ナチスに仕掛けたチェスゲーム

劇場公開日:

ナチスに仕掛けたチェスゲーム

解説

オーストリアの作家シュテファン・ツバイクが1942年に発表し、命をかけてナチスに抗議した書として世界的ベストセラーとなった小説「チェスの話」を映画化。

ヨーゼフは久々に再会した妻とともに、ロッテルダム港からアメリカへと向かう豪華客船に乗る。かつてウィーンで公証人の仕事をしていた彼は、オーストリアを併合したナチスドイツに貴族の資産の預金番号を教えるよう迫られるも拒絶し、ホテルに監禁された過去があった。豪華客船ではチェス大会が開かれ、世界王者が乗客全員を相手に戦っていた。世界王者と船のオーナーの対戦の際、オーナーにアドバイスして引き分けに持ち込んだヨーゼフは、自ら王者と一騎打ちをすることになる。ヨーゼフのチェスの強さには、ある悲しい理由があった。

「帰ってきたヒトラー」のオリバー・マスッチが主演を務め、「ゲーテの恋 君に捧ぐ『若きウェルテルの悩み』」のフィリップ・シュテルツェル監督がメガホンをとった。

2021年製作/112分/G/ドイツ
原題または英題:Schachnovelle
配給:キノフィルムズ
劇場公開日:2023年7月21日

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(C)2021 WALKER+WORM FILM, DOR FILM, STUDIOCANAL FILM, ARD DEGETO, BAYERISCHER RUNDFUNK

映画レビュー

3.5ツヴァイク小説を映像で味わう楽しみ

2023年7月30日
PCから投稿

原作はウィーン出身の作家シュテファン・ツヴァイク。近年ではその著作の数々がウェス・アンダーソンの『グランド・ブダペスト・ホテル』に影響を与えたとして作中で献辞が捧げられたことも話題となった。そんなツヴァイクが遺した中編小説をもとにした今回の新作映画。邦題からは頭脳ひとつでナチスに戦いを挑む英雄譚のような印象さえ受けるが、決してそうではない。これはナチス・ドイツによる併合後のウィーンで監禁状態に置かれる主人公が、だんだん時間の感覚を失い、正常な感覚でなくなる中、たった一つの要素が彼の精神を支える話であり、はたまた、それだけではないとも言える。こればかりは自分の目で見て味わうのみだが、いずれにしても混濁する状況と意識の迷宮と、チェスをめぐる運命の絡まり合いが、観る者を惹きつける。思えば、ツヴァイク自身も様々な複雑な思いを抱えながら生きた人だった。この主人公といくらか重なる部分があるのだろうか。

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牛津厚信

3.5原作小説の脱構築を試みた意欲作だが

2023年7月23日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

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高森 郁哉

3.5Psychobabble

2023年6月22日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

The "fight-to-live under Nazis" story parallels to the oncoming release of The Survivor, but the game is not boxing. The film is stylishly photographed; at times it feels like we are inside Nolan's Inception dream. A skim of the source material's synopsis on Wikipedia suggests the film is true to the novella's abstractions. The score by Ingo Frenzel stands out as among the better in recent memory.

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Dan Knighton

3.5【”「チェスの書」今日、我々は精神力が無敵である事を信じなければならぬ。”ナチスによる精神的拷問に屈せず、一冊のチェスの本によりオーストリアの財産をナチスに渡さなかった男の物語。】

2025年2月1日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

ー ご存じの通り、今作はナチスに抵抗し続けたシュテファン・ツヴァイクの最後の短編「チェスの書」に着想を得て制作されている。
  フィリップ・シュテルツェル監督は、そこに大胆な改編を加えて見応えあるサスペンススリラーとして、映像化しているのである。-

■久しぶりに再会した妻ハンナ(ビルギット・ミニヒマイアー)とアメリカ行きの豪華客船に乗り込んだヨーゼフ・バルトーク(オリヴァー・マスッチ:コメディ「帰ってきたヒトラー」で、命懸けでヒトラーを演じた名優である。皮肉が効いているキャスティングである。)。
 船内ではチェス大会が開かれ、彼は船のオーナー、オーヴェン・マッコーナーに助言を与えて世界王者ミルコと引き分けまで持ち込んだ。
 ヨーゼフは王者から一騎打ちを依頼されるが、彼のチェスの強さには理由があった。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・今作は、上記粗筋と並行して、公証人でありオーストリアの富豪たちの財産管理を任されていたヨーゼフ・バルトークが、ゲシュタポのフランツ(アルブレヒト・シュッフ)により高級ホテルに、一年もの間幽閉され、富豪たちの金を収めた銀行口座を口外するように強要される姿が描かれている。

・ご存じのように、知識人にとっては肉体的拷問より、今作で描かれているように密室に閉じこめられ、人と話す事も、文字を読むことも禁じられると、精神に異常を来すケースが多いと言われている。

・今作では、ヨーゼフ・バルトークが精神的に追い込まれて行く中で、偶々廃棄される予定だったチェスの本を入手し、それを隅から隅まで読解して行く事で精神の平衡を”ギリギリ保ち”大切なオーストリアの金をナチスに引き渡すことを拒否し、結果的にチェスの世界王者と対等に戦えるスキルを得る過程がサスペンスフルに描かれているのである。

・但し、哀しいのはヨーゼフ・バルトークが精神的に追い詰められた結果、彼が精神病院に収容されてしまう点であろう。
 ここは、観る側の解釈に委ねられるが、アメリカ行きの豪華客船に乗り込んだ描写が、総てヨーゼフ・バルトークの妄想内で行われていた事であろうか。
 だが、それはシュテファン・ツヴァイクが亡命先で「チェスの書」を書き終えた後に、夫人と自害したという点と連動させているのだろう。
 今作のラストで流れる”今日、我々は精神力が無敵である事を信じなければならぬ。”というシュテファン・ツヴァイクの言葉は、大変に重いのである。

<今作は、ナチスによる精神的拷問に屈せず、一冊のチェスの本によりオーストリアの財産をナチスに渡さなかった男の”物語”なのである。>

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NOBU