「後悔・焦燥・無力感。そして“一縷の望み“に揺れる親心。」ミッシング 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
後悔・焦燥・無力感。そして“一縷の望み“に揺れる親心。
娘(6歳)が突然に消えた。
ミッシング(失踪・消失・行方不明)
《ストリー》
普通のヤンママの沙織里(石原さとみ)は、推しのライブに出かけた
その日の夕刻、一人娘の美羽が、なんの痕跡も残さずに消えてしまった。
後悔と自責の思いに苛まれながら、必死に探す2年半を追う映画です。
ひたすら正気を失いかける紗織里を常識的感覚を持つ夫(青木崇高)が、
“あなたと私には、温度差がある“などと暴言を言われても必死で妻を
支える姿はリアルで真に迫り、他人事とは思えなかった。
失踪者は一年に2万人くらいいるそうなので、警察も事件が
起こってからしか捜索してくれないのは、いつものことです。
映画は地元のテレビ局の記者・砂田(中村倫也)の視点と、
並行して描かれます。
砂田も正しい報道と視聴率第一主義の現場で、揺れ動く男。
テレビ局の沙織里の弟•圭吾(森優作)への取材は、
完全なミスリードで、
これは圭吾を“半ば怪しい“と疑わせるものだった。
事実・圭吾は美羽を自宅の300メートルの場所で別れ、
裏カジノへ行ったたことが、防犯カメラの映像などで暴かれる。
子供が行方不明になった親は本当に無力だ。
SNSの誹謗中傷で心をズタズタにされ、
ビラを配る位しか出来る事がない。
豊の勤務する漁業組合の組合長の優しさが身に染みる。
沙織里にすればテレビ局の記者の砂田を頼るしかないのだ。
頼まれれば“どんなことでもします“
半ばマスコミの懇願に負けて、弟を晒し者にする側にもなる。
この映画は焦燥して疲弊する沙織里とそれを支える夫の豊を追っていく。
そして結局は視聴率なのだろうが、公正であろうと思いつつ上層部の
圧力に抗うことも出来ない砂田の弱さの視点・・・
自身の良心と功名心と自責の気持ちに引き裂かれる
・・・中村倫也の演技は近年の彼の作品にはない
厚みのある人物像を演じて、深みがありました。
スクープを撮ってキー局へ引き抜かれる後輩・・・
結局は血も涙もなくて、視聴者の興味と好奇心を満たすだけの人間が
のし上がりテレビ局の幹部になっていくのだな・・・と、
吉田恵輔監督のマスコミ批判精神が見えてくる。
石原さとみも「アンナチュラル」の出来る女、
「そしてバトンは渡された」の男を手玉に取る女、からは想像の
出来ない罵り言葉、錯乱した様子、放心した表情など美人女優の殻を
脱ぎ捨てた熱演。
夫役の青木崇高は「犯罪都市NO WAY OUT」のヤクザ、
「ゴジラー1・0」とはまるで違うバランスのとれた役で本当に上手い。
「美羽ちゃん発見・保護」とニセ電話をかける輩がこの日本には居るのだ。
他人の不幸を喜ぶネット民。人間の悪意に震える。
警察はちゃんと身元を名乗ってから話す・・・
もう、そんな着信元を確かめられない程追い詰められている沙織里。
(警察官が多分、顔見知りの刑事さんが、直接知らせに来ますかね)
この映画はミステリー要素は殆どありません。
その意味では沙織の苦しみに寄り添う映画です。
でもその辛さが痛いほどに伝わります。
しかし結末もミッシングのままでモヤモヤするばかり。
子供の足で5〜10分の距離で消えたとなると、事故か?誘拐?
しか考えられない。
(山梨のキャンプ場で消えた女の子の事件が、この映画のヒント・・・
なのでしようが・・・)
新潟の監禁事件では9年後に発見されて無傷で生きて戻ってきている。
千葉大生が少女を2年間も監禁して逮捕された例もあります。
美羽ちゃんがひよつこり帰ることもあるのです。
児童の通学路で必死に子供たちの無事を願う沙織里。
美羽ちゃんの無事を祈る心の支えだとしたら沙織里は心根が美しい。
いいラストだと思いました。