劇場公開日 2023年7月14日

「70年代の「エクソシスト」へのリスペクト」ヴァチカンのエクソシスト 悶さんの映画レビュー(感想・評価)

4.570年代の「エクソシスト」へのリスペクト

2024年2月29日
PCから投稿

【鑑賞のきっかけ】
劇場公開時から気にはなっていたものの、劇場鑑賞までには至らなかった作品。
意外に早い段階で、動画配信が始まったので、早速、鑑賞してみました。

【率直な感想】
<1973年の「エクソシスト」と比較して>
あまりに有名な、ウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」(1973年)(以下、1973年版と称します)。
劇場公開時は、まだ子どもでしたが、大人になってからは、再上映やDVDで鑑賞を繰り返した記憶があります。
この作品は、ホラーにしては珍しく、アカデミー賞で脚色賞を受賞していて、抜群のストーリー展開が特徴です。
大人になって、じっくり鑑賞していて気づいたこと。
それは、なかなか「悪魔払いの儀式」が始まらないのです。
現代のカトリック教会では、本当に悪魔が憑依しているのはごくわずかと考えていて、多くは精神疾患だ、と。そのうえで、悪魔が憑依しているとしたなら、教会の許可を得て「悪魔払いの儀式(エクソシスム)」となります。
1973年版では、物語も後半になって、精神科医でもあるカラス神父が、本当に悪魔が憑依していると確信してから、やっと「悪魔払い(エクソシスム)」が始まるという流れです。
本作品では、悪魔に憑依された少年が精神疾患を疑われてから、実際の悪魔払いが始まるまでにはそれほどの時間はかけていません。現代の観客は、映画の世界では、「悪魔が存在する」という前提で鑑賞しているので、そこにあまり時間をかけたくないのでしょう。
と、ここまで長々と「悪魔の憑依か、精神疾患か」について述べてきたのは理由があって、この見極めが、本作品の悪魔との対決や、主人公のガブリエーレ・アモルト神父のトラウマとも関わっているからです。ストーリーに没入するための重要な要素となっています。
(これ以上は、ネタバレになるので書きません)

なお、1973年版を意識したシーンは、本作品にたくさん盛り込まれていますが、特筆すべきは、公開時にカットされていたあるシーン(2000年のディレクターズカット版で復活)が、本作品で登場することでしょう。

<教皇直属という設定の面白さ>
本作品の原題は、「The Pope's Exorcist」で、直訳するなら、「教皇のエクソシスト」となります。
実際、ガブリエーレ・アモルト神父は、教皇直属のエクソシストで、教皇自身も作品に登場します。
そこで、カトリック教会のトップである教皇としては、教会の秘められた過去も知っており、本作品の悪魔の正体が明らかになるにつれ、その秘められた過去が浮かび上がってくる展開はお見事。
また、「なぜ悪魔が少年に憑依したのか」という謎の解明にもつながってくる部分は、後半の展開を大いに盛り上げてくれました。

【全体評価】
1973年版へのリスペクトを捧げながら、緊迫感に満ちた展開で観客をぐいぐいと引き込む、新しい時代の「エクソシスト」に深い感銘を受けました。

悶