枯れ葉のレビュー・感想・評価
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ヘルシンキの{ボーイ・ミーツ・ガール}
フィンランドの首都ヘルシンキで
スーパーの店員として暮らす『アンサ(アルマ・ポウスティ)』は
期限切れで廃棄すべき商品をくすねたことが原因で失業。
そして同時期に、工事現場で働く『ホラッパ(ユッシ・ヴァタネン)』とカラオケバーで出合い、
二人は互いに一目惚れ。
しかし『ホラッパ』はアル中。
職務中の飲酒がバレ、次から次へと転職を繰り返すさ中。
共に厳しい現実に直面する二人の恋の行方は・・・・と、
プロットだけを追えば典型的な{ボーイ・ミーツ・ガール}。
しかし、主人公の二人の年齢はどう見ても四十歳近くで
立派なおばさんとおじさん。
それでも、しっとりとした{ラブストリー}を成立させてしまう、
監督・脚本の『アキ・カウリスマキ』の手腕には敬服。
81分尺の小品。
ため、科白を切り詰め説明を省略し、
シーンを巧みに繋ぐことで極上の短編に仕上げる。
あまりにそっけなさ過ぎて、
言葉による説明過多の直近の邦画に慣れてしまうと
かなりの物足りなさを感じてしまうのでは。
が、背景も含め淡々とした描写が独特の雰囲気を醸す。
二人の現状を判らせる、冒頭のシークエンスはとりわけ見事。
ほんの短い時間で労働者が体よく使われている社会の状況と、
空虚な生活を見せ、
これで鑑賞者は一気に感情移入。
また、本編の舞台は現代。
ラジオから流れるロシアのウクライナ侵攻に関するニュースの
日本での報道内容とは随分と異なることの驚き
(陸で国境を接する国の論評は違う)。
意図的に病院を攻撃するのは、社会の混乱を目論むロシアの常套手段である、
などを聞けば更に厭世的な気分になろうというもの。
そこに1960~80年代の音楽もたっぷり盛り込み
(中には〔竹田の子守歌〕もあり)、
最後にはタイトル通りの〔枯葉〕に持っていく巧さ。
人生の秋に近くなって咲いた恋でも、
まだまだ先の幸せを期待させるとの。
そしておそらく
監督が偏愛するであろう映画の数々が
ポスターに仮託し貼られている。
〔若者のすべて/Rocco e i suoi fratelli(1960年)〕
〔気狂いピエロ/Pierrot Le Fou(1965年〕は印象にも残るが
初めてのデートで観る映画が
『ジム・ジャームッシュ』の〔デッド・ドント・ダイ(2019年)〕
なのには笑ったが。
ひょんなことから『アンサ』が飼うことになった犬の名前が
『チャップリン』なのも、
「放浪紳士」は最後は概ね、
背中を向けて去るのを想起させもする。
古き良き時代の映画へのオマージュも
随所に感じるところ。
本作もよりドラマチックな要素を付加すれば
十分にそうした作品群と近似する。
登場する映画館の名前が「Ritz」なのは
皮肉な名称にも思えるが。
アンサのウィンクがかわいい
パーフェクトじゃない日々
カウリスマキに「アナログ」撮って欲しかった
2023の最後はこれだった。失敗がないと思ったし、いい気分で終わりたかったから。そしていい気分で映画館を出て来れた。
フィンランドの他愛もない男と女の話でしかない。ラジオからウクライナのニュースが流れ、世知辛い世の中の視線の中で仕事先を解雇されるふたりが出会ってくっつくまで。カット選択、感情、ミニマル表現の中でふっとエモーションが動くのが素敵だ。今時名前も知らないふたりが出会っていい感じになって、電話番号の紙を渡してそれがポケットから落ちて風で飛んであえなくなって、別れた映画館でいつか会えるとずっと待ってて足元にたくさんの吸い殻を映して、それを女が観る、なんて映画が観れるなんて。歳とったいかれた男女は素晴らしい。男がまさかの禁酒を実践し、電話をかけた時のアルマ・ボウスティの犬に出ろという視線と、その後電話出た瞬間にすぐに来て、というスピード感が素晴らしい。
なんだかんだで年末はベンダースにカウリスマキという、やっぱりあなたたちの映画は映画的喜びに満ちてます、という感じ。
そういえば、映画化された北野武の「アナログ」はこんなテイストの映画で観たかったな、と思った。
カウリスマキの帰還‼️
お帰りなさい、カウリスマキ監督‼️6年前の引退宣言があったので、もう新作は見れないと思っていたので、メチャクチャ嬉しかった‼️しかも内容はラブ・ストーリー‼️しかもチョット古風でノスタルジック‼️そしてチョットすれ違い気味‼️加えて全編に映画愛が溢れている‼️仕事をクビになった女性アンサと、アル中気味の作業員の男性ホラッパ。