「時代劇の「これぞ」という要素をふんだんに盛り込んだ上質の作品。薄明かりの下の生活感や影絵のような夕闇の映像が全編通して印象に残っています。」碁盤斬り もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
時代劇の「これぞ」という要素をふんだんに盛り込んだ上質の作品。薄明かりの下の生活感や影絵のような夕闇の映像が全編通して印象に残っています。
劇場では時代劇をあまり観ないのですが、この作品のポス
ターや予告映像からは、単なるエンタメ作品には無い何か
を感じまして、(内容で勝負)とでも言う雰囲気に惹かれて
鑑賞しました ・_・ハイ
重苦しそうな雰囲気も漂ってます。監督は誰?と確認したら
白石和彌。名前は知っていますが、過去に観た作品を調べて
みたら「ひとよ」 。 … あぁ あれかぁ と。(・-・)
他の関連作品をほぼ観ていないので、これだけで作風の判断
は出来ないな…とは思ったのですが、何となく重苦しそうな
作品だろう と勝手に予想。 ・_・; シマシタ
まあ 清原果耶さんが時代劇に出演する作品も初めて観るので
それを楽しみに ということで悟りを開いて鑑賞です。
さあ鑑賞開始。
で お話は…
◆
江戸で浪人暮らしの父と娘。この二人が主人公。
父の名は柳田格之進(草彅剛)。
娘の名はお絹(清原果耶)。
家賃の支払いを半年近く溜めてしまう貧乏暮らし。
柳田格之進が時折「印章の刻印」の仕事を請け負い、ある程度
まとまったお金を得ているようだが、いつも仕事がある訳では無い。
日々の暮らしは、お絹が着物の直しなど手仕事を請け負ってお金
を稼いで賄っている。 …のか?(家賃滞納 5カ月…)
柳田格之進は、数年前までは彦根藩の武士だった。
「進物係」。といったか(贈答品などの管理?注文?値踏み?)
狩野派の画が紛失した事件(実は仕組まれたワナ)の責任を
取らされ失職。江戸へと流れてきた。
囲碁が趣味で、かなりの腕前らしい。
印章の売り上げ1両を手にした帰り道、たまたま覗いた碁会所で
賭け碁でお金を巻き上げている男と出会い、勝負を受けてしまう。
賭け碁の相手は萬屋源兵衛(國村隼)。
この辺りでは敵う相手がいないくらいに強い囲碁打ちだ。
途中まで、楽勝ムードで手を進める源兵衛だったのだが
柳田格之進のある一手を見て顔色が変わる。
” やられた ”
自分がどこに石を置こうが、次の柳田格之進の一手で負け確定。
こんな手があったか と負けを覚悟していたのだが、意外にも
柳田格之進は次の手を打たず、のみならず投了してきたのだ。
掛け金1両を置いて立ち去る柳田格之進。 ( 家賃…)
” 何故だ? ”
対局の後も、勝っていたのに負けを宣言して立ち去った男の
事が気になって仕方がない源兵衛。
この萬屋源兵衛。本業は店を構えて商売をしている商人だ。
古い皿や壺などを買い取り、欲しい客に売る、古物商(?)。
この店から買った商品が割れていた、と難クセをつける悪質な
客の対応に苦慮しているところに、たまたま出くわしたのが
柳田格之進。品物の目利きをしようと申し出る。
「500両払え」と主張する商品が二束三文の価値しかないことを
見破って追い払ったことをきっかけに、柳田格之進の清廉潔白な
人柄にほれ込んだ源兵衛との交流が始まった。
のだが…(暗転)
源兵衛の店で碁を打っていた柳田格之進。
酒でほろ酔いの源兵衛に、店の者が「お得意様からの集金」50両
を渡しに来たのだ。
次の日、源兵衛が受け取ったはずの50両がどこにも見当たらない…。
” あの日、源兵衛と同席していたのは… ?”
