ほかげのレビュー・感想・評価
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戦後の実相は底知れぬ漆黒の闇だった
1 戦後間もない頃の闇市で、一人生き抜く少年の姿を通じ、戦後の実相を描く。
2 あらすじは次のとおり。
何処とは特定できない町の闇市。一人の女性が青線的な商売をしている。そこに恐らく壮絶な体験をした孤児が出入りする。孤児はその女性と兵隊上がりとともに一時の家族ごっこをしたかと思えば、金を稼ぐために市中で出会った男の危ない用事を手助けすることに。果たして彼は・・・。
3 戦禍で焦土と化した中から日本人の戦後がはじまった。戦争から解放された喜びはほんの一瞬、その後は明日のない現実のみが残る。多くの人は身近な人や住む家を失い、希望が見つけられないその日暮らし。人々の心は荒み、なりふり構わず自己の欲望のまま行動する。何も持たない女は体を売り親のない子供はかっぱらいで生きていく。男は体に血や硝煙の臭いを残し、まだ戦場の記憶を引きづっていた。戦後まもないころは、まさに暗黒であった。本作は、そうした時代背景の基で日本の何処にでもあった戦後の実相が描かれた。全体的に救いのない映画となった。
4 映画のなかで印象的だったのは、疑似家族として繋がったエピソード。微笑ましさを通り越し狂気を纏っていた。そして、バイタリティー溢れた子役。それにしても画面が暗くおどろおどろしいのには参りました。
綺麗事じゃない戦後の暗部を描いた作品。 戦後といっても地獄は続いて...
綺麗事じゃない戦後の暗部を描いた作品。
戦後といっても地獄は続いている、戦争は終わっていない人がいたことを強烈に感じた。
覚悟をもって観なければならない作品
反戦映画と言ってしまうのは簡単だけど。戦争に奪われ傷ついた人達の重い暗い物語である。
趣里が演じる女は焼け跡の中の居酒屋の建物で暮らしている。そこに戦災孤児と復員兵がやってきて奇妙な共同生活を始める。ほかげとは、狭く暗いこの居酒屋の壁に映る彼らの傷ついたこころに他ならない。復員兵は戦場の恐怖に怯える。戦災孤児はおそらくは空襲の恐怖に怯え夜な夜なうなされる。そして女は身体を売って生きなければならない運命を嘆き恨む。彼らの想いはほかげのようにゆらゆらと揺れ繰り返し彼ら自身を苛むが彼らは居酒屋の闇に囚われ出ていけない。特に女は。この居酒屋には奥の間があり女の心の闇、そこには戦争に奪われた夫と子への想いが潜む。そこにはもはや火影すら届かない。途方もない暗闇である。
映画の後半は森山未來の演じる復員兵と戦災孤児の旅が描かれる。あらすじを読んだときはなぜ復員兵が二人出てくるのか、前半の居酒屋の復員兵が後半の復員兵と同じであっては何故いけないのか疑問に思っていたが旅の目的が分かることにより理解できた。この復員兵は戦争の被害者であるとともに加害者でもある。
彼はある妄執に囚われている。その意味では、彼は女の住む暗い居酒屋に同じく住んでおり、壁に映る火影を見つめているのである。
私は、もちろん塚本晋也の人となりを知らない。でも恐らくは心やさしい人なのだと思う。この映画では、女にも復員兵たちにも孤児にも、希望の光がみえる瞬間が描かれる。凄まじい情念をもって生きていく女の暮らしにも一瞬ホッとする情景があるし、復員兵にもやろうとしていることを躊躇する場面がある。こういったシーンを置いたことは塚本の本質的な優しさによるものだと思う。でも結局、彼らは暴力や病気などにさらされ、他人を拒否し過酷な宿命に突き進んでいく。
私には、こころ優しい塚本が歯を食いしばってこのドラマをつくっているように思える。戦争の過酷さを描くということはそれだけの覚悟がいることなのである。塚本は表現者としてその責務を果たそうとしているようにみえる。だから観客である我々も受け止めなくてはならない。受け止めたからといって何が出来るかはよく分からないけど。
灯された救いの火の頼りなさと、その影の深さ
ほかげ(火影)と聞くと、NARUTOのイメージが浮かんでしまう自分もどうだかなぁと思いながら、改めて意味を調べてみた。すると、「火の光、灯火」と「灯火に照らされてできる影」どちらも表しているらしい。なるほど、映画を観終えると、塚本監督がこのタイトルに寄せた思いのようなものが少しわかった気がした。