二人はカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合い、再会の約束をするが・・・‼️電話番号のメモを無くしたり、アル中であることを責められ気まずくなったり、酒を断って会う約束をした矢先に事故にあったり‼️ビミョーに心地良いすれ違い具合ですよね‼️主演の二人も大きなリアクションは無いのですが、微妙な表情の変化で互いのことが気になる心情を表現していて、素晴らしかった‼️そして音楽‼️二人が出会うカラオケバーや、ホラッパが同僚と出かける酒場で流れる音楽‼️クラシックからカラオケ、バンド演奏まで実に多彩で、特に酒場での女の子2人組マウステテュトットの演奏シーン‼️「悲しみに生まれ、失望を身にまとう」という楽曲が耳から離れない‼️サントラ欲しい‼️もしくは彼女たちのCDでもいいから‼️そして、アンサのラジオから流れるロシアのウクライナ侵攻のニュース‼️こんな素敵なラブ・ストーリーが展開されてる一方、現代の社会情勢を批判する姿勢も忘れない‼️サスガ‼️最後に映画愛‼️二人がデートで通う映画館で流れるジム・ジャームッシュ監督の「デッド・ドント・ダイ」‼️なんでこの映画が上映されているのか意味不明なんですが‼️あと映画館に貼ってあるポスター‼️多分今作に多大な影響与えているであろうデヴィッド・リーン監督の名作「逢引き」、ジャン・リュック・ゴダール監督の「気狂いピエロ」、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」、ロベール・ブレッソン監督の「ラルジャン」などなど‼️改めてもう一度観直したくなります‼️そしてホラッパがアンサのために酒断ちを決意、持っていたボトルを二本、洗面所の流しに捨てる‼️その次のカットで青空が広がる演出は、まるで小津安二郎監督作みたいでした‼️そしてアンサが飼っている犬の名前はチャップリン‼️もう言うことありません‼️映画ファンの心を鷲掴み‼️退院したホラッパへのアンサのウインクもホント素敵‼️カウリスマキ監督からの我々映画ファンへのウインクであり、我々映画ファンからカウリスマキ監督へのウインクでもあります‼️カウリスマキ監督、次作も期待してますよ‼️
不器用な恋
チャップリンや小津安二郎が好きで
未来よりも過去を敬愛するアキ・カウリスマキ監督の作品。
不器用な中年男女の恋。滋味だが味わいが
ある役者の方々の演技。
不当解雇やアルコール依存性からから生活
の日常。その中で戦争のニュースがラジオから
ながれてくる。カウリスマキ監督らしい。
音響の使い方も良かった。メモ書きを無くす
シーンも。然り気無くクスッと笑う表情も
じわじわくる。携帯が出てこないのも良いよね。あと、監督の愛犬も可愛いかった。
ミニマルな環境下で過ごす彼らの現実。
今の時代に問いてくる映画なのでは。
忙しい最中、少し落ち着いた時に
観ても良い映画。
素敵なラストシーンでした。
感情を排した先にある、淡々とした心地よさ
労働者階級における、中年のシンプルな恋愛を描いた作品。
ほとんど感情表現がなく、セリフと虚ろな目線で語られるので、どこかロボットのように感じられるが、人間の器として逆に奥底の深いものが表現されている感覚がある。
ところどころに皮肉めいたユーモアがあり、くすっと笑えるところが、ちょっとしたスパイスとなる。
直近のPERFECT DAYSとは、同様な職業を扱い淡々とした、という点では似ているが、あちらは優雅でのびのびとした世界観、綺麗な面(だけを)描いているが、こちらはよりリアルに労働者を描いており、社会性を反映したものとなっている。
恋愛を扱っていることで、重すぎず、心地よくみることができる。
途中、電車で見送るシーンは、まるでシンデレラの馬車のようであった。
年末に落ち着いて観るにふさわしい作品であった。
2023年劇場鑑賞119本目
“懐かしさ”が沢山詰まった物語
分別せぇ
傑作
フィンランドのカウリスマキ監督が引退宣言を撤回し6年ぶりに撮った映画は、目の覚めるような傑作だった。監督自身が語っている。「無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、人類に未来をもたらすかもしれない、愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました」と。映画のなかではウクライナの惨状を伝えるラジオが流れ、それを聞く主人公アンサの失望感と怒りのセリフ。映画作家であるならば全世界の危機である現在に映画を撮らないでどうするのか。
さて本編。カウリスマキ独特の無表情かつ無動作の人物描写は相変わらずで、その映像に磨きがかかっている。ノスタルジックな雰囲気と音楽、それに色彩が魔法のように美しい。コメディー要素もあって笑いも忘れない。冒頭あたりのシーンで電車に乗っているアンサの厳しい表情からなみなみならぬものを感じた。監督の気概というかね。苦しくとも自分らしく強く生きる、他人には決して媚びない。または、運命には抗うことができない、という覚悟。そういった人間そのものを見せつけられた。物語も思いがけない方向に転がり目が離せない。途中、やせ細った野良が加わる。この犬がめちゃくちゃ可愛いのだ。おれは犬さんは苦手なんだけど、この犬さんとなら友達になれる気がした。しかも“チャップリン”と名付けられ可愛がられる。ラスト近くでずっと表情が硬かったアンサが微笑む。このシーンにはたまらなく胸をうった。邦画のやかましく幼いラブストーリーとは対極の表現。そういえば音楽も多彩でおもしろかった。バーで若い女性ユニットが歌うシーン、暗い歌詞で音程がずっと低い、でもそのメロディーがやけに心にひっかかる。あとチャイコフスキーの「悲愴」もいいところで流れる。エンドクレジットで確認したらムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルのメロディア音源。
