも閲覧し、核兵器の反対を述べるも「小心者!」と大統領に叱責される。
やがて赤狩りの様な尋問委員会に糾弾されるが自分を嵌めた委員を同僚の科学者が彼を救う。

所々でアインシュタイン博士が登場し、「研究が理解出来なかった民衆の為に君は賞を私に与えた。これはわたしにではなく、理解出来ない大衆の為に賞を与えた」等、コメントをくれる。

人の成功は時によって、その時代によって多角的に評価されるものだと思った。
原爆の父と祭り上げられても、その脅威で反対の立場を取れば評価は変わる。
ウクライナ侵攻でロシアが核を脅しに使っている昨今。日本の反核団体がノーベル平和賞を受賞した。そんな時代に必要な映画だと思う。

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ライブラ

3.5展開についていけず

2025年2月10日
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鑑賞方法:VOD

知的

見出してから20~30分、
「この映画は大丈夫、つまらなくない」。と実感。
しかし、最初から最後までストーリーが分からない。ついていけない。
しかし、最後は何となくそういうことか…ということにしたけど。
しかし、映画としてはよくできた作品だと思います。
分からないけど、飽きさせない。
特に、女優たちが良かった。Hあり、頭が良くて、強い、妥協しない、負けない。
蛇足
この映画で、広島・長崎の惨状に触れてないことを非難する人がいるみたいだけど、
どうかな?

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ぜん

2.0事実を描いている点が評価のポイントなの?ヒューマンドラマが弱かったです。

2025年2月3日
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鑑賞方法:VOD

寝られる

 これが評価されている時点で、アメリカの歴史教養や科学史、戦争の振り返りが知識階級にすら不十分なんだろうなと感じました。淡々と伝記と歴史を描いている点について、この作品を評価する理由が「知らなかったことを知らせた」だけにつきるなら、こんなにつまらない評価理由はないです。

 日本の公開を遅らせたような配慮についても、いや、今更この程度のことで刺激も批判もありようがないだろう程度です。

 当時の軍の汚さ、共産主義がどう科学者に影響を与えたかなど裏を描いたところは面白いですが、それ以上の何かがあるわけではないです。
 興味を持ったのが家族・友人関係や、共産主義者の女性との関係とか奥さんとのヒューマンドラマですが、単なる映画をエンタメとして成立させるための刺激で終わってしまいました。結局トルーマンやアメリカの覇権主義をどう評価しているかを入れていないし。漠然市民に原爆を使った何かがある程度です。

 この映画を3時間近く見て、大量破壊兵器を開発した人の苦悩というありきたりの視点だし、科学者の変わり者の性質とか、軍や国家の機密は非人間的だ、核兵器は怖いねとか、核兵器を開発した人は病むよねとかそういうのを描きたいの?としか思えませんでした。

 それぞれの演技や当時の再現度などは素晴らしいと思いますが、それは映画としての評価の一部です。

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nyaro

3.0監督の意図を知りたい

2025年2月2日
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難しい!登場人物多すぎる!でもまあ流れは分かってるからあんまり考え込まずに見て、見た価値はあったかなと思いますよ。

オッペンハイマーがスピーチしたあとに歓喜の群衆の中に苦しむ人々の幻影を見るシーン、アメリカ人なのかな?みんな欧米人なのよね。原爆落ちた日本の人々じゃなくて?と普通思うのだけど、ノーランほどの人何か意図があってこうしてるんだろうと思いたい。その意図を知りたい。

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三毛猫泣太郎

4.0天才って不幸

2025年1月28日
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知的

自分が理数系が苦手なので、理数系の人に憧れがある。理数系の天才たちのエピソードとか大好きだ。

理数系の天才たちは皆、一般社会に溶け込むことができない超がつく変人揃いで、素っ頓狂な天然エピソードからとんでもない超絶頭脳エピソードまで同じ人間とはとても思えないような面白エピソードをたくさん持っていてワクワクさせてくれる。

しかしながらそんな天才たちには共通点が一つある。
それは、みんな頭が良すぎるが故に栄光を手にするが、同時にとてつもない悲劇にも見舞われるということだ。

興味のある方は数学者の藤原正彦氏が著した『天才の栄光と挫折 数学者列伝』などお読みいただきたい。メチャクチャ面白い。

この映画の原作も『オッペンハイマー 「原爆の父」と呼ばれた男の栄光と悲劇』である。

これは、一人の天才が国家に目をつけられて
世界の運命を変えるような巨大プロジェクトに無理やり引きずり込まれて、いったんは栄光を手にするが、その後とてつもない重荷を抱えて一生苦しむ羽目になるという話である。

広島長崎の悲劇を知っている我々日本人にとっては原爆の非人道性をもっとはっきり描いてほしいという思いはやっぱりあるし、この映画に賛否両論さまざまな意見があるのは当然だと思う。

