劇場公開日 2023年10月13日

「いつも通り面白かったし、謎深い(監督が)」キリエのうた yudutarouさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0いつも通り面白かったし、謎深い(監督が)

2023年10月22日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

 どこか岩井俊二の集大成的な作品のようにも感じたが、最近観る岩井作品はいつもそんな感覚があるので、やっぱりいつも通りの岩井作品か。物語自体は雑でわりとどうでもいい作りだったり、子役の使い方が抜群に上手かったり、あらゆる場面が抒情的で美しい、などといったところもこれまでのフィルモグラフィーと同様で、つまりいつも通りに面白いということなのだけど、その上で今作はアイナ・ジ・エンドという稀有なアイコンを得て、いつも以上にエモーショナルな作品にもなっていて、新鮮味があった。

 そしてこちらの好きなものをバンバン投入してくるのも相変わらずだった。今作では七尾旅人が重要な役どころで登場するし、花澤さんまで歌で岩井ワールドに入ってきた。毎回のように特撮人脈や、ややアングラ寄りのアーティストを使ってくる感覚はどう考えてもこちら(オタク)側なんだが、本人からは全くその気配が漂ってこない、それどころか監督自身から漂うのは広告代理店的な自己演出感で、キャスティングなども含めて色々計算が働いてそうなんだけど、作品自体は感性と純粋さに溢れていて、ほんと謎である。感覚で生きてるように見えるのに作品自体は客観的な視点で作ってしまう勝新や西村賢太の逆パターンなのか。そもそも今作も含めて少女への執着とかかなり気色悪い筈なのに、殆どそういう受け取られ方をされない立ち位置というのもかなり特殊だ。3.11のドキュメンタリー映画で見せたような、ちょっと行き過ぎたぐらいのピュアネスを持っていながら、日本映画のオーバーグラウンドの中心点で作品を作り続けられるのは、その外面の、こちら側からすると鼻持ちならない感じがあってこそだろうな、とは思う。

 で、今作はやはりどうしたって主演のアイナ・ジ・エンドの歌が肝になっていて、陳腐な言い方だけど、ブルージーな歌声の存在感が際立っていた。声の感じからすればジャニス・ジョプリンとかエイミー・ワインハウスみたいにエモーショナルな悲劇性や情念の方向にいきそうだが、本人が飄々として、わりと普通な佇まいなのが暑苦しさ少な目で良かった。そして広瀬すずはもちろん良い…。すでに大物の貫禄すらあったよ。あと、出てくる業界人やセレブ層がいかにも実在してそうなキャラクターで、全員イヤな雰囲気を醸し出しているのも良かったし、流石だった。この業界人のヤな感じっていうのが、そのままこちらの岩井俊二への印象にも重なるというのが、ますます監督の謎深さを助長させてもくれるのだが…。

yudutarou