劇場公開日 2023年2月3日

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「多くの人に見てほしい作品」生きててごめんなさい R41さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0多くの人に見てほしい作品

2024年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

知的

難しい

オープニングの居酒屋で言い合う男女。言動の激しさと注文のあやふやなことに右往左往する店員、その様子を見つめる一人客の男。
主人公が誰なのかわからない面白さが隠れている。
店員だけがつけている名札。「りな」 主人公は修一のようだが彼女も主人公と同じ位置にいるような気がした。
人の内面を描くのが作品であれば、その内面が変化するのが修一で、変化しないのがリナ。

一般常識のない女性 ただ生きているだけ 人はみな彼女に対してそう思っている。
「夢もなく、働いてない人はダメ人間か?」
これがこの作品が投げかけている問いだ。
リナは「ダメ人間とは何ですか? それは誰が決めるのですか? 生きていればそれでいいじゃないですか」
純粋なこの答えは、本来誰もが持つ心の普遍的な尊い場所に突き刺さる。
小説家になるのが夢で、人に認められる才能が有り、出版社に勤めている修一。
居酒屋でモンスターハラスメント客の怒りを買ったリナと出会い、一緒に暮らし始める。
修一が考える理想の文芸と隣席に座る女性同僚の推すブロガー。認識の違い。思考と心の違い。嘘と本音。これは伏線だと思っていたらそれが大どんでん返しだった。
誰から見てもダメ人間風なリナ。
しかし彼女には純真さとそれを素直な言葉にできる才能があった。
仕事上のトラブルから自宅に忘れてきたノートを持ってこさせたことがきっかけで、リナの才能が作家に認められる。
やがてそれが修一のプライドを蝕み、ジェラシーとなって表れる。
「私西川先生のところでアシスタントをお願いされてるの」
「そんなことリナにできるわけない」
リナは聞く「修一は私の何が好きなの?」
「かわいそうだから」
これが決定的になって二人は別れる。
リナと別れてしまった修一は西川先生との打ち合わせを反故にした。
逃げるように、先輩の出版社の新人賞に応募するために毎日書き続けた。
しかし、締め切りに間に合わず、先輩にもなじられた。
すべてが逆転した。「お前なんか真剣に生きている人の邪魔だ。お前は周りの人間を不幸にしただけだろう」 修一はダメ人間のレッテルを貼られた。
仕事上問題を起こした修一は会社をクビになり、出版業界をあきらめて公園遊具のメンテナンス会社に就職した。
そこで出会う恋の予感、過行く時間。
リナはアシスタントと自分のブログに2万人のフォロワーが付いたことで本を出版した。
ついに二人の人生が逆転した。
荷物を取りに戻ってきた彼女。「ねえ、送ってっていい?」 当時と逆になった状況。
そしてようやく本音で語り合う二人。でも彼女が落としていった部屋の鍵。別れ。
修一は彼女の出版記念トークショーに出かける。彼を見つけたリナ。
私は作品に引き込まれ、何も変わっていない彼女の素顔とそのたどたどしいトークを見ていたら、涙があふれてきた。もしかしたらこれが修一の気持ちなのかもしれない。
隠れるように修一を見守るリナ。そして出会ったあの居酒屋へ行く。あの場所。たどたどしい会話。
「恋人はいるの?」「気になる人ができた」
彼女はトイレに行くと言って店を飛び出した。
慌てて追いかける修一。 踏切。
「ねえ、これはさ、これはさ、一緒に渡っていいやつ?」
リナの質問に修一の横顔がアップされてこの作品は終了する。

ダメ人間 社会常識 生きづらさ…
誰かを好きになる純真さも捨てられた犬を助けたい思いも、同じ純粋さの中にあると思う。
あの捨てられた犬がリナのモチーフだ。
リナの行為はすべて誰かの言葉によって批判される。それが一般常識だからだ。
同棲し始めたころに修一に甘えるリナは、犬と同様純真無垢だ。
「一人じゃ何もできないくせに」と罵られも彼女は我慢できる。
でもリナにはどうしても受け入れられないことがある。それが「他の女」の存在だ。
裏切られることは彼女にとって絶対我慢できない。
リナは変わっているが鬱などの病名はない。彼女は自分自身にレッテルを貼らない。
そして自分に嘘をつかない。取り繕うこともしない。一般常識から外れていてもそのままの自分でいようとする。
これが彼女の魅力で、修一が持っていなかったもので、彼が忘れてしまったことだ。
その大切なものを、彼女と別れ、彼女の成功を見届けたことでわかったのかもしれない。
彼が編集長に「そんな本のどこがいいんだ」 初めての本音だった。その言葉に同僚も賛同した。彼女は「イキゴト」のフォロワーで、リナの視点を持っている者だ。
やがて修一は夢をあきらめるが、本来の自分自身を取り戻していく。
トークショーに行くことができたのも、嫉妬が消え自分自身に変化が起きたからだ。
変わらない彼女。その強さ、性格、それらを走りながら見た修一は彼女の問いかけにどうするのか? 「それは、あなただったらどうしますか?」 視聴者に委ねられているのだろう。
正解はない。どっちも正解だ。それは生き方であり考え方である。 そこに自由さがある。
タイトルの「生きててごめんなさい」とは、一般常識に囚われている現代人への当てつけだと思う。

R41