「おとなの事情で小学校を守った校長先生。」怪物 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
おとなの事情で小学校を守った校長先生。
是枝監督は、こどもの自然な演技を引き出すのがうまいという印象がある。この作品は、是枝監督の脚本ではないようだが、今までになくこどもたちの演技が印象深かった。湊と依里の友情物語のような話は、最近の映画では見たことがないので新鮮であった。火事が起こった時を起点に、「母親の視点」「教師の視点」「こどもの視点」と三部構成になっているのもとても効果的だと思った。それは立場や見方が違えば、物事が違った意味を持つという単純なことだが、この作品においては、おとなの世界とこどもの世界の対比を鮮やかに描く効果がある。おとなになると守るべきものが増える。他から攻撃されることも多いが攻撃する手段も身に着けている。「思い込み」や「一方的な正義」にとらわれると、相手を激しく攻撃して収集がつかなくなることはよくある。母親が息子が学校で不当な扱いを受けていると思って教師に抗議したり、教師が表面的な事実しか見えなくて、生徒の親をモンスターペアレント扱いしたり、こどもを不公平に扱ったりする。そして何か事が起きるとマスコミが興味本位で書き立てて当人を傷つける。また、「体面」が重視されるため、取り繕ったり、嘘を平気でついたりする。それがおとなの世界とも言えよう。それに比べてこどもの世界は狭いだけにしがらみが少なくて単純だ。湊と依里はおとなたちの思惑に振り回されているが、自分たちの世界をしっかり守っているように見える。湊の依里に対する、恋心にも似た好意が健気であり共感できる。おとなたちが誰かを「怪物」扱いして誤った方向に向かっているのに、こどもたちは傷つきながらも人間的に正しいふるまいをしている。そんなおとなとこどもの世界をつなげているのが校長先生のように見えてきて、田中裕子の演技が印象的であった。
「万引き家族」と同様に、分かりやすい内容ではないので、解釈は見た人にお任せしますという感じである。個人的にはとても面白かった。