テリファー 終わらない惨劇 : 映画評論・批評
2023年5月30日更新
2023年6月2日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
鑑賞注意 ホラー映画史上最大級の陰惨さを誇るアート・ザ・クラウン登場
特殊メイクアップ・アーティスト出身のダミアン・レオーネ監督が、自身が生み出したホラー・キャラ「アート・ザ・クラウン」を主人公にした長編「テリファー」シリーズ第2弾。クラファンのIndiegogoで製作費を募り、コロナ下の撮影中断を乗り越え6年がかりで完成させた入魂の一作。前作比で製作費は7倍に増額するも、全世界興収は200倍の1500万ドルを超える大ヒットを記録している。
マイルズ郡の大量惨殺事件から1年、アート・ザ・クラウンは復活を遂げ、再び悲劇が始まっていた。その出現に警鐘を鳴らしつつ亡くなった父を持ち、その遺志を受け継ぐ少女シエナと弟のジョナサンは、ハロウィンの夜に凶行の限りを尽くすアート・ザ・クラウンと遭遇、対決の時を迎える。
母親が大のホラー好き、名作「オーメン」の主人公に因んだ名前を与えられ、2歳の時から「ジョーズ」や「ランボー」、ジョージ・A・ロメロ作品など、大量のビデオを観て育ったというレオーネ監督。1960~70年代の映画を愛し、トム・サビーニの影響を受けたゴア・シーンの数々は、特殊メイク出身の監督がレトロ趣味を全開にさせた技術の結晶だ。メイキングを見ると、自らチューブをくわえて空気を送り込み血飛沫を飛ばしたり、クラウンのメイクから死体造形まで手がけており、CG全盛の今に逆行するこだわりのアナログ手法を貫いている。
さらに、舞台出身で声優でもあるデビッド・H・ソーントン演じるクラウンも斬新だ。仏のパントマイマー、マルセル・マルソーのようなモノトーンの出立ち。一切の音声を発さないものの、表情と仕草で喜怒哀楽を表現しながら、標的を無慈悲に葬る姿は、これまでに多く登場した殺人ピエロ・キャラの中でも最大級の陰惨さを誇っている。また、監督の実際の姉をモデルにした、ローレン・ラベラ演じる戦うヒロインのシエナの熱演によって、前作には無かったドラマ性と深みが作品に加わっている。
3部作を意識したエンディングで、次作でシリーズをどう収束させるか、早くもファンの興味はそちらに向かっているが、監督自身「暴力は欠かせない」とコメントしているだけに、更なる過激度が期待出来そうだ。A24など最近のホラー映画はジェンダーや人種、宗教など複数の要素が絡み、高いコンテクストで新たな層を開拓している。だが、本シリーズのように直球の人体損壊スラッシャー映画を待望するファンも確実に存在する。聞けばレオーネの最も好きな映画監督の一人がデビッド・クローネンバーグだとか。その高みは遥かに遠いかも知れないが、このシリーズを皮切りに、今後思いがけない可能性を秘めた監督であることは確かだ。
(本田敬)