「シングルマザーとシングルファザー」怪物 ミカエルさんの映画レビュー(感想・評価)
シングルマザーとシングルファザー
この映画は、母親、教師、子供の3つの視点から事象を捉え、その真相を明らかにしていくという構成になっている。学校で起きたケンカをきっかけに、息子を愛する母親は、息子の主張を信用し、学校に対して猛烈に抗議をする、生徒思いの教師は、生徒がついた嘘からあらぬ疑いをかけられ学校を退職せざるをえなくなる、無邪気な子供たちは、秘密基地を作って楽しそうに遊んでいる、3者のそれぞれ異なる真実がわかることによって、観ているものは登場人物の敵になったり味方になったりする。
生活環境が似ている2人の子供の育ち方が気になった。シングルマザーが息子を育てる場合、父親のようになってほしいか、父親のようにはなってほしくないか、どちらかであるが、この映画では、死別であるためか、母親は息子にラガーマンであった父親のように男らしくなって、普通に結婚してほしいと期待をかけている。それが、息子には重荷になっていて、実際の自分は全く別人で父親のようにはなれないという自覚がある。仮に父親が生きていて子育てにも携わっていれば男らしくなれたのか、生まれつきのことなのでしかたがないのか、わからない。シングルファザーが子供を育てる場合、自分のようになってほしいと願う。しかし、思い通りにならない場合、どうなるか。この映画では、父親が息子に対して、体中に痣ができるくらいの暴力を振るい、「お前には豚の脳ミソが入っているという暴言を吐く、息子の憎しみは頂点に達し、ついには父親が通っているガールズバーのある雑居ビルへ着火ライターで放火する、という事態を引き起こす。
自分の思い通りにならない親の苦悩、親の期待に応えることができない子供の焦り、程度の差こそあれ、どんな家庭であっても、思い当たる節はあるはずだ。誰もがいつ怪物になってもおかしくはないのである。