趣里演じる女が暮らす居酒屋に転がり込んできた、孤児と復員兵。それぞれが身寄りを無くした3人にとっては、お互いは束の間の救いの存在だったことだろう。けれど、その救いも、復員兵が灯した火のように頼りなく、影はそれぞれが抱えている闇のように深かった。
生きるために体を売りつつ、けれど決して奥の部屋は覗かせないことでかろうじて自分を保っている女。教科書をお守りにして、かつて教師だった記憶にすがる復員兵。拾った拳銃を肌身離さない孤児。
一時は、それぞれの闇を抑えて、うまく行きかけるのだが、闇市から聞こえてきた発砲音をきっかけに、あっという間に関係が崩壊していくところが切ない。
とりわけ、教師だったはずの復員兵は、女を殴り、孤児を投げ飛ばして、お守りだったはずの教科書に目もくれない。
兵士として、戦争という暴力の真っ只中に緊張と共に置かれ続けた結果、心が完全に壊れてしまったのだろう。
それに対して、森山未來の登場後に出てくる旧上官は、潤沢な恩給をもらって、優雅な戦後を暮らしている。その対比がやるせない。
個人的に、女が孤児にかける言葉に少し違和感を感じる場面がいくつかあって、この点数にしたが、全体としてはまとまったいい映画だと思う。
終わらない戦争
薄暗い部屋でひっそりと息をひそめるようにして暮らす女、闇市で食べ物を盗んで暮らす孤児、PTSDに苦しむ復員兵。映画前半は彼らが織りなす疑似家族のドラマとなっている。
戦争のトラウマを抱える者同士、身を寄せあいながら慎ましく暮らす光景に、戦争の”傷跡”が嫌というほど思い知らされた。
どこからともなく聞こえてくる大きな物音にパニック障害に陥る復員兵。戦火の悪夢にうなされる孤児。生きる屍のように体を売る女。戦争は終わっても彼等の中ではまだ戦争は続いているのだ…ということが実感される。
物語は女の視点を軸に展開されていくが、後半から孤児の視点に切り替わり、カメラも薄暗い部屋から屋外に出ていくようになる。重苦しいトーンから解放されて、ここからは孤児とテキ家の男の旅を描くロードムービーのようになっていく。
ここでは何と言ってもテキ屋の謎めいたキャラクターが出色である。彼もまた戦争の傷を抱えて生きる孤独な男で、その顛末には原一男監督のドキュメンタリー「ゆきゆきて、神軍」が連想された。
製作、監督、脚本、撮影、編集は塚本晋也。
本作は「野火」、「斬、」に続く戦争三部作の最終章ということである。「斬、」は江戸時代末期を舞台にしているため若干趣を異にするが、戦時下を描いた「野火」と戦後を描いた本作は姉妹作のように並べて観ることが出来る。いずれも反戦メッセージが強く押し出されている。
印象に残ったシーンは幾つかある。
例えば、テキ屋の最後の”選択”と、その後に続く孤児の自律には、平和への祈りとかすかな希望が感じられた。
また、女が切り盛りする居酒屋は一種異様な雰囲気に包み込まれており、まるでホラー映画のような禍々しさで切り取られている。とりわけタイトルシーンにおけるヒモ男と女のスリリングなやり取りは出色の出来で、一気に映画の世界に引き込まれた。
また、塚本作品の特徴と言えば過激なバイオレンスシーンである。復員兵がPTSDでパニック障害に陥るシーン、テキ屋の男の復讐を描く緊迫感溢れるシーンに目が離せなかった。
俳優の肉体描写も如何にも”塚本印”という気がした。女を演じた趣里のふくらはぎに対するフェティシズム溢れるカット、テキ屋の男を演じた森山未來の鍛え抜かれた裸体を克明に記したカット等にそれを強く感じる。
とにかく本作における趣里の存在感は圧倒的で、同時期に放映されている朝ドラのイメージとは真逆で驚かされてしまった。森山未來はもちろん、孤児を演じた子役の澄んだ眼差し、復員兵を演じた俳優の説得力のある造形も素晴らしかった。
戦争が終わっても人々の戦いは続く
終戦直後の闇市を舞台に戦争に翻弄された人々の姿を描いヒューマンドラマ。半焼けの居酒屋で暮らす女と片腕が動かない男、そして戦争孤児の子供が必死に生き伸びる姿を見事に描いている。特に印象的なのが孤児を演じた子役の表情が素晴らしく引き込まれた。戦争が終わっても人々の戦いは続くことを改めて実感しました。
2024-11
塚本さんはこれを取りたかったのか。子どもと大人の関係性が日本を象徴...