ただこの映画はアメリカの日本への原爆使用を正当化したり擁護したり弁解したりするような、そういう意図を以て作られた映画ではない。

この映画は国境線という見えない線を引いた時から国家というものが本質的に孕んでいる狂気を描いている。

そして、たとえ国が狂気に走った場合であっても多くの人間は自分の国を愛するものであり、その愛国心や同胞愛は無下に否定できるようなものではないのである。
だが、その愛国心や同胞愛の先に待ち受けているのが戦争であり虐殺だったとき、我々はどうすればいいのか。
答えは容易には出ない。
オッペンハイマーはただ立ち尽くしている。

『ダークナイト』でガツンとやられて以来クリストファー・ノーランの作品はチェックし続けているが、やっぱりノーランは一筋縄ではいかない監督である。

原爆を完成させるまでがものすごくスリリングなのだが、その後の展開の方がずっとスリリングだった。
終盤のキリアン・マーフィーとロバート・ダウニー・Jr.の演技は特筆に値する。

ただし、ノーラン監督は『メメント』や『TENET テネット』などを観れば分かるが観客と知的ゲームをやりたがるきらいがあり、今回も時間軸を交差させてこちらをケムに巻いて鼻面を引きずり回そうとするのでそこは要注意である(笑)。

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盟吉津堂

4.0原爆はなぜ造られたのか

2025年1月23日
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鑑賞方法:映画館

知的

昨年、劇場で鑑賞。どのように原爆が開発されたのか、その背景や科学者たちのエゴイズムなど、学校や資料館では知ることができなかった。エロシーンを削って、中高生にも観てもらいたい作品。オッペンハイマーが被爆者と面会していたことも取り入れてほしかった。

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ネコノケ

2.0罪を犯しておいて、その結果に同情しろと?

2025年1月21日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

難しい

いろんな意味で難解な作品、しかしあらゆる人に観て欲しい作品だ。

誰か(他国)が造ってしまうかもしれないなら、自分達がソレをしよう!、……解らないでは無いが、ソレがどんな作用を引き起こして、どんな結果を招く事に成るのかを充分に理解し尽くした上での行動なのか?
歴史上の出来事を批判しても仕方ないけど、そこまでして造りたかったのか?造らなきゃならなかったのか?がズシリと遺された。

後半の審議会で叩かれる事で、殺戮兵器作成を濁された感も少し有った……。

融通の効かない乏しい思考の哀しさも感じた。
共産主義の排除具合も当時は正当だったのだろう。

時系列や登場人物の関係性を把握しきれないまま進んで行くのも、しんどかった。
それでもやっぱり、いろんな人に観て欲しいと感じるのは、唯一の被爆国民だからなのかな?

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奇妙鳥

4.0予想と違う凄さ

2025年1月16日
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鑑賞方法:VOD

あまり期待もなかったので、劇場放映時には観ずじまい。先日気まぐれにアマプラで観たところ、予想と全く違う内容でびっくりでした。いろんな意味ですごい映画です。決して、太平洋戦争を背景に原爆が開発される流れで日本に投下というのが主題では無い。オッペンハイマーの特異な人格、アメリカの開発力の凄さ、科学者界隈でのドロドロした人間関係などなど。後半は嵌められた男の裁判という、どうにもならないもどかしさを長尺で映す。人間の業は、核兵器そのものに留まらず。観ごたえありすぎの作品です。

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abfly

5.0究極の再現VTR

2025年1月16日
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鑑賞方法:映画館

2度目
人類が火薬を手に入れたことで騎士階級のあり方が大きく変わったようにオッペンハイマーも世界の仕組みを大きく変えた。
火薬と並ぶインパクトをたった独りの人間が人類に与えた(そう評価された)ことが周りの人間や彼にどのような対価を支払わせたか精彩に描いてる。
オッペンハイマーは最終的に自分の人生をもって支払うこととなった。

1度目
オッペンハイマーの想像力、先見性を映像化している部分の解像度が兎に角高い。この映画にキューブリックを感じたのは映画の文法よりも映像としての強度を優先させているように感じたところにある。
この作品はアカデミー賞を取るべきである(実際2023年度最多受賞を成し遂げた)。正確にはアメリカのアカデミー賞を取るべきである。素晴らしい傑作であるからではなくこの映画がアメリカ人のフロンティアスピリッツが払うべき代償を強く示唆しているからである。
ノーラン監督はアメリカで唯一の’’大衆を相手に超大作を撮る現役の映画作家’’である。その彼の一つの重要な通過点に今作はなった。しかし彼はまだゴールにはたどり着いていない。僕はそう断言できる。これほどの傑作を創って尚まだ上があるといえるのが彼の恐ろしいところである。

要するに想像力が世界に与える力。

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悠