「これを最高に楽しめない人が多いらしいのが意外」ミッキー17 60代の男ですさんの映画レビュー(感想・評価)
これを最高に楽しめない人が多いらしいのが意外
[60代男です]
僕は高齢だから楽しめた? 若い人には楽しめないのか?
物凄く面白かったのに。
本作はレビューを書かないつもりだったのに、ここでの評価が自分と落差があるのに驚いて、書くことにした。
主演のロバート・パティンソンがこれまでのカッコよさを振り捨てて、三枚目で頭の悪いダメ男を、驚くほどなりきって演じている。どっちもいけるとは、イ・ビョンホンみたいだ。
主人公は死ぬような任務どころか、何分で死ぬか確かめる人体実験に使われたり、使い捨て前提で何度も殺される。このあたりは「亜人」のオープニングを思い出させる、非人間的な感覚。ユーモラスな演出になっているが、かなり残酷でひどい話だ。
ところで、こういう主人公の複製が現れるシチュエーションの作品で、これまで作られた映画は、必ずその主人公2人のやりとりが物語の中心でありすべてだった。その2人がどうするのか、それだけ。
複製と協力するって話は小説でしか読んだことがなく、僕は不思議なのだが、映画では必ず複製とは殺し合いをしなければおさまらない。いつもそれを描くだけの話になる。
ほかの登場人物たち、たとえば恋人が出てくるパターンが多いが、そのときその彼女なり彼は、主人公と複製が奪い合う対象でしかなく、主人公に複製がいることを知ったときの反応も、ただ驚いたり拒絶したりという普遍的でありきたりな反応をするだけで、それを主人公がどうやっておさめるかということのみが描かれるだけ。恋人のほうは個性も意思も持っていないのが当たり前。
本作も最初はそうかと思っていた。
しかし違った!
なんと主人公の恋人の女性は、主人公が2人存在することを知ると、好きな男が2人になったと喜んで、はしゃぐのだ。
言われてみれば変じゃない。気持ち悪いという感情が先に立つのが普通かもしれないが、好きな男二人と同時にベッドで楽しめるという発想をする人がいてもおかしくない。
つまりこのキャラクターは画一的な性格とは違う個性を持っているのだ。そしてそのあとも生き生きと存在感を発揮し続ける。
これは作り話なのだから、登場人物の行動など、もちろん作者が好きなように操っているわけなのだが、それをそう感じさせてしまうなら、脚本家や演出家や役者が無能だということ。
登場人物たちが、主人公以外まで、みんなそれぞれに個性と意思を持って行動しているように感じさせてくれれば、現実に目の前で起こっている出来事のように、いったいどうなるのかと物語に没入できる。
本作は見事にそうなっている。
この恋人が喜ぶシーンに意表を突かれて驚き、そこからは引き込まれて充分以上に楽しめた。
トニ・コレットとマーク・ラファロの憎々しさも最高だ。
悪役の憎たらしさは娯楽映画を面白くする重要な要素のひとつだが、これはそこも満点。
あと、新しく再生された主人公が記憶を注入されるときに、そのケーブルを看護師が足に引っかけて外してしまい、あわてて刺し直すが、ほかの人たちはそんなことまったく気にしていないというシーン。ほんの2・3秒の描写で、主人公がどうでもいいような扱われ方をしていることを強く印象付ける、良いシーンだった。
とにかく面白かった。