塚本さんはこれを取りたかったのか。子どもと大人の関係性が日本を象徴しているところはすごい。戦後、食べていくことと実存の問題が一緒に描かれているところが他にない。
面白かった
何が起きるのか、何を考えているのか、見ているうちに、スクリーンへの集中力が自然と研ぎ澄まされていき、主演3人の動きや表情に釘付けになる。見ている自分もその場にいて体感しているような映画。前半の密室感から後半、森山未來のシーンへの転換がとても良かった。これは映画館で見るしかない映画だと思う。
見ている間、物足りなさなど全くない。しかしいつも思ってしまうのだが、もしも、もう少し制作予算をかけたらどんな映像が生まれたのだろうか。今回も見終わった後で若干頭をよぎってしまった。
塚本監督には頭が下がる
このようなスポンサーが付きにくい反戦映画を自費で捻出して造る塚本晋也には感銘を受けます。名優と言われる役者たちも喜んで参加する塚本組。趣里など朝ドラ主役と被る時期に真逆の役柄で出演するんだから凄いとしか言いようがない。ただ、個人的な意見なのだが、好きかと聞かれたら好きじゃないんです。今まで塚本作品はかなり観ていて凄いと思っていた。しかし好きではないということに初めて気づきました。
趣里、森山未来の芝居は震えるレベル。子役の塚尾桜雅の眼差しはカンヌをとった誰も知らないの時の柳楽優弥を彷彿させる。
塚本監督の情念、名優達の演技、素晴らしい。
映画も音楽も恋愛も嗜好の問題があると今更気がつきました。
戦争による後遺症を切り取った感じで観ているのが辛くなる作品。 本年度ベスト。
趣里さん目当て。
何の情報も入れずに鑑賞。
序盤から良く解らない展開に戸惑う(笑)
だけど銃を使うシーンで本作は戦争により大切な人を失ったり心に傷を負った人達がもがきながら生きている姿を表現している作品と理解。
ロシアのプーチンに観せて感想を聞きたくなる。
体を売って生活する趣里さん演じる女性。
なぜか子供と青年と一緒に生活する展開。
理解出来なかったけど、彼女が失ったものを埋めようとしていた感じ。
情緒不安定な感じの演技が素晴らしかった。
子供も必死に生きて行く姿が辛い。
子役の子が目で演じる姿に圧倒される。
森山未來さんが怪しい役。
彼も苦しんでいたのかと思うけど、子供の目の前でやっちゃダメだろ(笑)
ラストで子供が働く姿に少しだけ光が見えた感じでした( ´∀`)
監督の芸術性も健在なり
2回も観た。
監督の平和への祈りを感じる映画。
「野火」の続編のような。
そして監督の持つ稀有な芸術性ももちろん今回も健在。
怖いし汚いのに美しかった。
ラストシーン。人混みに紛れて去っていく少年の後ろ姿に
監督の切なる願いがこもっているように感じて・・・涙。
痛ましき腕
塚本晋也監督の「ほかげ」
「腕」の映画だった。タイトルクレジットで思い出したのは岡本太郎の「痛ましき腕」。
森山未來の腕の演技。死んでいる腕の演技。
焼け跡の見せ方(遠景)も素晴らしい。
昼と夜のコントラストが激しく、暗闇の中の人物はおホラー映画の幽霊のように恐ろしい。
重いが、鑑賞後に気落ちするわけではない。
「映画」を観た。
塚本晋也監督はいつも「映画」を魅せてくれる。
塚本晋也監督の映画は全部観ているわけではないのだけど、うまく言えないけど「身体」の人なんだなと思った。
戦争孤児の瞳が訴えていたこと
非常に重い内容の作品だった。
戦争孤児の少年と元教師の復員兵と3人での擬似家族を成し、新たな生活のスタートを切るのかと思いきや、全く違う方向へ移って行く。
あの少年(坊や)の瞳がクルクルと動き、世情と大人に揉みくちゃにされながらも、必死に「生」を掴み取ろうとしていた。
戦争と後遺症
暴力が暴力を生むという悪循環。
戦争後遺症を正面切って取り上げている。
現代の戦争でも、地球の反対側からドローン操作で敵を殺した兵士のPTSDは、戦地で敵兵を殺した兵士と同等かそれ以上の深さになるという話もある。
80年前と戦争の形が変わってもこのことは恐らく変わらない。
いちばん衝撃だったのは、PTSDに苦しむ復員兵より、拳銃の発射より、躊躇なく酒瓶を振り下ろせる子供の暴力だった。
戦争がなにを変えてしまうかを描き出している。
坊やの眼差し
坊やの眼力がすごい。
自分に優しくしてくれた女を守ろうとする強い眼差し、
テキ屋の心の動きを敏感に感じ取り、憐れみだったり、疑いだったり、
彼の復讐相手への怒りだったりの眼差し、
復員兵に、また教科書を手にし立ち上がってくれと、思いを込めたような眼差し、
最後、雑踏の中で、強く生きていくという決意の眼差し...。
趣里さんも朝ドラより良いと思ったし、森山未來さんは安定の惹きでしたし、
復員兵の河野宏紀さんも、純粋さからくる狂気というか
精神衰弱な様がとても怖かったです。
しかし、飛び抜けて、あの坊やが本当に素晴らしくて、
今回の作品の全てのように感じました。
大人の俳優たちを完全に食っていたかと。
戦争孤児、復員兵、戦争で子どもと旦那を亡くした女と…
戦後の日本で、戦争のせいで人生や精神が身体が狂ってしまった人たち、
観ていてシンドかったです。
でも、知っておかなくてはいけないことであって、
だから、戦争なんて絶対にダメだと強く思えるし、観て良かったと思いました。
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