「史上最恐の高所体験」FALL フォール 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
史上最恐の高所体験
東京スカイツリー(=634メートル)とほぼ同じ高さの廃テレビ塔へ登るというワンイシュー映画。予想よりずっと良かった。エクストリームスポーツのインフルエンサーが、許婚をうしなった悲しみを克服するために、より危険なことに挑戦するてな感じの筋書きだが、垂直方向の孤立と緊張状況へもっていけばあとはストーリーを必要としない。が、ストーリーもよかった。
部屋でたいしてデカくないモニターで見たが高所で落ちる危険性がある表現がおそらく映画史上もっともしつこく繰り返される。なので高い場所で怖じ気ているときの股関節のあたりがひくひくする感じを映画時間たっぷりたのしめる。もしそれがたのしめるならだが。
加えてFinal Destination風の「緩んでいてもうすぐ外れるネジ」表現もねちっこくある。なにしろ2,000フィート(610メートル)の鉄の廃塔。鉄は錆びきっていて、登っているそばから崩れ落ちる。スリル満点というならそのとおりだが、高くて危なくて見ちゃいられないという感じだから、最恐ホラーよりずっと神経負担が大きかった。
加えて相棒が許婚とデキていたことが発覚し、およそ地上600メートルで発生させるようなことではない三角関係のもつれが発生するし、幻想落ちも禿鷲の生食もあって、たぶん寿命も数分は縮まったにちがいない映画だった。人によっては完全虎馬になるのでおすすめはしない。
田舎の町へいくと公民館などに物見と鐘を頂いている火の見櫓がある。うちの近所にもあって消防団に入ると火災予防週間のときは朝晩そこへ登って打鐘信号というのをやる。
あの櫓って端から見ると別にどうってことない望楼なんだが、いっぺん登ってごらんなさいよ。せいぜい高さは15メートルなのに毎回立てなくて膝ついたまま一点四点の警報点鐘を打った。
高所恐怖症ではないが身体がむきだしだと怖さがぜんぜん違う。
出初め式ではしご乗りをやる鳶職の人がいた。わたしの地域にも(与太者じゃない)鳶職の人がいて、そういう人らは高所がぜんぜんいける。はしごは高さが5、6メートルだが青竹で軋むし、下は人が支えているだけなので揺れる。ただしはしご乗りなんてそう言っちゃなんだけど別に面白くもないし、てっぺんで技決めるのを、たいしたことねえなあと思って見てたのを思い出して反省した。
思うに女がはしご乗りやったら団員不足解消するんじゃないか、と本作のヒロインのレギンスを見ながら思った。しかし消防団出初め式でレギンス履いた女がはしご乗りはやらんだろぜったい、とは思った。
ドローンカメラもよかったし肉感あるヒロインもよかった。
グリーンスクリーンやデジタル処理は使わないで山の上に30メートルのセットを設営して撮影をおこなった、とのこと。その際主演のふたりGrace Caroline CurreyもVirginia Gardnerもじぶんでスタントをやったそうだ。ひええ。
AI技術が進歩して、例えばバク転をやっている場所を崖っぷちに背景変換できたりするのをTikTokなんかで見たりするが、この映画は視覚的な信憑性にこだわったという。4億3千万円というあちらではかなりの低予算から想定外のスマッシュヒットを飛ばし、ツーもスリーも企画されているそうだ。この話ツーとかスリーになるんかいな、という気はしたがワンイシュー(単一論点)アイデアを利益に変えたのは映画人として最大の達成だと思う。imdb6.4、RottenTomatoes79%と79%。