枯れ葉は輝く
葉はいつしか若かりし頃の彩りを失い、老いて朽ちていく。しかし、枯れても美しく、冬の訪れを感じさせる秋の輝きとなっているのが葉の最期・枯れ葉だ。人間だって葉のように一生輝けるし、輝きを求めることに年齢は関係ない。どんなに過酷な状況に立たされても、いくら老いて孤独になろうとも、希望だけは持ち続けたいと強く思えた作品だった。
セリフが少なく、行間は多く、観客に感じとる力が求められる。ひょんなことから始まる恋物語。過酷な環境下で生きる2人が、お互いに見出した魅力。メロドラマとしてだけでなく、「PERFECT DAYS」のような今を生きる人全てに送る、最高の人間ドラマでもある。優しい光に包み込まれた、趣深い音楽たち。日本の曲だってたまらない。名画座で上映されるような作風であるため、最新作なのに、旧作を見ているような気分になれる本作。ジム・ジャームッシュの「デッド・ドント・ダイ」が出てようやく、現代であることを認識させる。
この映画を見て1番に感じたのは、まだまだ映画好きと名乗るには勉強が足りないなということ。いい作品であることは十分に理解できるけど、この物静かさには耐え難く、81分という短尺でも中々ハード。本作を絶賛するには、名画座で流れるようなコアな作品の鑑賞と知識が多く求められる。いやぁ、頑張らないとな。
なんだか古い映画のよう
淡々とした映画
俄かに現れた「運命」を感じさせる異性
フィンランド映画。Filmarksで「映画製作国」で検索してみると上位はほぼアキ・カウリスマキ監督作品。私自身も鑑賞済みはほぼ同監督作品です。とは言え、きちんと映画館で観たことがあるのは17年公開の『希望のかなた』だけ。当時の私は今ほど多くの映画を観ていなかったことと、その年も12月の公開で疲れも相まって、その地味な作品性に眠気との戦いながら観ていたことが思い出されます。そしてその後、コツコツと配信サービスなどでカウリスマキ監督作品を観進めていくうちに、作品を通して見えるフィンランド人の内に秘めた感情と、時折見せる味わい深いユーモアを感じ取れるようになりました。
本作『枯れ葉』についても映画館で予告編を見て気にはしていたものの、ここ最近の仕事の忙しさにかまけて「映画館じゃなくても…」と候補からは外していたのですが、全く無視することも出来ずに映画レビューサイトを確認すると思いのほか高評価。
昨日(23日・土曜)はうずうずとしながらも、朝、不意に入った海外からのチャット。先週後半に引っかかった案件に対する内容だし、月曜はクリスマスだし、ついつい返信したり関係者へ転送したりしているうちに午前中回に間に合わずで断念。したものの、さすがに本日日曜は予定がなかったので、意を決して(重い腰を上げて?)角川シネマ有楽町へ参戦です。公開館数の少なさもありますが、まぁまぁの客入りでした。
いつもの如く長い前置きになっていますが、
結論から言うと、悪くない、が観る人は選ぶかもしれません。若い方にはちょっと解りにくい「共感」こそがこの作品、ひいてはカウリスマキ監督作品の醍醐味なのかな、と。(わかった風なことを言っていますがw)
本作、81分と長編映画としては短い尺ですが、そもそも大きな展開はありません。「あるとき二人の男女が出会い、意識しあい、度々すれ違うようになってついに声をかけ、そして…」という、言ってしまえば在り来たりな話です。こう書いてしまうと「じゃぁ退屈なのか」と思われそうですが、いやいや、やはり味わい深い。
特に、50過ぎで独り身の私からしたら、これくらい微炭酸程度の刺激だからこそ心地よく、何気なく自分を重ねて顧みてしまいます。そしてまた、映画の中のミニマルな生活に「ないものねだり」とわかってながらも妙に惹かれてしまう感じもあります。低賃金でやりたくもない仕事を、ただただ生活のためと毎日通い、にもかかわらず理不尽を受ける。また、ラジオをつければ隣国ロシアによるウクライナ侵攻で多くの一般人の死を報じるニュースばかりが続く。くさくさするけど大した娯楽もないから飲みに行く。そんなとき、俄かに「運命」を感じさせる異性が現れたら、そりゃ歳相応にではあっても「浮つく気持ち」は痛いほど伝わってきます。
ただ、こんな風に書くと否定的に聞こえるかもしれませんが、私にとってはカウリスマキ監督作品はむしろ「配信」で観た方がしっくりくるのかもしれません。なんだか、家で一人でヘッドフォンして観ている方が、作品の登場人物たちに近づけてる気がするのです。お解りとは思いますが、あくまで個人的な意見。ただ、久しぶりに「こんな恋、素敵だな」と素直に感じたという「正直な感想」も書き添えて終わりします。
ゾンビ
犬
チャイコフスキーの悲愴と画面がリンク
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