柳田格之進しかいない…。そう考えた番頭が弥吉(中川大志)に
柳田格之進にその話をしてこいと命じる。しぶしぶ出かける弥吉。
果たして。話を聞くや、激怒する柳田格之進。
” 私は武士。他人の物に手など出さぬ ”
盗んではいない。が、疑われた50両もの大金をうやむやにしては
おけぬ と柳田格之進は考えた。
印章の仕事でかねてより親交のある吉原の女将から50両を借りて、
その金を弥吉に渡しにいくのだが、その際の宣言がとても恐ろしい。
” この金は、盗んだ金を返すのでは無い ”
” この後、無くした金が出てきたら どうする? ”
” その時は、おぬしの首をもらい受けるぞ ”
” お主だけではない 主人源兵衛の首もだ ”
弥吉は源兵衛の遠縁にあたるが、元々は武士の子だったという。
二言は無いな? と念を押され、うなずく弥吉。
#お絹が50両の借金のカタに入っていること。
#借金返済の期限が大晦日であること。
そのような大事を、源兵衛も弥吉も知らない。
折しも、彦根藩を追われる原因となった掛け軸の紛失の犯人が
分かり、その人物が逃亡しているとの報せを持って、かつての
同僚がやってきた。さらには、妻が自害した原因がその真犯人に
あることも分かり…
大晦日が過ぎると吉原の遊女に落ちてしまうお絹。だがお絹は
父が犯人を追いかける事を託した。苦慮の末、犯人を追いかけ
る柳田格之進。中山道の宿場で「そいつ」を見かけたという情
報をたどり、同僚と二人犯人を探し回るのだが…。
さあどうなる 敵討ちの顛末
さあとうなる お絹の運命
というお話です。ドキドキ。
(読み返したら長い ひぇ… @_@; )
◆
登場人物の描き方が素晴らしい作品でした。・_・v
柳田格之進の草薙剛。 融通の利かない実直な武士を好演。
お絹の清原果耶。 父を助ける武家の娘を好演。
源兵衛の國村隼。 柳田格之進との交流で人柄が丸く。
弥吉の中川太志。 やや頼りなげな若者だったのが…
お話に盛り込まれている要素も素晴らしかった。・_・b
・浪人の父。父を支える娘
・仇討ち。殺陣。見事。
・貧乏長屋。人の良い大家さん。
・借金。カタに娘。迫る返済期限。
・吉原。炎上(…しません)
最後まで、ハラハラしながら見入ってました。
久しぶりの時代劇を充分堪能しました。
良かった。満足です。
◇あれこれ
■石の下
囲碁の用語、と知りました。(三年居てもダメです)
相手に石を取らせておいて更に多くを取り返す。という打ち方。
実戦で見る事は余り無いらしいです。(詰め碁とか)
それなのに大事な一局でこれを食らった柴田兵庫(斎藤工)。
知らず、自分の方が柳田格之進より囲碁が上手いと、相手を見下し
油断や傲りがあったということなのでしょうか。
最初の方で、吉原の女主人お庚(小泉今日子)に囲碁を教える場面
があって、この打ち方がさり気なく描かれていました。
ストーリー上、重要かつ絶妙な伏線でした。・_・
■草薙剛さん
時代劇の出演を観たのは「BALLAD 名もなき恋のうた」以来。
その作品でも「朴訥な武士」の役でした。(井尻又兵衛)。
淡々としながらも感情を込めたセリフの言い回しからはこの人独特
なモノを感じます。この作品のこの役、適任だったと思います。
■清原果耶さん
時代劇の出演は初めてではないかな? と思います。
武士の娘役も問題無くこなせてしまうんだなぁ と感心。・-・
あ、江戸時代モノでは無いですがデビュー作(多分?)は
NHKの朝ドラ「朝が来た」だったかと。女中役。
江戸から明治にかけてのドラマでした。一応時代劇?
■中川太志さん
碁を覚えたら? と源兵衛に薦められても「頭が痛くなる」と全く
気乗りしていなかったのが、「この長屋に通って」と言われた瞬間に
「やります」 …光速の変わり身
お絹さんがいる所なら行きまーす。と、心の声がダダ漏れでした。
■碁盤斬り
柴田兵庫との碁の対局中に起きる出来事とばかり思ってました。
実際には…この場面か と。見事にやられました。
(予告編にミスリードされた気もします…。なんか悔しい)
それにしても、あの分厚い碁盤を真っ二つに斬るのって余程の剣の
腕が無いとできないですよねぇ。
◇最後に
最後の場面のその後
柳田格之進は、お絹と弥吉の祝言を見届けた後、一人旅に出ます。
目的は多分、彦根藩時代に自分のために職を追われた者たちに詫び
そして絵を売った金を分配するためなのでしょう。
それが一通り終わったとして、その後。お絹たちの元へ戻ってくる
つもりななのか、そのまま戻らないつもりなのか。
最大の気がかりだったであろう「お絹の将来」の事は、お絹と弥吉
が夫婦になった事で心配無用になったと思われ、必ず戻って来なけ
ればいけない理由も無くなった とも考えられます。
しかし、柳田格之進は源兵衛との「打ち掛けの碁碁」を差しかけた
まま旅に出ました。これは「全てを終わらせた後」に勝負を続けた
いとの気持ちからで、全てを終えたら戻ってくる …とも思えます。
うーん 深いです。
数年後、縁側には源兵衛と碁を打つ柳田格之進の姿があり、
部屋の中から、若夫婦の笑い声と子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。
このお話が そんな未来へと続いていますように。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
共感をありがとうございます。
>数年後、縁側には源兵衛と碁を打つ柳田格之進の姿があり、
部屋の中から、若夫婦の笑い声と子供のはしゃぐ声が聞こえてくる。
そうであることを願ってしまいます
源兵衛は両替商、金貸(質屋)だったような。まあ、大抵の話では嫌われ役です。一度質に入れたあんな汚い茶碗が割れたのを店のせいにして三百両も吹っ掛けてくるやくざモンをギャフンと言わせ、追い返す格之進。源兵衛にとっては碁の勝負の借りがあるうえ、お目利き役兼用心棒で、都合がよすぎ。
ハンコの手間賃は一両でしたっけ?もう忘れてる!進物係でしたか。お宝管理係ですよね。詳しいストーリー再現ありがとうございます。いろいろ補完していただいて、スッキリしました。