劇場公開日 2023年11月25日

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「僕たちは先人の灯りの中で生きている。」ほかげ バリカタさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0僕たちは先人の灯りの中で生きている。

2024年2月16日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

「ほかげ」
・・・知らない言葉なので調べたら「火(特に灯火)の光」だそうで。
この題名はラストの少年に芽生えたであろう気持ち、
感情を言い表したのではなかろうか?と思います。

さらに文字は「火影・灯影」と書くそうで・・・。
塚本監督作品「野火」の「火」が落とした影の世界(後の世界)を描く
という意味も兼ねているのかな?

さて、本作。主演の趣里さんはじめ、俳優陣の圧倒的かつ確かな演技で
最初から引き込まれ一気に観てしまいました。朝ドラとのギャップを
感じたのもつかの間でした。いやぁ、すばらしい女優さんですね。
これだけでも鑑賞の価値があるとおもいます。

「野火」では戦争を、本作では戦後を描いていますが、共通するのは
「生々しさ」です。

きっとこうだったんだろう戦後の風景と人々。
戦争の傷で人間の大切なものを失ってしまった者たち。
生活のすべてを失い生への渇望のみで生きている者たち。
戦時をいまだに続けざるを得ない人。
そこには明るい未来なんてものは存在せず、勝手に背負わされた
負に対してなんとか抗っている人々が居るだけです。

けど、、だけど、心にくすぶっている「希望と願いの灯り」はあるわけで、
体内に取り込んでしまいどうしようもなくなってしまった者の中には
「繰り返してはいけない戦争の火」がくすぶり続けているわけで、
でも、多くの人には幸せだった「戦前の記憶と人間としての感情の灯り」はあるわけで、
それらは他者と関わることでちょっとずつ手から漏れて光るのです。

それこそが「ほかげ」であり。それに照らされ未来に導かれるのが戦後を
生きていく子供たちだったのではないでしょうか?

救いは基本的になく、ただただ絶望を感じ続ける本作ではありますが、
クライマックスの描写と、遠くに聞こえる刹那の音が、
次代への願いのようであり、渡されるバトンのようでもあり、
新たな時代を始めるスタートの合図の様でもあり。

雑踏の先に明るい場所があることを願わざるをえないし、それは僕らが
つくっていくものなんだろうと思います、改めて。

・・・やっぱり忘れちゃいけないことなんだよね。

バリカタ